その時代により注目される経済指標が違う
FXをやっている限り、経済指標により相場が動くのは誰でも知っていることでしょう。
しかし、その時の注目点により同じ経済指標でも動くときと動かないときがあります。
1980年から1990年ころで一番日本のトレーダーが注目していたのは米国の貿易収支でした。
この指標が発表されるときには、一度トレーダーは通常の働いている時間が終わったら
ディーリングルームから抜け出します。(業界用語では「中抜け」と呼びます)
中抜けの間は同僚と食事をとりに行ったり、取引業者さんと会ったり、自由時間となります。
その後指標が発表される日本時間の22時半(夏時間は21時半)の前に
再びディーリングルームに戻ってきて、指標結果が出るの待ちます。
結果が出た後、1‐2時間はそのまま顧客の対応などもあり残っていますが
徐々に相場が落ち着いたら、タクシーで帰宅するのが常でした。
当時米国の貿易収支が注目されていたのは、日米間の貿易摩擦であったことが理由ですが
徐々に貿易収支よりも、米国の雇用統計の注目度が高まりその流れは現在も続いています。
一方で、米国の貿易収支では、今はほとんど市場を動意づけることが無くなっています。
その時代により経済指標の注目度が変わってしまうのです。
関連性のない指標の取捨選択も…ADPはもう無視か?
米雇用統計の2日前に発表される「ADP全米雇用報告(以下ADP)」という経済指標があります。
この指標も一時雇用統計の前哨戦になるということで、注目度が高まった時期がありました。
しかし、どうも相関性がないと思い、数年前に個人的にデータを集めてみました。
34カ月の指標結果で比較してみると、34カ月間でADP雇用報告と非農業部門雇用者数の両数値がともに前月比で増加または減少したのは16カ月
一方で残りの18カ月はADPが前月比で増加(減少)したのに、雇用統計の非農業部門雇用者数が減少(増加)する結果になりました。
要は相関性が全くなかったことが判明しています。
しかし、それにもかかわらず一部では相関性があるようなことを言う無責任な方もいますので
そのようなコメントは出来るだけ排除し、自分でデータを調べると役に立つことがあります。
なお、ADPはその後あまりにも雇用統計との乖離が激しくなったことで、昨年に一時指標発表を中止し
新たな算出方法で発表することになりました。
しかし、先週1日に発表されたADPの非農業部門雇用者数が10.6万人増と予想の17.8万人増を下回りました。
一方、3日雇用統計の非農業部門雇用者数変化が51.7万人増と予想の18.5万人増を上回りました。
これだけ、関連性がない指標で振り回されてトレードをするのは無駄に感じますので
ADPで一喜一憂することは避けるべきなのかもしれません。
ここ最近の注目指標はより細かくなっている
さて、ここからが一番重要なことになりますが、ここ最近はこれまで以上に指標の捉え方が重要になっています。
これまで注目されていなかった指標への注目度が高まっているからです。
簡単な例から上げますと、これまで市場が動意づくことがほぼ無かった東京都区部の消費者物価指数(CPI)への注目度が増しています。
理由としては黒田日銀総裁の任期が迫り、なおかつ安倍総理という黒田氏の後ろ盾がいなくなり
政府がこれまでの黒田路線から脱却しようとしていることで、インフレ率の推移がより重要になっているからです。
また、同様にこれまではあまり反応しなかったスペインのCPIでも先週は大きく市場が動いています。
予想比を大きく上振れたことで、その後に発表される他の欧州圏のインフレ指標の先取りとして利用もされました。
また、米国の雇用コスト指数、ミシガン大消費者態度指数の1年先インフレへの注目度も増しています。
それだけでなく、米国の住宅のリセッション問題にも注目が集まり始めていることで、住宅指標も重要になりつつあります。
これまでは、単純にCPI、雇用統計、GDPなどの主だった指標だけに注目が集まっていましたが
今後は多くの指標により目を通さないとやってはいけない相場になりそうです。