やってはいけないこれだけの理由

第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」

自民党総裁選から解散・総選挙へ・・・第1次石破ショック


9月27日に行われた自民党総裁選では、第1回目の投票で利上げ反対・財政拡大をモットーとした高市早苗氏が議員票と党員票ともにリードしたことで、市場は円売り・株買いに動きました。ドル円は144円台から146.49円まで上昇しました。

しかし、決選投票では議員からは不人気とされていた石破茂氏が逆転し、自民党総裁選で勝利を収めました。

そして、石破氏が利上げを容認し、金融所得課税の実施も肯定的だったことで、為替市場は円買い、株式市場は大幅下落になるなど、「(第1次)石破ショック」が起こりました。ドル円は146.49円から142.07円まで、翌営業日には141.65円まで下がりました。


短期的と中長期的は違う


石破氏と高市氏の有力2候補は日銀に対する姿勢や財政について相違が明らかだったこともあり、総裁選で両者のうちどちらが勝つかで市場が敏感に反応するのは当然の結果でした。

一方もう一人の有力候補だった小泉進次郎氏に関しては、受け答えも何を言っているか分からないと評されているように、日銀や財政に関しても不透明なままでした。


このように、株価が大幅に下がったことで石破氏が「悪い」、逆に高市氏が「良い」とは一概には言えません。

市場参加者は短期的に鞘を得ることが出来るのであれば、それを狙わなければ相場師として失格です。

ただし、これはあくまでも短期的なことであり、中長期的には違います。


例えば超保守とされる高市氏は首相就任後も靖国神社への参拝を行うと述べていました。

この場合には中国、韓国だけではなく、日中・日韓でもめてほしくない米国からも拒否反応が出たことでしょう。

また、財源が不透明な中で財政拡大路線を行ったら、市場から烙印を突き付けられて僅か44日で辞職に追い込まれたトラス英首相と同じ道をたどるとの声もありました。

よって中長期的には、いくら利上げに反対しようが中長期的には為替市場も株式市場もどう動くかは未知数です。


ただし、市場は不確定の中長期よりも、確定的な短期的なもので動くのは当然だったので、今回の相場展開は想像通りに動いたと言えるでしょう。


第2次石破ショック・・・石破氏の変節


先週の政局で一番驚かされたのは石破氏が突如衆議院選挙を10月15日公示の29日投開票をする方針を示したことです。

これまでは、国会論戦を通じて有権者に判断材料を示してから衆院を解散する考えとしていたものが急転しました。



石破氏の予想外の行動は、これだけにはとどまらず10月2日には植田和男日銀総裁との会談後、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」「これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展することを期待している」と述べました。

相場は一転株高・円安になり、4日には米雇用統計の結果もありドル円は148円台まで上昇しました。「第2次石破ショック」(もしくは逆石破ショック)とも呼ばれています。


これまでの日銀の利上げを容認していた石破氏ですが、「第1次石破ショック」により、円高はまだしも、株安になったことで、総選挙を迎えるうえで株安になっては困るから、このような発言を行ったといううわさもあります。


総選挙次第で相場は再び混迷と予想


総裁選の前倒しは野党が準備ができる前に選挙を行う、期待が先行している時期に行う、などと言われています。

しかし、本当に石破・自民党政権の思惑通りに事が進むかは全く未知数です。


米大統領選挙もバイデンVSトランプの場合はトランプ氏の圧勝が予想されていました。

ところが、ハリス副大統領がバイデン大統領と変わって民主党の大統領選の候補になると、流れが一転しました。


さらに自民党政権はこれまでも裏金や旧統一教会などの問題をいまだに解決できていません。

総理就任の僅か1週間でこのようにクルクルと変える石破総理に有権者がどのような判断を下すかも分かりません。

よって、石破総理の考えているシナリオ通りにいくかは不透明な状況です。


今後発表される世論調査や、公示で出てきた候補の騰落予想などで、どのように選挙が進むか分からないでしょう。

現在の政権与党が勝てるかも分かりません。

また、たとえ与党が勝てたとしても議席を大幅に減らした場合には、石破総理が責任を取らされ、辞任圧力が高まるかもしれません。

さらに、勝てた場合でも、これだけ変節を繰り返している石破氏ですので、選挙が終わってしまえば日銀の利上げに反対をしない可能性すらあるでしょう。


更に円安が急速に進んだことで、これだけ変節を繰り返す石破首相ですので円安けん制すら入る可能性もあります。

これからしばらくの間は政治に翻弄されることは確実で、10月の円絡みの市場は更に神経質に動きそうです。



この連載の一覧
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
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第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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