やってはいけないこれだけの理由

第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」

本来は、「若者こそFX取引を」の続編を記載する予定でしたが

今回は金融危機不安が再燃していることで、こちらの話題について記載します。


この数週間の市場の目が集まっているのは、金融機関のシステム不安を払しょくできないことです。

そして、シリコンバレー銀行(SVB)が破綻し、新たなリーマンショック再来との話も出ています。

また、複数の米銀が破綻しただけでなく、大手クレディ・スイス・グループの経営不安も再燃しています。


ここで重要なのは、多くの市場参加者が、中央銀行や政府が経営危機に直面した金融機関について

その取扱いを勘違いしていることです。

救済問題の本質を分からずに、取引をすることは痛い目に合ってしまいます。


過去の破綻も想定外だった


そもそも、多くの人たちが、大手の金融機関が破綻することは無いだろうと

いまだに思っていることでしょう。


しかし、日本でも都市銀行の1つだった北海道拓殖銀行

3つしかなかった長期信用銀行のうちの2つ、日本長期信用銀行、日本債権信用銀行

4大証券の1つだった山一證券・・・これらはいずれもなくなっています。


また、海外でも「女王陛下の銀行」と言われたベアリングス銀行

そして、リーマンブラザーズなどの大手もなくなりました。



破綻するべきして破綻したと思われる方もいるでしょうが

当時は「これだけのビッグネームが破綻するわけがない」

「いずれは国が助けてくれるだろう」などと思っていたわけです。


この経験を実際に体験すると、一回金融機関が経営危機に陥ると

何が起きてもおかしくはないという気持ちになるでしょう。

しかし、この経験がない投資家からすると、甘く考えがちになります。


流動性供給と銀行救済は異なる


今回の金融危機に関して、一番気になる点が市場参加者の中で

中央銀行による流動性供給と銀行救済が同じと捉えようとしている方が多いことです。


CS株が大幅に下落していた今月15日に

スイス中銀(SNB)とスイス金融市場監督局(FINMA)が共同声明を発表しました。

声明ではバーゼルⅢを厳守していることで「必要であれば、SNBはCSに流動性を提供する」

と、発表しました。


この発表を受けて、市場がリスク回避で売られていたドル円やユーロの買い戻しに動くのは

ある程度は理解できますが、この発表で「CSは安泰」と

捉えた人があまりにも多くいるのには驚きました。



しかし、決して安泰というわけではありません。

中央銀行による流動性供給と銀行救済は全く別物だからです。


金融機関が資金繰りに苦しんだり、経営の問題が生じた場合に

バーゼルⅢを守っていた金融機関に対して、中央銀行も政府も無視をするわけにはいきません。

まずは、できることを金融機関に対して行おうとします。それが流動性の供給です。


銀行救済は税金も投入される


では銀行救済とはどういうことでしょう?

実は私が以前働いていた英系金融機関は、まさにこの銀行救済を受けて助かりました。

救済するために英国政府が金融機関の株を8割以上も買いました。


政府が私企業の株を買う、これは国民の税金で株を買うことを意味しています。

当然のように国民は金融機関の救済のために税金を使うことに不満を持ち

英国の一部支店では、ごみを投げられたり、窓を割られるなどの暴動も起きました。


余談ですが、この措置の後に、私は英本店へ出張せざる終えなかったのですが

タクシーの中で「どこで働いているんだ?」と運転手さんに聞かれましたが

絶対に本当のことを言えないほど危険な雰囲気でした。


流動性供給は、取りあえず貸し渋られて困っているのなら助けますよというものです。

一方で銀行の本格救済は、国及ぼ国民が一つの私企業を助けるための行動です。

政治家からすれば、国民の不満がたまるこの行動に舵を切ると

選挙で負ける可能性も高まり、簡単にできるわけではありません。


経営危機と言われている、CS並びに複数の米系支店などがこの後どのような道を進むかはまだ分かりません。

しかし、流動性供給で「これで銀行は救われて、リスク回避の動きは終了!」

などと言うことはありません。(回避できることを祈りたいですが)


今後の救済がどのようになるかを分からずに、決めつけてのトレードはやってはいけないと言えるでしょう。




この連載の一覧
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
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第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
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【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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