信用してはいけないFX指南役
先週の「どのFX指南役が信用できるか、その1」で、ディーラー間の椅子取りゲームが続いていったことなどを中心に、為替ディーラーの歴史を簡単に説明しました。
金融機関から早めに退場した人は「儲けることが出来なかった」ということもありますが、それよりも気を付けなければならないのは、為替の世界の情報が古いことです。誤解をされないように記載しますが、経済のファンダメンタルズや世界各国の諸事情を深く知ることに、金融機関の退場時期などは関係がありません。よって、このような経済情勢などについての説明をしている指南役の説明は、FXを始めたばかりの方の参考になると思います。しかし、それ以外は注意が必要です。
かつては横のつながりで情報交換があった
問題なのは退場時期が早い元ディーラーが、古い為替の常識が現在も同じと思い、それを説明していることです。
かつてはディーラー間には横のつながりがあり、違う銀行同士で情報交換をこっそりしていることが多くありました。
もちろん守秘義務があるわけで、大っぴらに情報を教えることはできません。
ディーリングルームの電話は、売買の記録を後から確認できるようにするためすべて録音されています。
よって、「トヨタ自動車が140円に1億ドル(100本)売りを置いているよ」などと、電話で話すとコンプライアンス違反になり、解雇されます。
それを隠すためにディーラーは「田中さんのところは少し140円に売りがあるらしいよ」という会話をします。
この場合は
「田中さん=TからはじまるのでToyota」
「少し=100本(1億ドル)」というような暗号をお互いに使っていました。
これがHondaなら「服部さん」になったり、売り玉が300本以上なら「たくさん」、500本以上なら「いっぱい」などと暗号を変えておきます。
このような悪い習慣が完全になくなったかは定かではありませんが、明らかに減少しているはずです。
減少するきっかけとなったのが、ロンドンで起こったLIBORの不正操作事件です。
複数の金融機関のディーラーがカルテルを組み、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)不正操作を行っていたわけですが、これにかかわったディーラーが逮捕される大きな事件になり、多くの銀行は数百億円から1000億円以上の賠償金を支払うことになりました。
(余談ですが、私が当時働いていた金融機関もこの不正に加わっていたため、この不正操作の捜査チームに加わるようにロンドン本店から要請を受けたことがありました)
なお、私が働いていた金融機関はディーリングルーム内の携帯電話使用は厳禁で、一部の部門では出勤後は携帯を上司に預けるところもありました。
事情通のFX指南役の言葉には騙されるな!
この事件をきっかけに、金融機関はよりコンプライアンスに厳しくなり、ディーラーもクビだけでなく逮捕される可能性もあることで、情報交換を行うリスクを取らなくなり、2010年以後は情報交換にはかなり敏感になっています。
また、金融機関の現役ディーラーにとって、元ディーラー(FX指南役)に情報を伝えても、リスク(解雇)とリターン(ほぼない)を比較すると、情報を伝えるメリットが無いわけですから、FX指南役へこのような情報は伝わりません。
私がまだ金融機関で働いていたころに、金融機関を去ってFX指南役として活躍している人から「いま米系ファンドが売ったらしいよ」などとの情報が回ってきたときもありました。その時売ったのがたまたま私で、しかも売ったのが米系などではなかったのですが、こちらから情報を取りたいから嘘の情報を伝えて何かを聞き出そうとしていることが見え見えでした。
また、かつてはAという銀行が売りを大きく置いていた場合は、Bという輸出企業が顧客のために売りを置いている、との想像ができました。
他にも取引相手が米系証券ネームだった場合は、これは米系ファンドの売りの可能性などと憶測で、後ろの顧客を判断することもできました。
しかしながら、これも現時点では難しくなっています。
それは金融機関同士で与信枠が大きいところのクレジットを借りて取引しているところが増加したため、金融機関の名前の後ろに別の金融機関がいるからです。
厳密には言葉の意味が違いますが、ホワイトラベルのような状況です。
よって、まず信用してはいけないのは「事情通」を装っている指南役です。まだ、自分が金融機関のディーラーとつながっていることを得意気に話していても、実際につながっていても情報が右から左に伝わることはまずありません。東京仲値や、ロンドンフィックスなども同じで、情報が漏洩することはほぼありません。輸出が売った、米系が買ったなどの情報が、オンタイムに伝わることはまずなく、このような情報を吹聴している指南役がいた場合は信用はしてはいけません。