やってはいけないこれだけの理由

第115回「自民党総裁選…新総理の方針を知らないでやってはいけない」

政治と独立できない日銀


中央銀行は政治とは独立して金融政策の舵を切らなくてはなりません。

日本銀行法第3条第1項にも、「『日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない』として、金融政策の独立性について定められています。」

と、日銀のホームページにも記載されています。


しかし、「同時に、日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』(第4条)とされています。」とも記載されています。


要するに、第3条には自主性と定められていますが、第4条に政府と意思疎通、すなわち政府の方針に従うように書いてあり、日銀は良かれ悪かれ政府の意向を聞いてしまう傾向にあります。

特に安倍政権時の黒田日銀総裁との蜜月関係は明らかで、黒田バズーカがアベノミクスを支えようとしました。

そして岸田政権でも植田日銀総裁との関係は密で、9月の日銀政策決定会合後に岸田総理は「日銀、正常化に向け政策進めていることは適切」と発言するなど、利上げを含め岸田政権の意向はそうとう日銀は反映してきたと思われます。


一方で、米国はどうでしょうか?

トランプ前大統領はやたらめったら米連邦準備理事会(FRB)について文句を言い続けました。

しかし、FRBはトランプ前大統領の圧力に屈することはありませんでした。

現在のバイデン大統領は今月に入り「FRBの独立性を尊重している」と発言しただけでなく、なんとパウエルFRB議長とは就任以後一度も話していないと述べています。


また、オーストラリアの豪準備銀行(RBA)も独立性の重要性に言及し、先週の理事会後にブロックRBA総裁は「政治とは距離を置きたい」と発言。

そして政権(チャーマーズ財務相)が「RBAの利上げが豪経済を破壊している」とRBAを非難しているにもかかわらず、RBA総裁は「リセッション入りの回避を目指すが保証はできない」と述べ、政治圧力に屈せずインフレを抑制する覚悟を示しました。


中央銀行が政治の駆け引きに利用されないように、米国やオーストラリアはかなり厳格に中銀の独立性が維持されているわけです。


新総裁の意向は?


上述のように日銀は政府との関係を切れない、ある面独立できない中央銀行です。

よって、9月に行われた日銀政策決定会合でも、自民党総裁選の前には株安になる可能性が高い利上げはできないと予想され、実際にそのような結果となりました。

また、それだけでなく、植田日銀総裁の会見では利上げには「時間的な余裕がある」と発言し、早急な再利上げがないと捉えられる発言もしています。

ある面玉虫色の発言しかできなかったのは、次期総裁が誰になるか分からないことで、新総裁(新総理)の意向を聞くまで先走ったことは口に出せなかったわけです。



このような日銀が慎重姿勢を示して迎えた自民党の総裁選挙が27日に行われました。

立候補者9人での総裁選挙で、第1回目では過半数を取るものがいなかったことで、高市早苗氏と石破茂氏の間の決選投票となりました。

第1回目の投票で高市氏がリードしていたものの、決戦ではまさかの石破氏が勝利を収めました。


仮に有力候補だった高市氏が総裁に就任した場合は、高市氏が「金融緩和を我慢強くやらなければ、また元のデフレ状態に後戻り」「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言していたことで、日銀の利上げのハードルはこれまで以上にかなり高くなっていたことでしょう。

よって、短期的には利上げ路線は停止、円安進行も停止、株高となっていたと思われます。


しかし、石破茂氏が総裁に就いたことで状況は違うことになりました。

石破氏は「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げを容認していました。

よって、これまで通りに日銀は利上げを継続することが濃厚です。


また、適正な為替水準については「常識的に(ドル円は)110円から140円と言われている」とも述べています。

そして、金融所得課税の実施も肯定的な考えを示しています。

円安が再び進み、株式市場も軟調になり可能性が高まりました。


上述はすべて短期的なもので、市場のイニシャルアクションです。

今後は石破氏がこれまで通りの主張を貫くのかが、これからの新総裁(=新総理)の方針がFXにも大きく影響を及ぼすことは確実なので、今後も政治状況をしっかりと見ないでFX取引をやってはいけないでしょう。



この連載の一覧
第115回「自民党総裁選…新総理の方針を知らないでやってはいけない」
第115回「短期・中長期のポジションについて・・・ポジションを混同してやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
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【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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