やってはいけないこれだけの理由

第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」

他国は中銀の独立性を重視・・・中銀も政治圧力に負けない


中央銀行の独立性については、これまでも何度も記載してきました。

バイデン米大統領はパウエル氏が米連邦準備理事会(FRB)議長に就任してからは一度も話していないと述べるなど米国は独立性が厳格です。


オーストラリアではチャーマーズ豪財務相が「RBA(豪準備銀行)の利上げが豪経済を破壊している」と、RBAが利下げしないことを批判しています。

しかし、ブロックRBA総裁は「インフレ率が持続可能な形でターゲットレンジに向かって収束していると確信できるまで、金融政策は十分に引き締め的である必要」と財務相に従いません。

さらに、「政治とは距離を置きたい」と述べ、「リセッション入りの回避を目指すが保証はできない」などと言及し、仮にリセッションに陥ろうが中銀の役目としてはインフレ抑制の方が重要という姿勢を貫いています。

そもそも、政治=政府からすると、株価が上昇することは政権支持率を支えることで、高金利を嫌う傾向にあります。


日銀には独立性はない!


一方、日本の中央銀行である日本銀行はどうでしょうか?

日本銀行法第3条第1項にも、「『日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない』として、金融政策の独立性について定められています。」と、日銀のホームページにも記載されています。


これだけ読むと、日銀も独立性があります、と言えるでしょう。

しかし、「同時に、日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』(第4条)とされています。」とも記載されています。


要するに、第3条には自主性と定められていますが、第4条に政府と意思疎通、すなわち政府の方針に従うように書いてあり、日銀は良かれ悪かれ政府の意向を聞いてしまう傾向にあります。

日銀のホームページを見ればわかりますが日銀政策決定会合には、しっかりと政治家や財務省、内閣府の人間が会合に出席しています。

先月行われた政策決定会合では19日には財務省から寺岡光博大臣官房総括審議官、内閣府から林幸宏内閣府審議官が出席。

20日には財務省から自民党の衆議院議員である赤澤亮正財務副大臣、内閣府から19日続き林幸宏内閣府審議官、そして自民党衆議院議員の新藤義孝経済財政政策担当大臣も参加しています。


政策決定が下される重要な会議で、与党政治家を含め政府の人間ががっつりと周りを固めて会合を見ているわけです。

これでけの政府からの圧力がかかっている中銀の政策決定会合は他国では聞いたことがありません。


このような状況で、日銀の独立性を真に受けることはできないでしょう。


今後も政治に翻弄される日銀の方向性


先ほど米国とオーストラリアの例をだしましたが、日銀の独立性を石破首相就任前後を振り返ってどうなっているでしょうか?


10月から首相の職に就いた石破茂氏ですが、これまでは「金融緩和という基本的政策を変えないなかで徐々に金利のある世界を実現していくのは正しい政策だ」と日銀の利上げを容認していました。

しかし、自分がいざ首相に就任すると、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」「これから先も緩和基調を維持しながら経済が持続的に発展することを期待している」と一転これまでの姿勢が変わっています。

そもそも、首相という日本で最も重い立場の人間が「個人的には」という言葉を使おうが、それが個人的な見解だけで終わるわけがないのですから、何とも無責任な話です。



また、この石破首相の変節は、今月の総選挙を前に株安を避けたいからという噂もあります。

市場からすれば、これまでの政治家としての主義主張がこんなに簡単に変わることに驚きを隠せず「石破ショック」と呼ばれています。


これからも植田日銀総裁をはじめ多くの日銀関係者の発言が相場を動かすことになるでしょう。

しかしながら、残念なことに日銀が独立性をもって政策を判断するということは無いと言えます。


10月30-31日に政策決定会合が開かれますが、政府と意思疎通を図らなくてはいけない日銀がこれまでと路線を変更するようなものを発表するのは考えられません。

総選挙で現与党が勝てるかすらわかっていません。

また、仮に総選挙で現与党が勝った場合でも、大幅に議席減少となれば石破氏が責任を取らされる可能性もあります。

要は石破氏が退陣に追い込まれる可能性すらあるわけです。


振り返ってみても7月の政策決定会合後に植田日銀総裁のタカ派発言が、経済指標の発表が特段無かったのに急に変わったことは、株安による政治的圧力がかかったとのうわさもあります。

残念ながら、日本には中銀の独立性は建前だけと思った方が良いでしょう。

今後も総理大臣が何をやりたいかが、日本の中銀の動向を決めるということになると思ってFXを取引しないといけないでしょう。

この連載の一覧
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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