やってはいけないこれだけの理由

第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」

11月を振り返る、33年ぶりの円安水準・・・1990年は何があったか?


11月相場を振り返ってみます。

先月は10月の米消費者物価指数(CPI)が予想比を下振れたことや、11月は円転玉が多いこと

で月間を通して円買いが優勢になり、ドル円の上値がいったんは抑えられました。

しかし、円安基調は変わっていないと思われます。


11月は、円はスイスフランに対して過去最安値を更新、ユーロに対しては15年ぶりの安値

他の通貨に対しても円安となりました。(例外は円の最高値を更新したトルコリラ円くらいです)


ドル円は昨年つけた151.95円が視野に入りましたが、辛うじて上値は抑えられました。

この151.95円というのは、1990年7月以来のドル高・円安で、実に33年前の水準でした。

私は駆け出しのFXディーラーでしたが、個人投資家がFXをやるような時代ではありませんでした。


1990年に何が起きていたかというと海外では

「イラクがクウェート侵攻」「東西ドイツが統一」「南アでマンデラ氏が釈放」

日本では「天皇陛下の即位の礼」「自民党が総選挙で勝利(当時は海部首相)」

となっています。


この時の経済ネタとしては、日米経済摩擦がありました。

そして、日米間の貿易不均衡を改善するために、構造協議が決着します。

よって、この頃はFXディーラーが一番注目していた経済指標は「米国の貿易収支」だったわけです。


ファンダメンタルズひどく、円安が続く


それから33年も経過し、再び円安になったわけですが、この円安は非常に根が深い円安です。

そもそも、円安が日米間=ドル円だけではないことで、なかなか止められません。


なぜこれほどの円安が進んでいるかというと非常に簡単で、ファンダメンタルズの弱さです。

日本はOECD(経済協力開発機構)のデータでも約30年間給与総額が変わらない国です。

1990年から全く給与がほぼ上がることがなかった国です。



岸田政権が給料を上げるように促していますが、30年上がらなかった国ですので

なかなかこの遅れを取り戻すのは至難の業でしょう。

また、現在も実質賃金が18カ月連続で下がっています。

しかも、その間に増税や社会保障は上がる一方。国民が疲弊してきたわけです。


政治家や財務省などから「ファンダメンタルズに合っていない」などの発言が聞こえますが

政治家も役人も自分たちの責を認めたくないのでしょうが、無策だったことで

ファンダメンタルズ通りに日本売り・円売りが続いたわけです。


中銀は躊躇しない・・更なる引き締めと更なる追加緩和


日米の方向性の違いが円安の大きな一因ではあります。

たしかに、米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ打ち止めを示唆していることや

来年5月ことは利下げ予想が高まっています。


一方で日本がYCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)の再修正が行われ

わずかながら、これまでとは違う動きが見えます。


しかし、もともとの金利差があまりにも大きいことで、埋め切れないギャップがあります。

しかも、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は11月9日の国際通貨基金(IMF)での講演で

「さらなる引き締めが適切になれば躊躇しない」と発言。

一方日銀は10月31日の声明文で「必要なら躊躇なく追加緩和」と真逆なことを言っています。


このように、経済のファンダメンタルズ、それに纏わる金融政策をみても円を買う理由がありません。

しかも、日本の景気が悪く、国民の生活が苦境に立たされている状況で

もし、本邦の金利が上昇スピードを速めた場合は、給料が上がらずに金利が上がりローン返済が滞るなど

大きな懸念材料があります。政府与党も支持率凋落でこのような動きを回避したいでしょう。


円安相場・・・どうやって儲けるか?


ここまで来た円安地合いで、どうやって儲ければ良いかが悩ましいところです。

おそらく、円安の流れを止めるのは「実弾介入」しかないでしょう。


因みに

円安をけん制したりする発言や、当局が銀行に介入を示唆するような動きを「口先介入」と呼び

実際に本邦当局が円買いや円売りを日銀を通して売買するのを「実弾介入」と呼ばれています。

また、介入ではないのに、介入もどきの動きになることを「なんちゃって介入」などとも呼ばれています。


この状況下での取引スタイルとしては

円を買う理由がないとは言いつつ、ドル円をショート(円買い)は「あり」だと思います。

ただし、水準の見極めが重要です。昨年の高値を超えた場合や、大台を超えて上昇し、はねた場合などは

待ってましたとばかり介入をやる可能性があります。介入のスタイルにも癖があるので、見極める必要があります。


どの財務官(日銀介入といわれていますが、介入の決定権は財務省)についても言えることは

「負けず嫌い」なこと。これまでも日本の最高学府を卒業し、その中でもエリート中のエリート

財務省でもトップまで上り詰めた方々が、負けるのが嫌いなのは分かりやすいでしょう。

よって、いざ介入が入ったら、数日間はその流れに逆らってやってはいけません。

逆に言えば、介入の効果が高いとき、FX関係者が油断しているときに介入は行われやすいです。


ドル円のショートを仕込んだ方は、この水準をしっかりと判断しないと、常にトレンドと逆に動き

苦しい日が長く続き、どんどん持ち高が悪くなります。それに耐えらえる水準を小分けにして持つのが良いでしょう。


一方で、円安という大きな波があるのドル円をロングで取引するスタイルも「あり」です。

その場合は、とにかく突っ込んで買ってはいけないでしょう。

もし、突っ込んで買いたい場合は、下がった局面で必ずナンピンできるくらいのポジションにしたいところです。


いずれにしろ、日本のファンダメンタルズは弱く、実弾介入以外円安の流れは止められないかもしれません。

このまま円安を放置するのであれば、現政権は輸入物価が上がろうが気にも留めないという政権ということでしょう。


鈴木財務相が為替について万全の対応を行うと発言しつつも、「円安のマイナス面を緩和、プラス面を最大化が重要」

「円安はプラスとマイナス双方に様々な影響がある」と述べています。

多くの輸出企業がすでに円安局面で為替予約を行っていることで、現行水準では円安のメリットよりもデメリットの方が大きいにもかかわらず

円安の負の側面から目を逸らそうとする発言は、海外からの圧力で実弾介入を積極的に行えないから、との声も出始めています。


もし、このような発言が続いた場合には、昨年のような円買い介入はまだまだ行われない可能性もあります。

ドル円のロングもショートも、要人の発言には要警戒となります。


11月後半から円安が僅かに是正されていますが、ここからの相場はまだ予断を許さない状況と思われます。











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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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