やってはいけないこれだけの理由

第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」

先週は米議会がカオスとなりましたが、この影響は今後も重要になりそうです。

まずは、先月の動きを振り返ります・・・


取りあえず「つなぎ予算」成立


10月1日までに米上下両院で予算案が通らない場合は、米政府の一部が閉鎖される危機にありました。

これまでも、トランプ政権時の2018年12月から翌1月まで、国境沿いの壁の建設費をめぐる対立で

一部の政府機関が閉鎖しました。オバマ政権時の2013年では、10月1日から政府閉鎖となりました。


2013年には政府の一部が閉鎖されたことで、多くの経済指標が発表されないなど

さまざまな面で金融市場も乱れが生じたのを覚えている方もいるでしょう。


また、今回は格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、

「米政府機関が閉鎖されれば米国の信用格付けにネガティブに反映される」と警告を出していました。

政府機関閉鎖でムーディーズが米債を格下げした場合は、3大格付け会社のすべてが米債の格付けを最上位から外したことになり、

ドル相場への影響はこれまで以上に大きくなったでしょう。


共和党内部が子供の喧嘩状態に!


今回の「つなぎ予算」の成立はぎりぎりとなりましたが、その動きを主導したのが

野党・共和党のマッカーシー議長でした。

共和党強硬派の要求を取り下げ、民主党の案に歩み寄り強引に予算を成立させました。


この動きで怒り狂ったのが、共和党強硬派です。

マッカーシー氏は今年1月の議長投票で、100年ぶりとなる最初の投票での過半数獲得にならず

なんと、15回も議長になるための投票を繰り返しました。共和党内で反対に回ったのが、この強硬派です。

党内がばらばらということを象徴する事態と言えました。


そして、予算でも強固派の意見を取り組まなかったことで

フロリダ州選出のゲーツ下院議員は「新しいリーダーシップの下で前進する必要がある」

と述べ、共和党強硬派は「議長解任」動議を進めました。


マッカーシー議長も「やれるならやってみろ(Bring it on!)」と応酬。

これに対してアリゾナ州選出で強硬派の共和党クレーン議員も「やろうじゃないか!(Lets roll!)

とX(旧ツイッター)で言い返すなど、まるで子供の喧嘩状態になりました。


複雑に絡まる米政治


この解任騒動について、市場もメディアも週末に話し合いが行われるとの予想を立てていました。

しかし、なんと予算を通した数日後には、ゲーツ下院議員が解任動議を提出。

そして、3日には米国史上初となる議長解任が決定しました。


マッカーシー議長が民主党に協力したことで、民主党が共和党の議長解任に反対するとの意見もありしたが

マッカーシー議長がバイデン米大統領の弾劾調査を開始していることで

解任に対して多くが賛成したようです。



強硬派にとって引くに引けなかったのは、今後の大統領選挙でいまだに共和党支持者の中からは

圧倒的に人気のあるトランプ前大統領の存在があるのも一因です。

中間選挙を迎える一部議員にとってはトランプ前大統領の支持を得ることが、自分の当選にもつながるからです。


一方、今回民主党に歩み寄ったマッカーシー議長にとっても、もし政府閉鎖が行われた場合は

国民は「共和党の責任」との見方になり、議長としては共和党支持者や支持政党のない有権者がが離れないために

歩み寄らざる終えないとの考えがあったことで、どちら側も引くに引けない状況にあったようです。


ではFXにどう影響を及ぼすか?


ここまでの政治の流れがどのようにFX影響を及ぼすかですが、まずはこれはあくまでも「つなぎ予算」と言うことで

この期限が11月17日までの暫定予算ということが重要です。

この日までに、どのような政治状況になるのかにより、金融市場(特に債券市場)が動き

FXも米金利動向に大きく左右されるでしょう。


ただし、比較的穏健派だったマッカーシー議長が解任されたことで、下院共和党では強硬派の力が増した可能性があります。

それは、11月17日には今回のように予算案が通過せず、政府閉鎖に陥る可能性が高まったとも言えます。

その場合は上述のようにムーディーズが米債を格下げするかもしれません。


暫定予算が切れるまで1カ月半ありますが、その前に新議長がどうなるかを知らなくてはいけません。

次回は予算案が通らないとの観測になった場合は、1カ月半などと悠長なことではなく

すぐに投資家などは米債売りを更に仕掛ける可能性もあるでしょう。

この政治の動きをただ傍観せずに、しっかり見ないでFXはやってはいけないでしょう。





この連載の一覧
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
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第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
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第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
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【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
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【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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