やってはいけないこれだけの理由

第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」

「これ以上ない結果」の米雇用統計で円安に


今回は数週間前の値動きを振り返ってみたいと思います。


10月4日に9月の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数増減、失業率ともに好結果にりました。

また、前月分の非農業部門雇用者数も上方修正されました。

この結果発表後にテレビのインタビューに応えたグールズビー米シカゴ連銀総裁は「雇用統計はこれ以上ない結果だ」と述べるなど、とても良好な経済指標の結果となりました。


そして、この結果を受けてシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」によると、11月6-7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50%の利下げを予想する確率は前日の32.1%から0%になったのはご存じの通りかと思います。

更にこれまで0%だった据え置き予想が週明けの8日には2桁まで上昇しました。

FX市場もドル円が146円台から148円台まで上昇しました。

その後先週には150円手前まで上昇していますが、一時東京市場では148円前半で上値が抑えらえる展開になったのですが、それはなぜだったのでしょうか?


想定為替レートとは?


全国企業短期経済観測調査、通称「日銀短観」が四半期毎に日銀が公表しています。

調査対象数が多く、速報性も高いことから、過去はこれまでで一番円相場を動意づけるような重要指標でした。

最近では市場の反応は限られていますが、それでも重要な指標と言えます。



短観は調査した企業の景況感が分かるだけでなく、同時に想定為替レートも発表されます。

直近の日銀短観で示された2024年度の想定為替レートは全規模・全産業が145.15円、大規模・製造業は144.96円でした。


通常は想定為替レートが発表された場合でも、市場が急に動意づくことはあまりないことで、想定為替レートの存在自体を気にしない個人投資家もいることでしょう。

しかし、その時に動かない場合でも、この水準が後々に重要視されることもあります。


それが、前回の雇用統計後の状況です。

それ以前にも想定為替レートよりもドル高・円安が続いていたときもありましたが、そのような状況下ではドル売り予約を慌てて行わない企業もあります。

ところが8月に入り急に想定為替レートよりもドル安・円高市場は傾いてしまいました。

企業の為替担当者からすると、想定為替レートで売り逃したということは社内的には失点といってもよいでしょう。

その売り逃したものが、米国の経済指標により再びドル高・円安となり、売れる水準まで戻ってきたわけです。

このような好機を逃して、ドル売り手当を行ていなかった場合には責任問題になってしまいます。

よって、戻ってきたことで手堅くドル売り予約をしようとするのは分かりやすいでしょう。


特に企業決算として重要とされる3月末でも、想定為替レートで為替予約(ドル売り)ができるチャンスを逃す手はありません。

これは第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」に詳細を載せていますが、先々週は3月末までのフォワードポイントが340Pips近くあったことで、148.40円で為替予約をすれば3月末では145.00円で売れて、大規模・製造業の想定為替レートより良いレートでドル売りができたわけです。

社内的に失敗だったものが、ここで取り戻せるのであれば売らないわけがありません。


通常はほぼFX取引をしている個人投資家は想定為替レートやフォワードポイントを踏み込んでチェックをしないでしょう。

しかし、個人投資家よりも市場に影響を大きく与える企業の為替予約が、どの辺の水準でドルを売りたがっているのかは想定為替レートを覚えておけば、おおよその水準を把握できるとも言えます。(もちろん企業各社により、社内レートは異なります)


これまであまり気にしていなかった、想定為替レートやフォワードポイントなどが、実は市場動向に非常に重要になるので、このようなことを知らないでやってはいけないでしょう。



この連載の一覧
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
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第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
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第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
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第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
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第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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