やってはいけないこれだけの理由

【やってはいけないこれだけの理由】第6回「FX詐欺でTKOされないために」

FX詐欺・・・うまい話はない

 

某有名お笑いコンビの一人が、FXを含め億単位(約7億との報道)の投資トラブルが発覚したと話題になっています。

これまでもFXでの詐欺話がニュースに出ますが、どれも普通に考えれば「そんなうまい話はない」としか言えないものばかりです。

ただし、FXに対しての知識が少ない方や、始めたばかりだと騙されてしまうのでしょう。


ここでは、FX詐欺でTKOされないために、これまでに聞いた複数の詐欺行為と、そのどこが怪しいか検証してみます。

 

詐欺の手口1・・・自動売買ツールで大儲け

 

ネットの広告にも多数出てきますが、「自動売買ツールで取引すれば勝率90%以上」などと、派手な勧誘があります。

ここで引っかかっていけないのは「勝率」という言葉です。

野球ならば勝率で優勝が決まりますが、為替では勝率では優勝(利益)は決まりません。


野球ならば20点差で1回負けても、1点差で9回勝てば勝率9割でおそらく首位でしょう。

しかし、為替は9回トレードして、9回ともに1円の鞘を抜き儲かっても、1回で20円の損失を出せば、勝率9割でも大損です。

よって勝率なんかに惑わされてはいけません

 

また、自動売買のバックテストを掲載していながら、それが全く別のデータを掲載している詐欺行為もあるようです。

(今回の詐欺もデモ画面を見せられていたとのこと)

すべての自動売買ツールが悪いわけではないでしょうが、日本の金融庁に認可されていない、海外業者のものは総じて怪しいと思っても良さそうです。


そもそも、そんなに儲かる自動売買ツールがあれば、儲けは独り占めします。

はじめは資金が少なくても、儲かれば儲かるほど資金が増えるのですから、他人から資金を提供してもらう必要もありません

 

私が銀行を辞めた後に、某大手メーカーのシステム担当だった方が、「MT4(現在のMT5の前バージョン)を利用し、自動売買ツールを作りたい」との相談を受けたことがあります。おそらく映画「ハミングバード・プロジェクト」(原作本はマイケル・ルイス著「フラッシュ・ボーイズ10億分の1の男たち」・・・読む価値あり!)のようなものを作ろうとしていたようですが、このような自動売買ツールが為替の世界でどれほど成功しているのかは未知数です。


詐欺の手口2・・・高額な必勝本(およびDVD等)の商品を販売する

 

銀行を辞めた時に「あなたがFXで投資するのであれば、私が資金を出しますよ」とかつての同僚に言われたことがあります。

その銀行で働いていた時には常に収益を上げていたので、そのような言葉をかけてもらえたのでしょうが、当然断りました。

 

なぜか?それは金融機関で働いているのは一般でFXを行うより明らかに儲けやすい環境ですが、環境が変わることで、これまでのように儲けることが出来るという自信が当時はありませんでした。

また、損失を出し、その方との関係を壊すのもいやでした。


そして、それよりももっと大きな理由は、詐欺手口1にも記載しましたが儲けられるのであれば他人に儲けさせないで自分一人で儲けるよ、ということです。


ネットでは「FXの儲ける手法を伝授する」「FX必勝本!」などという広告をよく見かけます。

なぜ儲かるものをわざわざ他人に教える必要があるのでしょうか?


FXの初心者がFXの仕組みを書いてある本を購入することは否定しません。

また、FX経験者が儲かるためのヒントとなるような本で、読む価値があるものもあるでしょう。

しかし、あくまでも経験則に基づいたヒントであり、それ以外の怪しげなネットでしか買えないような本は詐欺とみなしてもよいと思われます。



詐欺の手口3・・・多額な資金があれば儲かる

 

ご存じのようにFXはレバレッジを効かせて取引をします。レバレッジとは、いわゆる証拠金をFX会社に入金したら、その何倍まで取引ができるかということです。


現在の日本ではレバレッジの最大が25倍、10万円で250万円分の取引ができます。

ドル円の場合はドルが基軸通貨ですので、(計算が楽なので1ドルが100円とした場合)250万円=2.5万ドル分の取引が可能です。

仮に1億円の証拠金を入れたとしたら、25億円=2500万ドル取引ができます。(通常、金融機関で取引される最低基準単位が100万ドルを1本と呼びますので、25本ということになります。)


今回話題になった芸能人の詐欺事件では2億5000万円がFXとの報道もあるので、この場合は6250万ドル=62.5本となります。

 62.5本くらいですと、金融機関の1支店のひとりのディーラーが普通に取引している額面ですので、まったく大きくはありません。

これくらいのアマウントで市場が大きく左右することはありません。


例えば日銀が介入した時は、ひとりで1000本単位を何回も何十回も取引することもあります。

しかも、それにもかかわらず全く動かない、むしろ逆に動くことさえあります。

市場流動性があるときの為替市場は莫大な金額が取引されているわけで、大きな資金が集まりレバレッジを効かせても動くわけではないのです。

 

「大きな資金で市場を動かすために、多額の資金が必要」「大きな資金があれば市場を支配できるから、すぐに儲かります」との勧誘があったとしても、金融機関で売ったり買ったりしているディーラーからしてみれば、大した額面ではないのです。

 

もし、上述のように多額の資金が市場を動かす、というような誘いがあった場合は、絶対にこれくらいの額面では動きませんので詐欺です。


まとめ


自動売買ツールなり、手引書なりは詐欺が多い。儲かる仕組みがあるのであれば、敢えて他人にその仕組みは教えない!

多くの資金で市場を支配するために、投資を呼びかけるのはほぼ全て詐欺。それくらいの額面は金融機関のディーラーにとっては大した額面ではない!


いろいろな甘言で誘惑されることがあるのでしょうが、この手の行為を見かけた場合は詐欺ですので、絶対に引っかからないようにしてください。

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第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
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第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
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第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
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第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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