やってはいけないこれだけの理由

第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」

有名芸人のスキャンダルが週刊誌に掲載され、スポンサーが同氏の出ている番組の

コマーシャルを打ち切ったり、提供を止めるなどのことが起きています。

このようなことが起きる度に、「昔と違い今はコンプライアンスが厳しくなった」との声が出ます。


時代の移り変わりとしてコンプライアンスに対しての遵守が徹底されていますが

金融機関や為替の世界でも同様に厳格化されています。

特に、日本よりも欧米金融機関はコンプライアンス遵守徹底が厳しく、

おそらく日本の方が十年か数十年遅れているくらいでしょう。


テレビ局やそこに出演している芸能人と同じで、中にはいまだに昔のルールや慣習から

抜け出せない人たちもいます。

今回は、コンプライアンス強化によって、何が為替の世界にも影響を及ぼしたかなどを記載します。


金融機関はより厳しいルール


金融機関と言えば幅広くなりますが、ここでいうものは銀行や証券会社を中心に記載します。

FX専門の会社やFXがほぼ主の証券会社についての話ではないことを念頭においてください。

証券会社は主にゴールドマンやモルガンスタンレー、野村証券などと考えてください。


まずは、金融機関ではコンプライアンスの研修が相当長い時間をかけて行われます。

転職して入行・入社した時にも数日にわたって行われるほど徹底しているところもあります。

上述したように日本よりも欧米金融機関は特に徹底しています。


私は欧州系の金融機関からこの仕事を始めていますが、同じ欧州系や米系でも80・90年代と

2000年代以後では、コンプライアンス研修も雲泥の差があります。

また、年に数回くらいはオンラインの研修があり、この研修(テストもあり)

をクリアをする義務も生じます。


研修内容は様々で、不正防止はもちろんのこと守秘義務の詳細やダイバーシティ

ほか内容も多岐にわたります。

例えば「会社の外に出る場合は首から入社管理に使うようなネームタグを絶対に付けてはならない」

なども徹底されます。


理由としては、ネームタグを見てA銀行にはBさんという人がいることを、悪人が知った場合には

Bさんの名前を利用して犯罪が行われる可能性があるからです。

金融機関には「金」という一番犯罪者が欲しているものを扱っていることで、一般企業よりも厳しい

コンプライアンスが要求されます。


ディーリングルームもより厳格化


また、ディーリングルーム内ではより厳格なコンプライアンスが要求されます。

例えば、閲覧できるホームページも厳しくなります。


私がいた外資系金融での例ですが、いわゆるエッチサイトなどにアクセス出来ないのは当然として、

賭けに少しでもかかわるサイトにもアクセスはできません。

JRA(日本中央競馬会)のサイトも見れませんし、何かのオッズを調べるのも難しいです。


また、ホットメールやGメールなどのフリーメールにもアクセスできません。

アクセスを制限しているのはウイルス対策もありますが、情報を外部に漏らすことを避けるためでもあります。

よって、ラインをはじめチャットシステムも禁止、SNSもアクセスできないところも多々あります。


そして、携帯電話も基本的には使用禁止になっています。

これも、内部情報を外に漏らさないためでもあり、携帯で私用電話をすることなどもありません。

一部では携帯電話を別の場所に保管してからディーリングルームに入るよう徹底されていることもあります。



また、金融機関内の電話はすべて録音されています。

電話の録音は別室で聞くことが可能で、顧客とのやり取り、ディーラーとボイスブローカーとのトレード

などで認識の祖語(売ったか買ったかわからないなど)を調べるときもあり

何年に一回は問題解決のために録音したものを聞いていました。


また、ロンドンフィキシングを絡んだ大規模不正が発覚した時などは

膨大の録音を調べたとも言われています。


なお、金融機関というよりも一般的に私用電話を社内ですることは社会人の常識としてダメですが

家族に不幸などがあった場合のみ、携帯が禁止されていることで、社内の普通の電話にかかってきます。


厳格化が為替にどう影響したか?


では、このコンプライアンスの厳格化がどのように為替の世界に影響をしたでしょうか?

まずは、上述のようにほぼ全ての通信手段が金融機関内の電話でしか取れなくなったことで

顧客情報などの裏のやり取りが出来なくなったことです。守秘義務がより徹底されたということです。


それまでは、金融機関のディーラー同士で情報を共有することがありました。

チャットやメール、携帯でのやり取りなどが厳しくなかったからです。

しかし、コンプライアンスが厳しくなって以後は、このような情報のやり取りも難しくなりました。


特に外資系金融は、守秘義務違反が見つかった場合は、すぐに解雇マターとなります。

いくら友人とはいえ、自分が解雇されるようなリスクを背負って内部情報を伝達することをしなくなりました。

情報として「今生保がドル買った」「自動車がドルを売った」などというのはほぼ全部嘘です。


昔のように、誰が買った売ったなどが、オンタイムでばれる時代ではないのです。

唯一そのような詳細を知ることが出来るのは、仕事後に直接会って情報を交換するしかありません。


よって、これまで情報を得ることで利益を得ていたディーラーはその情報には頼れず収益機会は減少したと言えます。

ある面、内部情報だけで利益を上げることしかできなかった=コンプライアンス違反のディーラー

が退場することになったのは、市場にとっては決して悪いことではなく健全な世界になったと言えます。


コンプライアンスの重要性を理解しなくてはいけないのは、芸能界やテレビ局だけではなく

様々な世界でも共通なことになっています。










この連載の一覧
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
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第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
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【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
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【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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