やってはいけないこれだけの理由

第140回「反トランプが支持率回復・・・各国の政治状況を知らずにやってはいけない」

4月2日、大風呂敷を広げたトランプ米大統領はどうするか?


いよいよ、今週4月2日にトランプ政権による相互関税が発表されます。

(日程的に、金融機関からすると前日に新年度が始まったばかり、事業法人も人事異動などでバタつく中で、このようなビッグイベントが行われるのはたまったものではありません。)


当初は自動車への関税についても同日に発表予定とされていましたが、先週の報道によると自動車等は発表されないと報じられています。

ところが先週26日には米国外で生産された自動車には25%の課税をかけると発表。

ただし、ブラフばかりを繰り返すトランプ米大統領ですので、二転三転する可能性も否定できません。


一部が発表されないとの憶測を生んでいるのは、トランプ大統領にとっては、思ったよりも脅しという名のディールを多くの国で通じなくなっていること。

本人は気にしていないそぶりを見せているものの、株式市場が軟調なことで、作戦を練り直しているのかもしれません。


いずれにしろ、トランプ米大統領は「我々は、敵味方問わず、世界中のあらゆる国から金をむしり取られてきた」と述べ、「4月2日はアメリカにとって解放の日になる」と大風呂敷を広げてしまっています。

2日に市場が想定していたよりも関税対象が小幅なものになれば、リスク選好の動きになる可能性もあり得そうです


反トランプが支持率回復のカギ


日本は地政学上、中国、ロシア、北朝鮮などに囲まれていることもあり、通商面だけではなく国防面でも米国には逆らえない国のままです。

ただし、他国では第1次トランプ政権でトランプ大統領が国際協調などを考えて行動することはないと判断し、脱米国路線に舵を切り始めています。


しかも、反トランプを主張すると政治家にとって最も重要な支持率が上昇する傾向にもあるから、なおさらです。


隣国のカナダでは、人気が凋落していたトルドー前首相が米国に対抗する措置を発表すると支持率が回復し始めました。

そして、トルドー氏から引き継いだカーニー首相が率いる自由党は23日時点で支持率が37.5%となり、保守党の37.1%を上回りました。

トランプ氏が大統領に就任する前の年始は、自由党の支持率が20.1%だったのに対し、保守党は44.2%とダブルスコアで負けていたものが、大逆転しています。


NBAやNHLなど米国とカナダをまたいでプロリーグがあるスポーツで、カナダで開催される試合では、米国国歌が流れるとブーイングが流れるほど、嫌米感情が増えています。

それもこれも、カナダを米国の「51番目の州」にすべきなどとトランプ大統領が発言をしたり、関税の負荷を高めようとしたわけですので、当然と言えば当然な話です。

中国の国家主席が日本に対して同様の発言をした場合に、日本人がどう反応するか考えるとカナダ人も黙ってはいられないのも頷けます。



また、カナダ以外でも反トランプが賞賛されている事象が出ています。


南アフリカでは、ラスール駐米大使が米国から国外追放され、先週23日に南アに帰国しましたが、多くの国民に帰国後に歓迎を受けました。

そもそもの発端は、南アに対してトランプ政権が、南ア政府が白人農家の土地没収を幇助しているという根拠のない主張に基づき、対南アの援助を停止しました。

これに対して、ラスール駐米大使が「世界的な白人至上主義運動を主導し、外交に関しては確立された規範や慣行を破壊している」と非難。

そして、ルビオ米国務長官はXで「南アフリカの駐米大使はもはや偉大なわが国では歓迎されない」とし、逆にラスール氏のことを「人種差別をする政治家だ」という見解を示しました。

南ア政府からすると、時計の針をアパルトヘイト時代まで戻そうとしているトランプ政権に対して、真実を語った駐米大使が帰国後歓迎されるの当たり前のことだったでしょう。


反トランプの通貨はどう動くか?


