やってはいけないこれだけの理由

第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」

成功体験から抜け出し、臨機応変に対応できるか?


ドルが今後上昇すると予想することをドル・ブル、逆に下落することをドル・ベアと呼びます。

私が大学卒業後に入行した時代は、プラザ合意からまだ数年しか経っていないこともあり、ドルは売っていれば儲かるという習慣に慣れたディーラーが多くいました。

そのドル・ベアにこだわり続けたディーラーは、その後は儲からなくなり市場から退場。

一方で臨機応変に考えを変えていったディーラーはその後も長きにわたってFXの世界にいました。


これと同じようなことが、ここ最近でも目立っています。

それはアベノミクス後は円キャリートレード(円を売って・外貨を買う)をやっていれば、だいたいは儲かっていた人が多かったことで、執拗な円売りを繰り返しているFX関係者もいまだにいます。


プラザ合意の円高、アベノミクスの円安で儲かった成功体験から抜け出せないでいる人が多くいるわけです。


もっとも、為替相場において中期的、長期的のトレンドがあることで、そのトレンドをフォローすることは決して間違えてはいないでしょう。

しかし、FX市場で儲けることが出来る人は、たとえ中長期的にドルブルであっても、臨機応変に短期的にはドルロングからドルショートに切り替えられるかがもっとも重要になります。

偏った考え(バイアス)を持たないで取引ができるかが最も重要なのです。


IMMがスクエアでも偏った考えになる


今回、バイアスがかかった考えがなぜ多いと感じているかは、8月相場で円高に動いていたのにも関わらず下記のようなコメントをする人があまりにも多かったことが理由です。


それは、7月末に日銀が利上げを開始し、今後も再利上げを検討し始めたことで

商品先物取引委員会(CFTC)が投機筋の先物ポジション状況(通称IMMポジションと呼んだりします)が、ほぼ円のポジションをニュートラル(ロングでもショートでもないスクエアの状態)にしました。

それまでは、長い間大量の円ショート(円キャリートレード)を解消したわけです。


この時に、「IMMがスクエアになったので、ここからまた円を売れる余地が出た」と複数の方がコメントしているのを見かけました。

普通に考えると、その時点でIMMはブルでもなく、ベアでもないニュートラル状態にしたにも関わらず、なぜ「円を売れる余地が出た」とコメントしたのでしょうか?

それはそのコメント主が、円ベア(円キャリートレード)が正しいと偏った考えを持っているからです。

逆に考えればIMMはスクエアなのだから、「円をまだ買う余地」もあるわけなのに、バイアスがかかり過ぎているわけです。

このような発言があまりにも多く、市場が円キャリートレードから抜け出せていないということが表されたわけです。



難しいが一度ニュートラルな思考に戻し、worst-case scenarioを頭に


私も「これは下がる(上がる)!」という偏った気持ちをもって作ったポジションをなかなか切ることが出来なかったことが何度もあります。

そうでもしないとポジションを持つことさえできなくなるでしょう。

よって、ある程度アイデアをもってポジションを持つのは間違えではないです。


ただ、儲かっていない相場が続いた場合は、一度どこかで冷静になる必要があります。

その時は自分がドルロングだったら最悪ドル売りのニュースが出たらどこまで下がるだろうか?などとワースト・ケイス・シナリオ(worst-case scenario)を頭に入れて危機管理をするのが良いでしょう。


いまだに、いろいろな方が偏った考え(バイアス)を吹聴しているFXの世界ですが、惑わされてはいけません。

常にニュートラルな思考も持ち、臨機応変に動けなければ、FXでは儲けることはできないでしょう。






この連載の一覧
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第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
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第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
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第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
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第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
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第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
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第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
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第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
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第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
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第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
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第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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