やってはいけないこれだけの理由

第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」

銀行のフロントディーラーはチャートポイントを見る暇がないことも


為替ディーラーをやってきましたが、たびたび「チャートポイントを参考にしていますか」

と聞かれますが、それには「たまにしか見ていませんでした」と回答しています。


特に一目均衡表や移動平均線などは、基本的に一切見ないに等しかったです。

なぜ、見ていなかったのかと言われると、複数の回答が必要になります。


まず初めに、見る余裕がないこと。銀行のフロントディーラー(主に顧客フローを捌き、

銀行の主となっているディーラー)は、瞬時の判断が必要になります。

ドルが上昇すると思った場合でも、顧客から100億、200億などのフローが来た場合などは

チャートポイントで勝負するよりも、瞬時にカバーすることが最優先になるからです。


数百億のフローがきてロングになり、20銭下がって、その後50銭上がったとしても

20銭下がっている時点で、自分のストップロスリミットに達していては、その時点でアウトです。

いちいち待っている暇などありません。


また、個人的には一目均衡表や移動平均線より、自分でつけていたポイント&フィギュアのチャート

などを重要視していたこともあります。


チャートポイントは効くのか?


もっとも、銀行にも瞬時に勝負をしているディーラー以外もいます。

このようなディーラーは俗にポジションテイカーと呼ばれ、

自分のアイデアだけで収益を上げようとします。

個人でFXを投資している方と基本は同じと思ってよいでしょう。


このポジションテイカーですが、多くはフロントディーラーよりも

マーケットの雰囲気を見るのが下手です。

現在マーケットがロングに傾いているのか、ショートが多いのかなどを、肌で感じにくいのです。

それはフロントディーラーは売ったり買ったりを繰り返し、実際の相場を動かしているのですが

ポジションテイカーはポジションを持ったら放置してFXの上下を見ているだけで、肌で感じる感覚が遅くなります。


そのような、ポジションテイカーは売買タイミングで一目均衡表や移動平均線ほか様々なチャートを

見ている人たちも多くいます。

実際に同じチャートポイントを見ている人が多ければ多いほど、

チャートポイントの効果が出ることはあるでしょう。


例を挙げると、あまり見られないチャートポイントと多くの人が良く見ている日足一目均衡表・転換線

を比較した場合、あまり見られないチャートポイントは誰も意識をしないから、その水準は素通りになるでしょう。

その反面、多くの人が見ている転換線などは、見ている人が多いほどその水準を意識するので

買い玉・売り玉、ともに集まってくる傾向があります。



こんなチャートの使い方をするのはOK


FXでポジションを持った時に、アゲインスト(自分が持っている方向と逆)に相場が動いたときには

ごく稀に証拠金がなくなるまで持つという人もいるでしょうが、ほかの人は

どこかでストップロスをかけるでしょう。


そのストップロスをどこにするか悩んだ場合には、多くの人が参考にしているチャートポイントを

参考にすのは役に立つと思います。

また、ポジションを作るきっかけをチャートポイントの位置を利用するのもアリだと思います。


こんなチャートの使い方をするのはNG!


しかし、往々にしてみるのはチャートポイントをやたらと気にしすぎ、

都合の良いようにチャートポイントを使用する方です。


2月後半から3月前半の相場で例を挙げてみましょう。


2月は28日に150.85円までドル円は上昇し、ドル・ブルに市場が傾いていました。

その後、数日間は150円前半から後半を行ったり来たり、していたのですが

そこで150.03円まで下がってきた日足一目均衡表・転換線を支えに買いを推奨します。

一時同水準を割り込むことがありましたが、引けにかけては転換線を回復すると

「やはり転換線が重要になるので、そこの水準では買いましょう」との論調を強めます。


しかし、3月上旬に入るとドルが一転上値が重くなり、146円台まで下がってしまいます。

転換線での買いを推奨していたものが、急に転換線には触れなくなり

「146円前半にある200日移動平均線が重要になります」との論調に変わります。


そして、3月8日から12日は146円半ばまでドル円は下がるものの200日移動平均線は割り込めず

148円台まで戻しました。

戻したことを確認すると、「やはり200日移動平均線が重要でしたね」と話し始めます。


初めから、この論調を読んでいると、当初は150.03円の転換線が重要で買いを勧めていたのが

大きく割り込むと、いつの間にか転換線の話はしなくなっています。

そして、都合の良いように200日移動平均線が割り込めないと分かると、その線をポイントにしています。


このような無責任な論調(最初の論調が当たらないと、書いたことすら忘れたかのようにする)

と同じように、チャートポイントを自己都合に使ってはいけません。

移動平均線も5・21・90・200というメジャーなものだけで止まらないと、50・100日移動平均線

なども持ってきて、整合性を合わせようとし、ロスカットがどんどん遅れる人もいます。


長く書いてしまいましたが、チャートポイントを利用することは間違いではないでしょう。

しかし、チャートポイントを自己都合に使うだけであれば、やってはいけないでしょう。


なお、チャーティストで大もうけしたという人は、数十年間誰一人として私はみたことはありません。






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第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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