ナンピンは魅力的、しかし…やってはいけない
ディーラーとしてある程度一人前になったある日、帰宅後くつろいでいた時の21時頃に後輩ディーラーから電話がかかってきました。
「今、ポジションが捕まっています…どうすれば良いでしょうか?」…どうもこうも、わからないので、何が起きて何が捕まっているかと聞いてみると、豪ドルを買ったのだけれど思ったように上がらず、下がってはナンピンをし続けているとの話。後輩にとっては月間のストップロスリミット(銀行で月間に定められている損失制限)にほぼ達しているので強制的にカットするように指示しました。
このような事例が多数あり、強制退場(銀行の制限枠を超えて損失し解雇)された元ディーラーの数はかなり多く、その方々がFX業界で指南役として今でも活躍していたりする闇の深い業界です。そして、ディーラーが陥る罠の一番多い事例がナンピンです。
そもそもナンピンとは、漢字で記載すると「難平」で、難は損を意味し、それを平均することで初めから負けているわけです。
ナンピンとは…一般的なナンピンの例
ナンピンの簡単な例を書きますと
・オリジナル135.00円でドルを百万ドルロング
相場が思った方向に動かず下落…悔しいので
・ナンピン1…134.50円で百万ドルロング
まだ下がり続けたので、持ち高をよくするために
・ナンピン2…134.00円で100万ドロング
よって平均コストは((135×100万)+(134.5×100万)+(134×100万))÷3=134.50円で300万ドルのロングとなります。
現行水準は134円であれば、あと50銭上がればとりあえず損失はなくなるので、オリジナルの135.00円よりかなり近くに見えてしまいます。しかし、そのまま下がり続けて133.00円で損切りすれば、300万ドル×1円50銭で450万円の損失を計上となります。
オリジナルポジション(100万ドル×2円)の200万円の損失より倍以上となります。心理的には持ち値が良くなるものの、損失は大きく膨らみます。
ナンピンとは…危険なナンピンの例
ただし、このようなナンピンはまだかわいいもので、より危険なナンピンは下記のような例になります。
・オリジナル…135.00円で100万ドルロング
・ナンピン1…134.50円で200万ドルロング
・ナンピン2…134.00円で300万ドルロング
よって平均コストは((135×100万)+(134.5×200万)+(134×300万))÷6=134.33円で600万ドルのロングとなります。
下がれば下がるほど、アマウントを増やしたため持ち値がとてもよく見え、134.00円が現行水準であれば、わずか33銭で損失がなくなるという魅力的な数値に見えてきます。
しかし、相場はそのようなときに限りあざ笑うかのように、逆に動きそのまま133円まで急落、損失は
(133.00-134.33)×600万ドル=798万円になってしまいます。
上述の後輩はこのような形ではなかったのですが、強制退場させられたディーラーの多くが、自分の持っているポジションの逆にいけば逆にいくほど、ポジションを増やすナンピンを仕掛けてしまいドツボにはまるというパターンです。
ナンピンとは…許されるナンピンの例
ナンピンの持つ危険性は、市場に一度でも参加した方は理解できると思いますが、ナンピンが許される例もあります。それは中長期的にしっかりとビジョンを持ち、戦略的に攻める場合です。例としてドル円が急上昇している場合で買い遅れてしまったとします。
ディーラーの心理としては「買い遅れてしまった」しかし「チャートを見るとギャップ(窓)を開けて上がっていることで、窓埋めの(一回下がる)可能性もある」でも「買い損ねてそのままより上昇したら、余計に買えなくなる」と…心の中で葛藤します。その場合はとりあえず135円で買います。しかしギャップが134円まであることで、134.50円と134.00円でナンピンし、133円であきらめの売りを置くという戦略を立てます。上述の一般的なナンピンと同じです。
しかし、この違いが何は、一般的なナンピンは行き当たりばったりで悔しさからナンピンしポジションを増やしていますが、今回のナンピンはチャートなどを駆使し戦術的に考えたナンピンですので、意味が全く異なっています。
いわゆる投資のプロ、為替のプロだったディーラーですら、ナンピンの呪縛にはまり強制退場させられています。悔しさが相場に取り組むプラスになる場面もありますが、戦略的でないナンピン、特に逆方向に行くほどアマウントを増やすナンピンほど危険なものはありません。これまで仮にその方法で逃げ切ったことがある方々もいるでしょうが、非常に危険な取引方法なので、悔しさだけのナンピン取引は行わないことをお勧めします。