政治と独立できない日銀
中央銀行は政治とは独立して金融政策の舵を切らなくてはなりません。
日本銀行法第3条第1項にも、「『日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない』として、金融政策の独立性について定められています。」
と、日銀のホームページにも記載されています。
しかし、「同時に、日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』(第4条)とされています。」とも記載されています。
要するに、第3条には自主性と定められていますが、第4条に政府と意思疎通、すなわち政府の方針に従うように書いてあり、日銀は良かれ悪かれ政府の意向を聞いてしまう傾向にあります。
特に安倍政権時の黒田日銀総裁との蜜月関係は明らかで、黒田バズーカがアベノミクスを支えようとしました。
そして岸田政権でも植田日銀総裁との関係は密で、9月の日銀政策決定会合後に岸田総理は「日銀、正常化に向け政策進めていることは適切」と発言するなど、利上げを含め岸田政権の意向はそうとう日銀は反映してきたと思われます。
一方で、米国はどうでしょうか?
トランプ前大統領はやたらめったら米連邦準備理事会(FRB)について文句を言い続けました。
しかし、FRBはトランプ前大統領の圧力に屈することはありませんでした。
現在のバイデン大統領は今月に入り「FRBの独立性を尊重している」と発言しただけでなく、なんとパウエルFRB議長とは就任以後一度も話していないと述べています。
また、オーストラリアの豪準備銀行(RBA)も独立性の重要性に言及し、先週の理事会後にブロックRBA総裁は「政治とは距離を置きたい」と発言。
そして政権(チャーマーズ財務相)が「RBAの利上げが豪経済を破壊している」とRBAを非難しているにもかかわらず、RBA総裁は「リセッション入りの回避を目指すが保証はできない」と述べ、政治圧力に屈せずインフレを抑制する覚悟を示しました。
中央銀行が政治の駆け引きに利用されないように、米国やオーストラリアはかなり厳格に中銀の独立性が維持されているわけです。
新総裁の意向は?
上述のように日銀は政府との関係を切れない、ある面独立できない中央銀行です。
よって、9月に行われた日銀政策決定会合でも、自民党総裁選の前には株安になる可能性が高い利上げはできないと予想され、実際にそのような結果となりました。
また、それだけでなく、植田日銀総裁の会見では利上げには「時間的な余裕がある」と発言し、早急な再利上げがないと捉えられる発言もしています。
ある面玉虫色の発言しかできなかったのは、次期総裁が誰になるか分からないことで、新総裁(新総理)の意向を聞くまで先走ったことは口に出せなかったわけです。
このような日銀が慎重姿勢を示して迎えた自民党の総裁選挙が27日に行われました。
立候補者9人での総裁選挙で、第1回目では過半数を取るものがいなかったことで、高市早苗氏と石破茂氏の間の決選投票となりました。
第1回目の投票で高市氏がリードしていたものの、決戦ではまさかの石破氏が勝利を収めました。
仮に有力候補だった高市氏が総裁に就任した場合は、高市氏が「金融緩和を我慢強くやらなければ、また元のデフレ状態に後戻り」「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言していたことで、日銀の利上げのハードルはこれまで以上にかなり高くなっていたことでしょう。
よって、短期的には利上げ路線は停止、円安進行も停止、株高となっていたと思われます。
しかし、石破茂氏が総裁に就いたことで状況は違うことになりました。
石破氏は「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げを容認していました。
よって、これまで通りに日銀は利上げを継続することが濃厚です。
また、適正な為替水準については「常識的に(ドル円は)110円から140円と言われている」とも述べています。
そして、金融所得課税の実施も肯定的な考えを示しています。
円安が再び進み、株式市場も軟調になり可能性が高まりました。
上述はすべて短期的なもので、市場のイニシャルアクションです。
今後は石破氏がこれまで通りの主張を貫くのかが、これからの新総裁(=新総理)の方針がFXにも大きく影響を及ぼすことは確実なので、今後も政治状況をしっかりと見ないでFX取引をやってはいけないでしょう。