常識は通じない…日銀のパラダイムシフト
先週、「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
と題して、7月30-31日の日銀政策決定会合後で、これまでの日銀の規範(パラダイム)では判断できず、今後はパラダイムがシフト(移る・変わる)するだろうということを記載しました。
この件については、記事を読んでいただければわかりますが、抜粋すると
「今回の会合で同時に発表された『経済・物価情勢の展望(展望リポート)』では2024年度の消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)見通しを4月の+2.8%から+2.5%へ下方修正。
同様にGDPも4月の+0.8%から+0.6%を同様に下方修正しています。
一方で、植田日銀総裁の会見では『経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げる』と発言しています。
インフレやGDP見通しを下方修正しているにもかかわらず、見通しが実現していけば、政策金利をまた引き上げるというのは意味不明なものになりました。」
このように、これまでの常識で通じないパラダイムシフトが違う形で先週は表されました。
僅か1週間で前提条件を外れた日銀の前提条件
7月の政策決定会合後に市場は、これまでの経済指標の読み取り方だけでは今後の日銀の政策を判断できないと思ったのですが、先週7日に内田日銀副総裁が函館市の金融懇談会で発表された「最近の金融経済情勢と金融政策運営」は、更に市場の混迷を深める結果になりました。
日銀のホームページを辿ると、その詳細をすべて図形を含めて読むことが出来ますが、「円安を受けて輸入物価が再び上昇に転じていることを踏まえて、0~0.1%よりも 0.25%程度の金利水準の方が、よりリスクに中立的で、適切であると判断した」と利上げの理由を述べています。
しかし、その一方で、今後の利上げ条件に付いて前提として「『経済・物価の見通しが実現していくとすれば』という条件が付いていることを説明。
そして、「ここ1週間弱の株価・為替相場の大幅な変動が影響します。」と僅か1週間の株価の大暴落と、ドル円の急落で早くも前提条件が変わりつつあるとの見解を示しました。
そして、市場に一番影響を与えたのが、「わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません。したがって、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません。」と断言してしまったことです。
日銀の信頼性の失墜
内田日銀副総裁が述べたように、「市場の変動の影響注視し、そのことを政策に反映していくのは当然」なのは確かです。
しかし、日銀政策決定会合の結果が発表されて、1週間も経たず、その間の経済指標では6月の毎月勤労統計調査こそは発表されましたが、
その他には特段市場が注目する経済指標等の発表がなかったのにも関わらず、前提条件に合致しなくなったと判断されたことは市場にとってはサプライズとなりました。
しかも、内田副総裁が述べた「不安定な状況」は、米国の経済指標の悪化などがあったとはいえ、植田日銀総裁が市場予想よりもタカ派に転じたことにより起きたことです。
決して市場が大袈裟に反応したわけではなく、これまでの植田日銀総裁の発言と比較すると、ここまでタカ派の発言をすれば金利上昇・株安・円買いに動いたのは当然の結果です。
もし、植田日銀総裁がタカ派寄りとなるにしても、徐々に市場に今後の利上げを示唆していた場合は、ここまでの株安などにはならなかったことでしょう。
どのような理由があろうが、日銀と市場とのコミュニケーションが取れていないことは確かでしょう。
そして、海外からも「日銀の信頼性が損なわれつつある(Bank of Japan credibility is looking strained)」と評価されています。
米国の経済指標の悪化などもありましたが、今回の相場は日銀の正副総裁の発言により市場流動性が破壊されたことは事実です。
しかも、僅か1週間で前提条件から外れるような状況では、再びすぐに方向転換する発言が出る可能性もあるでしょう。
これまでは、日銀要人の発言を信頼し、その内容をくみ取ろうと真剣に対応していた市場筋ですが、くるくる変わってしまうようですので、言葉を真剣に組み込んでポジションを持ってはいけない状況に陥ったと言えます。