日米中銀の責務とは
各国の中央銀行には様々な責務があります。
日銀はホームページを見ればわかるように、「物価の安定」と「金融システムの安定」に貢献をすることを目的としていると記しています。
なお、「物価の安定」は日本銀行法第1条第1項と第2条に、「金融システムの安定」は日本銀行法第1条第2項に定められています。
同様に米連邦準備理事会(FRB)にも責務が2つあり、これはDual Mandate(2つの責務)とされています。
その2つは「物価の安定」と「持続可能な雇用の最大化」とされています。
1つ目の「物価の安定」については
個人消費支出価格指数(PCE)の年間変動率で測定される2%のインフレ率が、FRB責務と長期的に最も整合的であると判断している。
米連邦公開市場委員会(FOMC)では、インフレ率がこの目標を持続的に上回ったり下回ったりする場合には懸念する、と記しています。
2つ目の「持続可能な雇用の最大化」については
雇用に関する明確な目標を明示することは適切ではないとしつつ、委員会の決定は広範な労働市場指標から情報を得なければならない。
と記しています。
中銀の責務が変わる場合も
日米だけではなく、他の中央銀行でも責務があり、その責務が政治状況で変化が生じる場合があります。
例えばニュージーランドの中央銀行であるNZ準備銀行(RBNZ)は、アーダーン労働党政権の時にFRB同様に「雇用の最大化」も責務に加えました。
しかし、コロナウイルスによるパンデミック後、新たに加わった責務の影響もあり、インフレ対策が後手に回りました。
よって、その後の選挙で国民党が政権を獲得すると、この新たな「雇用の最大化」を外した経緯があります。
また、南アフリカの中央銀行である南ア準備銀行(SARB)は国からたびたび「雇用の最大化」を責務に入れるように圧力がかかっています。
しかし、失業率が3割を超えるような状況で、「雇用の最大化」などを責務に組み入れることは不可能なことで、拒否しています。
FRBの2大責務・・・今は何を見てFXをトレードするべきか?
FRBについての2大責務について話を戻します。
これまでは、インフレ対策が経済の最大の課題だったことで「物価の安定」が最も注目されていました。
よって、インフレ指標とされる消費者物価指数、卸売物価指数、個人消費支出などの経済指標の結果に米金利やFXが大きく反応していました。
しかしながら、ここ最近はそれに変化が生じています。
変化の兆しが見えたのが、7月30-31日に行われたFOMC後にパウエル議長が、これまでの「インフレリスクへ高い関心(highly attentive to inflation risks)」から「2つのマンデートの両面におけるリスクに注意(attentive to the risks to both sides of its dual mandate)」と発言したことから始まりました。
更にパウエル議長が米カンザスシティー連銀主催のシンポジウム(通称・ジャクソンホール会議)での講演で、「インフレ率が2%への軌道にあるとの確信強めた」と述べ「物価の安定」への警戒感を緩めていた反面、「労働市場の冷え込みは間違いない」と「持続可能な雇用の最大化」に関しては、これまで以上の警戒感を示しました。
要するの、今後のFRBは、よほどインフレ指標が振れない限りは「雇用の最大化」が一番の重要視してみていくと宣言したようなものです。
この変化によりFX市場の動きも変化しました。
9月6日に発表された8月の米雇用統計では平均時給が前月比・前年比ともに市場予想を上回りました。
この結果を受けて瞬間的に米金利が上昇し、ドル買いになりました。
しかし、すぐに非農業部門雇用者数が予想を下回ったことへの反応が重要視され、米金利は急低下し、ドル安が進行しました。
先週発表された8月のインフレ指標(消費者物価指数=CPI、卸売物価指数=PPI)の結果でFXは上下しましたが、次第に値動きは落ち着き、結局は行って来いの相場になりました。
このように、FRBが注目する責務の重要性が変化しているのです。FXを取引するうえでこの変化を見逃がしてはいけません。
雇用統計時に、賃金上昇のインフレ懸念ばかりに目を向けていた人たちは完全に上値を掴んでしまったように、その前の流れ(FRBが雇用をより重要視したこと)をつかんでいなければならないのです。
雇用に関しては、FRBが示しているように「雇用に関する明確な目標を明示することは適切ではない」ことで、雇用指数に関しては様々な指標を吟味していく必要が出てくるでしょう。
ただ、それでも当面の間はFRBの2大責務は「雇用の最大化」が「物価の安定」に上回ると思って当面は取引をしないでやってはいけません。