やってはいけないこれだけの理由

第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」

高金利で兼ねてから人気のあるランド投資


これまでも南ア通貨ランドは高金利を背景に、

個人投資家をはじめ日本でも取引が活発に行われてきました。

政策金利は現在も南アの8.25%あり、本邦との金利差はかなり開きがあり

ランドロングを寝かせているだけで、儲かるのではないかとさえ思えてきます。


また、ここ最近は南アが産出量最大となるプラチナ価格が堅調なこともあり

プラチナなどのコモディティを購入するためにランドを買う投資家も多く

その動向がランド相場を支えていました。


南アの転換点となる可能性も


ご存じのように、南アはアパルトヘイト政策を行っていましたが

国内外の状況が変わり、1994年に行われた選挙では、このアパルトヘイト政策の最終ステージとなり

人種や民族で区別されることなく18歳以上の南ア国民すべてが投票権を有することが出来ました。


そして、この選挙以来アフリカ民族会議(ANC)が南アの政権を担うことになりました。

ANCの得票率は1994年が62.6%、1999年が66.4%、2004年は69.7%、2009年は65.9%

2014年は62.2%、2019年は57.5%となりました。

しかし、先月29日の選挙ではついに過半数を割り込み40.2%まで下がりました。


ここまでの凋落要因は複数ありますが、まずは経済政策の失敗です。

南アには複数の国営企業がありますが、経済に欠かせない電力は負荷制限(停電等)

が繰り返されています。インフラも脆弱で港湾、交通などが酷い状況です。


このような社会インフラを整えようにも、もう一つのANC凋落の原因の一つでもある

汚職が蔓延っていることで一向に問題解決が進みません。

また、失業問題も深刻で、直近の1-3月期で32.9%の失業率を記録し、若年層は59.7%にまで達しています。

このような状況ですので、ANCの支持率が低下するのは至極当然のことでしょう。



南ア国民としては2019年まで大統領だったズマ氏は汚職まみれだったことで、この5年はビジネス界出身の

ラマポーザ大統領への期待が高かったのにもかかわらず、まったく進展がなかったことによる失望感も

非常に大きかったと思われます。


そして、アパルトヘイト後30年経ち、初めてANCの過半数割れとなったことで

今後の南アの政治状況はこれまで以上に複雑になると思われます。


ANCはなぜ連立政権を組めなかったのか?


選挙前のどの世論調査でもANCの過半数割れという調査結果が出ていました。

しかしながら、仮に過半数を獲得できない場合でも、インカタ自由党(IFP)や

他の小規模政党と連立政権を組めば、ANC主導の下で政権を維持できると判断されていました。

しかしながら、40%台では小規模政党との連立でも過半数に達しないことになってしまったのです。


それであれば、他に10%前後獲得した政党との連立を組めばよいのではないかと思われるでしょうが

他の政党の特徴を知れば、それが簡単なことではないのを理解できると思います。

以下にANC以外で多くの得票を得た政党と、なぜ連立が組めないか、そしてランド相場への影響も考えてみました。


野党第1党…民主同盟(DA)との連立

選挙前は「南アフリカをANCから救う」と約束し

ANCと連立政権を組むことは決してないと宣言していましたが

現在は「いかなる選択肢も閉ざすつもりはない」としています。


DAは21.81%の得票率を獲得したことで、ANCと組めば大連立となります。

おそらくランドとしては、この大連立が最も買われやすいでしょう。


しかしながら、両党とも大きなリスクがあります。

DAはアパルトヘイト時代からある白人リベラル政党で

アパルトヘイト時代の国民党のメンバーをその陣営に加えて発足しています。

ANC支持者はDAに対して当然ながらアレルギーを持っています。


一方DAとしても打倒ANCを目標にしていた政党なこともあり、大連立の場合は

支持者離れを引き起こす可能性もあります。



野党第2党…「民族の槍」(MK)との連立

ズマ前大統領が創設した新党ですが、結党から約6カ月で14.58%まで得票率を伸ばし、一気に野党第2党となりました。

ズマ政権時は汚職まみれだったこともあり、ANCがMKと連立した場合の支持率はさらに下がる可能性もあります。

またMKもラマポーザ大統領が大統領に留まる限りは連立を協議しないと宣言しています。


この連立が樹立した場合は、市場としては時計の針が10年近く戻ったと捉えられることで

ランドにとってはポジティブとは思えません。


野党第3党…経済的解放の闘士(EFF)との連立

前回の10.79%から下がり9.52%までしか得票率を得られなかったEFFは急伸左派とされています。

左派という言葉だけでは優しく感じ、実際にマルクス・レーニン主義の党と自己定義しているだけではなく

白人排斥も掲げています。主要機関の国有化と、少数派白人所有の土地の無償再分配も公約としています。

南アフリカ準備銀行(SARB)の国有化も支持しています。


おそらく、この組み合わせがランド相場にとっては最もネガティブになると思われます。


これからの南ア政局は?


このようにANCにとっては、どの政党とも連立を組むのが難しいことで

ラマポーザ大統領は「すべての政党からなる幅広い連立政権の樹立を試みる」と会見で述べ、

国民統一政府(GNU=Government of National Unity)の樹立を目指すことを発表しました。


また「ANCの(獲得した得票率)40%は、ANCが依然として我が国の中心的な存在であり続けることを意味している。

そしてANCなしでは国内に解決策はない」とも発言し、ANC主導の下で新政権の樹立を目指すことも同時に示しました。


しかしながら、戦時中や大災害時のような特殊事情でもない限り、統一政府が思惑通りに進むのは考え難く、

今後は様々な議案の通過が滞ることも予想されます。

特に国営企業の問題が深刻なことで、これらの改革も期待できず、

南ア経済にとってはGNUではプラス要素を見出すことが出来ないでしょう。


コモディティ価格が堅調に推移していることで、ある程度のランド買いは出てくるでしょうが

投資家が南アへの投資意欲減退に続けば、ランドは軟調な動きが継続されると予想されます。






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第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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