一昨年の12月は日銀がイールドカーブコントロール(YCC)を従来の「±0.25%」から「±0.50%」へ変更しました。
そして、今年も12月の日銀政策決定会合に注目が集まっています。
突如と変わった植田日銀総裁の発言
では、なぜ今年も12月の日銀政策決定会合に注目が集まっているのでしょうか?
それは、植田日銀総裁の発言が急に変わったことが要因です。
10月に石破氏が自民党総裁に着任した後に、植田総裁は「経済物価が見通し通り動けば緩和の度合いを調整するが、本当にそうか見極める時間があるので丁寧にやる」と発言しました。
この「時間がある」発言をしたことで、7月30-31日の日銀政策決定会合後に総裁が発した「0.5%が壁になるとは認識していない」とのタカ派発言が打ち消されたわけです。
市場の間では、当面は日銀の追加利上げは遠のいたとの声が高まりました。
ところが、10月の総選挙が終わった10月31日に、一転して植田総裁は「時間的な余裕があるは今後使わない」とこれまでの発言を否定したわけです。
追加利上げモード(7月末)から、選挙前に利上げ否定(10月上旬)、そして利上げの可能性示唆(10月下旬)と変化したわけです。
経済指標で利上げを促すものはないのに?
このように、くるくると発言が変わる植田総裁ですが、当然のように経済の実勢に変化があれば発言(というか景気判断)が変わるのは理解できます。
しかし、この間に本当に経済指標が発言に変化を与えるものはあったのでしょうか?
10月上旬の「時間がある」発言後から、先週中旬まで発表された指標は下記のようになります。
・全国CPI(コア)・・・(植田総裁の「時間がある発言」前に発表された8月分2.8%)、9月2.4%、10月2.3%。
・全国CPI(コアコア)・・・(8月2.0%)、9月2.1%、10月2.3%
・全国CPI(刈込平均値)・・・(8月1.8%)、9月1.7%、10月1.5%
・実質賃金・・・(7月0.3%)、8月-0.8%、9月-0.4%(注:9月は11月22日に-0.1%から下方修正)
・実質GDP前期比年率・・・(4-6月期2.2%)、7-9月期0.9%、(注:4-6月期分は11月15日に2.9%から2.2%へ大幅下方修正)
となっています。
全国CPIのコアコアはやや上昇傾向にあるが、ほかの指標をみると決して急に利上げを促すような結果にはなっていません。
では、なぜこのように発言に変化が生じたのでしょうか?
もともと、石破首相は就任前は「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げには賛成していました。
しかしながら、解散・総選挙が行われるとなると「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言しています。
そして、総選挙が終わったことで、経済指標的には変化がなかったものの、このような利上げ否定発言が繰り返されることはなくなっています。
要は、総選挙にかけては石破首相も国民の支持を得にくい利上げに対しては否定的な意見をだしますが、総選挙が終わった後は利上げを否定をしなくなったわけです。
結局は政治的に政策金利が左右される
以前に第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」でも指摘しましたが、日銀はほかの国と比較し中銀の独立性が確保されていません。
要は政治に左右されることが非常に強いのです。
そして、先月21日の「パリ・ユーロプラスファイナンシャル・フォーラム2024」での講演で植田日銀総裁は、「今後1カ月間に発表される多くのデータや情報が政策決定会合の決定要因」と言及しています。
上述のように、決して利上げを促すようなデータが続いたことには何も気にせずに、これまでのデータよりも、これからのデータ重視となっているわけです。
選挙という政治的な日程をクリアしたことで、結局は再利上げに舵を切り取りたかったのです。
先週末29日に発表された11月東京都区部消費者物価指数(CPI)の生鮮食料品除く総合が、前回値や予想を上回る結果となり、利上げの大義名分ができたわけです。
この数カ月の弱い景気判断のデータをみるよりも、日銀の動向を判断するのは、政治的な日程と日銀要人の発言をみないでやってはいけないとも言えます。