やってはいけないこれだけの理由

第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」

年始明けにたまたまFXを取引している個人投資家の方に

「年末は何で、そんなに取引をしないように促すのですか?」との質問を受けました。


その方も、年末の特殊事情はある程度理解はしていたのですが

それ以外で知らないこともありましたので、もう一度なぜやってはいけなかったのかを振り返ります。


皆知っている、基本的な年末事情


複数回書いていますが、クリスマス前から年明けまでは休暇を取っている為替ディーラーが多いです。

特に外資系金融機関の場合で、本店以外(アジアでは東京やシンガポールなど)で働いているディーラーは

本国(欧米や豪州など)に帰国して、参加者が減少しています。


また、本邦以外の外資系金融機関では休暇の締めが年末であることも多く

これまで消化できていない有給休暇を消化しておこうとの考えもあり、さらに参加者が減ります。


他にも、これも幾度か記載していますが、年末に金融機関のその年の決算としているところも多く

金融機関、ディーリングルーム、ディーラーが損益をあまり振らしたくないとの考えもあり

取引を控える傾向が強まります。


成績の悪かったディーラーは12月に解雇されるところもあり、その場合は否応なく

ディーリングルームの人数が減ってしまいます。


この辺までは、金融機関のディーラー経験者でないひとたちも多くは知っている

年末の特殊事情だと思います。


クロス円などはどのようにカバーしているかの基本から


それ以外では、年末はスポット応当日が異なる特殊事情があるのですが

その前に、クロス円、一部欧州通貨はどのように金融機関は処理しているかの基本を書きます。


例えば、ユーロ円のような流動性が豊富な通貨は、顧客と取引したユーロ円をそのまま

電子ブローキングのようなところでユーロ円のままカバー(取引)でき、スクエアにします。


しかし、ポンド円、豪ドル円やランド円などの通貨は、電子ブローキングでは流動性が

もともと豊富とは言えません。

例えばポンド円の場合は

1…ユーロポンドとユーロ円でカバー、2…ドル円とポンドドルでカバーとなります。



具体的にはポンド買い・円売りのポジションを持った時に、そのポジションをスクエアにするためには

1…ユーロポンドでユーロ買い・ポンド売りをする、更にユーロ円でユーロ売り・円買いをする。

ユーロは売り買いで相殺され、ポンド売りと円買いが残るので、当初持っていたポジションがスクエアになります。


2…ドル円でドル売り・円買い、ポンドドルでポンド売り、ドル買いをする。

ドルは売り買いあるので相殺され、円買いとポンド売りが残り、ポジションがスクエアになります。


ドル/スウェーデンクローナ(SEK)などのカバーも

ドル/SEKは元来流動性が少ないことで、ユーロSEKとユーロドルで行うのが通例です。


クロスのカバーが年末の応当日の特殊事情になる


では、年末のスポット応当日が異なる特殊事情についての説明になります。

まずは、昨年12月28日のスポット応当日はいつになるでしょうか?


通常はドル/カナダドル以外は、2営業日後ですので翌日29日(金)の次の営業日になります

しかし、30・31日は土日になることで、1日(月)となります。しかし、1月1日は元旦ですべての市場は休場

よって2日(火)になります。しかし、日本を含め複数の市場は2日も休場です。

日本の市場が3日(水)も休場なことで、円がらみの応当日はほぼ4日(木)となります。(ロシアは4日も休み)



先ほど挙げたポンド円のことを振り返ってみましょう。

28日にポンドロング・円ショートのポジションを持ち、これをカバーしてスクエアにしなくてはなりません。

上述した2番目の方法(ドル円とポンドドルでカバー)をするとします。


ドル円は応当日4日でプライスが成り立っているのを、ドル売り・円買いをします。

一方のポンドドルは応当日2日でプライスが成り立っているのを、ポンド売り・ドル買いをします。

ここまでは理論的に理解できると思いますが


問題はポンドドルが2日が応当日なので、東京は休場なことで2日の決算のものを4日まで延長しなくてはなりません。

この作業をするのはいわゆるフォワードディーラーでFXディーラーとは違い

デポなどを含め金利面とFXの両方を見ないと作業を行えないディーラーになります。

この作業をしないと、祝日期間中に決済が滞ることになります。


通常はフォワードディーラーには応当日違い以外はそれほど密に連絡を取らないFXディーラーも

年末の取引で年始の決済が滞るようなことをしてしまうと、金融機関全体の信用問題で大ごとになります。

よって、年末はこれまでのように簡単に応当日違いのポジションを持つことが出来なくなるわけです。


このような特殊事情は毎年ありますので、年末の取引は流動性が悪くなることを

理解しないでやってはいけないわけです。






この連載の一覧
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
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第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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