やってはいけないこれだけの理由

第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」

先週の乱高下を振り返る…4/29の介入


4月29日の昭和の日、東京市場は休場でしたが、当日は休日出勤で相場に張り付いていました。

ドル円は前日高値158.44円を上抜けて158円半ばまで強含んだところまでは正常な動き。

しかし、158円後半を超えると、159円台はほぼ素通りし160円台にいつの間にか乗せました。

その時間は1分程度という驚くほどのスピードでした。


その後159円台前半から半ばでもみ合いが続きましたが、午後に入ると本邦当局者による

ドル売り・円買い介入が執拗に入り、154円台まで急落となりました。


介入の押し下げが入る前に、元ディーラーの仲間とチャットで

「明日介入が入らないなければ、円安容認となるから、2週間くらいで180円まで上がるかもね」

と話していたばかりでした。


これまでも、東京が休場の日や、NY時間や早朝など、様々な時間で為替介入は行われてきましたが

前回の介入から間隔が開いているときは通常は東京市場で介入をまずはやるのが通例で

あくまでも介入が入るのは東京が休場ではない30日と予想し、

東京市場が休場の29日に介入が入ったことは非常に珍しく、サプライズ介入となりました。


…5/1の介入


4月29日の介入に続き5月1日にも介入が行われました。

(日本時間では5月2日早朝5時過ぎですが、まだ約定応当日が変更されていない時間帯だったので

ここでは5月1日とします)


米連邦公開市場委員会(FOMC)が終了し、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の会見も終わり

マーケットが落ち着いたのにもかかわらず、157円前半から153.04円まであっという間にドル円を落としました。


本邦当局者が「過度な変動は望ましくない」と繰り返し述べてきていたのに

マーケットが落ち着いている中での介入は

逆に本邦当局者が過度の変動を自ら作るという、本末転倒な動きとなりました。


なぜ通例を無視した時間帯で介入が行われたか?


今回介入を行う前の相場は、4月26日にドル円は154.99円から158.44円まで急騰。

29日に160.17円まで更に上がったことで、僅かな間で5円を超える円安が進行したので介入をしたのは理解できます。


しかも、ユーロ円はユーロが導入された1999年以来の過去最高値(円の最安値)を大幅に更新。

他にもスイスフラン円、人民元円なども過去最高値を付けたことで

円の独歩安となったことにより、ボラタイルな動きと行き過ぎた動きによる円安阻止

という大義名分が成り立つでしょう。


しかし、なぜ通例では行われない時間帯を狙った介入だったのでしょうか?

1つ目の理由としては、介入の効果が一番大きい時間帯を狙ったと言えます。


東京市場が不在で、本邦の実需などの参加が見込まれない日だった・・・4月29日。

取引参加者が極端に少ない時間帯だった・・・5月1日。

どれも流動性の悪い時間だったことで、敢えて効果を高めたとの声があります。


しかしながら、それだけではなくドル売りが出来るアマウント(介入玉)に限界があるから

との声も実もかなりあります。

円売り(ドル買い)介入と違い、円買い介入はドルを売らなくてはなりません。


本邦の外貨準備高は約200兆円ありますが、ドル売りに利用できるものがこれだけあるわけではありません。

ドル売りが出来るものとされているのが、ドルの外貨預金や満期日が短い短期証券のみとされています。

多く保有する満期の長い米債を売ることは、米国サイドからは強い拒否反応を示してくると予想されます。



この介入玉(外貨預金と短期証券)を使い切らずに、いかに効率よく円安を止めるかを重視したため

敢えて流動性の悪い時間帯を狙った介入との声が多くあります。

そして、市場参加者の予想では、今回と同程度の介入玉を利用した場合は、介入ができるのは

あと7-8回程度ではないかとも予想されています。


巨大化した為替市場


今回の為替市場での介入は4月29日が約5.5兆円、5月1日が約3.5兆円と想定されています。

これは日銀が日々に更新する当座預金の残高見通しなどから算出し、予想が建てられます。


上述したように、流動性の悪い中で介入したのにもかかわらず、これほどの大規模となる金額を要した

ことに市場関係者は驚いています。

それだけ、為替市場が巨大化したとも言えるわけです。

これまでの介入玉では効果が出たものが、巨大化した市場では効果が薄くなっています。


中銀の介入が負けることもある


これまで中銀が為替介入を行ったのにもかかわらず、市場の流れに逆らえず負けた(介入を諦めた)

例は実は数多くあります。


直近ではトルコ中銀が自国通貨安を止めることが出来ませんでした。

また、スイス銀行(SNB=中銀)はユーロ買い・スイスフラン売りを繰り返していたのが

2015年1月15日にスイスフラン売り介入を諦め、約20分でスイスフランが40%超暴騰しました。


またかなり前ですが1992年にはイングランド銀行(BOE・英中銀)は

東京時間を含め執拗にポンド買い介入を行ったのにもかかわらず、

ジョージ・ソロス氏をはじめとしたファンド勢の売り圧力にはかなわず

英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)を離脱し「暗黒の水曜日(Black Wednesday)」と呼ばれる

ことも起きています。


いずれも、市場がファンダメンタルズに適した動きだったのですが、介入によりそれを阻止しようとして

失敗したという例です。

実際今回も金利差だけではなく、国民の可処分所得が増えず、景気見通しも明るい兆しが見えない国の通貨が

売られやすいのはファンダメンタルズに沿った円安とも言えます。


のこり7-8回程度で介入玉が出尽くすリスクがあります(もっと少ないとの予想もあります)。

すぐに円安地合いが復活するかは分かりませんが、もし再び円安になった場合は介入では止められない

円ショックが起きることも念頭に置く必要があります。

介入が常の勝つとは限らず、介入も負けることがあることを知らないでやってはいけないでしょう。









この連載の一覧
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
【やってはいけないこれだけの理由】第20回「ファンダメンタルズには逆らうな」
【やってはいけないこれだけの理由】第19回「日本語を信じるな…翻訳ソフトで良いので原文を読む」
【やってはいけないこれだけの理由】第18回「サプライズ介入は成功するのか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
【やってはいけないこれだけの理由】第15回「介入に備える…その4、中銀は負けが多い」
【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
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【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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