このように、カナダや南アだけでなく、徐々に反トランプ政権を主張する政治家が、米国以外では支持率を高める傾向にあります。

トランプ政権にとって、このような国に対しては、おそらく関税を課する可能性が高くなるでしょう。

よって、短期的にはカナダドルや南アランドは売られやすいと思われます。


ただ、中長期的には通貨安が進むかの判断は難しいでしょう。

理由としては、反トランプの政治家は国民の支持が高いことで、政治基盤は安定していること。

インフレに対しても、米国の圧力によるインフレ高進の場合は理解を得やすいと思われます。


更に、代替国を探すことも、これまでよりも容易になりつつあります。

カーニー首相は最初の外遊を米国ではなく欧州にしました。

もともと、カーニー首相はカナダ中銀(BOC)総裁の後にイングランド銀行(英中銀=BOE)総裁に就任していたことで、欧州では知名度が高く、多くの要人との親交があります。

欧州との通商は活発化し、トランプ政権は欧州を敵視しているので利害関係も一致します。


一方南アも、BRICSという強い基盤があることで、これまで以上に中国に接近し、ロシアや新たに加入したBRICS国との通商も活発化する可能性もありそうです。

また、すでに3月13日にフォンデアライエン欧州委員長が南アを訪問し、南アに対して47億ユーロの援助(南アへの投資)が決定しています。

このように、代替国が増えているのが現状で、短期的にカナダドルや南アランドが売られたとしても、中長期はどの程度影響が出るかはわからないでしょう。


よって、これまでのように米国に睨まれたら終わり、すなわちその通貨は売られ続けるということではない、ということも考慮しないのいけないでしょう。

この連載の一覧
第140回「反トランプが支持率回復・・・各国の政治状況を知らずにやってはいけない」
第139回「石破降ろし・・・FXも参議院選挙を考えないでやってはいけない」
第138回「4月上旬・・・重要な日程を知らずにやってはいけない」
第137回「ドル円の押し下げ介入のリスクを考えないでやってはいけない」
第136回「歴史は繰り返す・・・過去の歴史を知らずにやってはいけない」
第135回「なぜトランプ米大統領は停戦交渉を進めるか?・・・欧州圏の動向を考えずにやってはいけない」
第134回「2025年の10大リスク・・・すでに現実化、FXの動向も予想しないでやってはいけない」
第133回「米加墨通商摩擦・・・どこの国が得するかを考えないでやってはいけない」
第132回「リスク回避の動き・・・そろそろこれまでの常識通りにやってはいけない」
第131回「トランプ政権開始で一瞬先は分からず・・・8年前に倣ってやってはいけない」
第130回「日本の経済指標・・・真剣に読み解いてやってはいけない」
第129回「第2次トランプ政権・・・米国離れを考えないでやってはいけない」
第129回「順張り・逆張り?それぞれ何をやってはいけない?」
第128回「昨年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第128回「短期・中長期のポジションについて・・・ポジションを混同してやってはいけない」
第127回「日銀総裁驚きの発言・・・総裁発言を信じてやってはいけない?」
第126回「第2次トランプ政権・・・脱米国になる可能性を無視してやってはいけない?」
第125回「何が市場を引っ張っているか分からないでやってはいけない」
第124回「12月の日銀政策決定会合・・・データを信じてやってはいけない?」
第123回「FXは専門家に任せてやってはいけない」
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
【やってはいけないこれだけの理由】第20回「ファンダメンタルズには逆らうな」
【やってはいけないこれだけの理由】第19回「日本語を信じるな…翻訳ソフトで良いので原文を読む」
【やってはいけないこれだけの理由】第18回「サプライズ介入は成功するのか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
【やってはいけないこれだけの理由】第15回「介入に備える…その4、中銀は負けが多い」
【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第9回「FXだけで食べていく計画、その1…まずは金融機関と違うことを認識」
【やってはいけないこれだけの理由】第8回「儲けるために大事なこと…臆病者が勝つ」
【やってはいけないこれだけの理由】第7回「新聞は読むな?」
【やってはいけないこれだけの理由】第6回「FX詐欺でTKOされないために」
【やってはいけないこれだけの理由】第5回「どのFX指南役が信用できるか、その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第4回「140.00円に売りなんて置いてはいけない!」
【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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