他国は中銀の独立性を重視・・・中銀も政治圧力に負けない
中央銀行の独立性については、これまでも何度も記載してきました。
バイデン米大統領はパウエル氏が米連邦準備理事会(FRB)議長に就任してからは一度も話していないと述べるなど米国は独立性が厳格です。
オーストラリアではチャーマーズ豪財務相が「RBA(豪準備銀行)の利上げが豪経済を破壊している」と、RBAが利下げしないことを批判しています。
しかし、ブロックRBA総裁は「インフレ率が持続可能な形でターゲットレンジに向かって収束していると確信できるまで、金融政策は十分に引き締め的である必要」と財務相に従いません。
さらに、「政治とは距離を置きたい」と述べ、「リセッション入りの回避を目指すが保証はできない」などと言及し、仮にリセッションに陥ろうが中銀の役目としてはインフレ抑制の方が重要という姿勢を貫いています。
そもそも、政治=政府からすると、株価が上昇することは政権支持率を支えることで、高金利を嫌う傾向にあります。
日銀には独立性はない!
一方、日本の中央銀行である日本銀行はどうでしょうか?
日本銀行法第3条第1項にも、「『日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない』として、金融政策の独立性について定められています。」と、日銀のホームページにも記載されています。
これだけ読むと、日銀も独立性があります、と言えるでしょう。
しかし、「同時に、日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』(第4条)とされています。」とも記載されています。
要するに、第3条には自主性と定められていますが、第4条に政府と意思疎通、すなわち政府の方針に従うように書いてあり、日銀は良かれ悪かれ政府の意向を聞いてしまう傾向にあります。
日銀のホームページを見ればわかりますが日銀政策決定会合には、しっかりと政治家や財務省、内閣府の人間が会合に出席しています。
先月行われた政策決定会合では19日には財務省から寺岡光博大臣官房総括審議官、内閣府から林幸宏内閣府審議官が出席。
20日には財務省から自民党の衆議院議員である赤澤亮正財務副大臣、内閣府から19日続き林幸宏内閣府審議官、そして自民党衆議院議員の新藤義孝経済財政政策担当大臣も参加しています。
政策決定が下される重要な会議で、与党政治家を含め政府の人間ががっつりと周りを固めて会合を見ているわけです。
これでけの政府からの圧力がかかっている中銀の政策決定会合は他国では聞いたことがありません。
このような状況で、日銀の独立性を真に受けることはできないでしょう。
今後も政治に翻弄される日銀の方向性
先ほど米国とオーストラリアの例をだしましたが、日銀の独立性を石破首相就任前後を振り返ってどうなっているでしょうか?
10月から首相の職に就いた石破茂氏ですが、これまでは「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げを容認していました。
しかし、自分がいざ首相に就任すると、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」「これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展することを期待している」と一転これまでの姿勢が変わっています。
そもそも、首相という日本で最も重い立場の人間が「個人的には」という言葉を使おうが、それが個人的な見解だけで終わるわけがないのですから、何とも無責任な話です。
また、この石破首相の変節は、今月の総選挙を前に株安を避けたいからという噂もあります。
市場からすれば、これまでの政治家としての主義主張がこんなに簡単に変わることに驚きを隠せず「石破ショック」と呼ばれています。
これからも植田日銀総裁をはじめ多くの日銀関係者の発言が相場を動かすことになるでしょう。
しかしながら、残念なことに日銀が独立性をもって政策を判断するということは無いと言えます。
10月30-31日に政策決定会合が開かれますが、政府と意思疎通を図らなくてはいけない日銀がこれまでと路線を変更するようなものを発表するのは考えられません。
総選挙で現与党が勝てるかすらわかっていません。
また、仮に総選挙で現与党が勝った場合でも、大幅に議席減少となれば石破氏が責任を取らされる可能性もあります。
要は石破氏が退陣に追い込まれる可能性すらあるわけです。
振り返ってみても7月の政策決定会合後に植田日銀総裁のタカ派発言が、経済指標の発表が特段無かったのに急に変わったことは、株安による政治的圧力がかかったとのうわさもあります。
残念ながら、日本には中銀の独立性は建前だけと思った方が良いでしょう。
今後も総理大臣が何をやりたいかが、日本の中銀の動向を決めるということになると思ってFXを取引しないといけないでしょう。