前回は介入の効果が徐々になくなることを少し記載しました。
今回は、これまでの介入の失敗例について記載します。
単独介入は特に効果なし
これまでに、G7各国などが協調して介入をすることがありました。
世界各国で共通して介入が必要との意見が一致した場合は、介入は非常に強力になり効果もあります。
しかし、協調介入以外の効果は限られるものが多いです。
では、なぜ協調介入が行われることが稀なのでしょうか?
例えば、現時点米国がドル売り介入をしていることを喜ばしいと思っているでしょうか?
現在の日本もインフレに苦しんでいるとはいえ2%程度です。
米国や他国のインフレ高進と比較すると、日本のインフレは僅かなものです。
バイデン米大統領や米連邦準備理事会(FRB)がインフレ対策に苦しんでいる中で、輸入物価の上昇を進める自国通貨安を喜んでいるとは思えません。
両国が置かれた経済や政治の環境下の違いもあり、協調介入は非常に難しいものです。
中銀の負けた例は多い
ファンダメンタルズを無視した介入で、中銀が負けた例はこれまで幾度となく見てきました。
つい最近では2015年のスイスフランショックもスイス中銀の負けでした。
しかし、それよりも現在の状況が似ているのは、1992年の「ポンド危機」です。
「ポンド危機」の背景を短めに記載しますと・・・
1990年に英国はERM(欧州為替メカニズム)に参加したのですが、当時は他の欧州各国と英国とでは経済状況が違い
英国以外が利上げをするなか、経済が停滞していた英国は利上げが難しい状況でした。
そして、ERMで設定されているポンドは過大評価されていたことで、ジョージ・ソロスなどのヘッジファンドがポンド売りを仕掛けます。
これに対してイングランド銀行(英中銀=BOE)はファンダメンタルズを無視し利上げをして通貨防衛を行います。
さらにポンド買い介入を行います。
余談ですが、当時英系金融機関で働いていたこともあり、BOEは介入のために東京支店にも電話をかけてきていました。
しかし、ファンダメンタルズを無視した利上げや為替介入は無力で、一気にポンドは大幅に下落してしまいました。
今回の円安に対しても、一部では日本も利上げをすれば円売りが止まるとの声もあります。
しかし、いまだに実質賃金が上昇せず、経済も停滞傾向から抜け出していない中で、利上げを行うことは経済的にも政治的にもリスクが高いでしょう。
それを考慮すると、当時の英国(ポンド)と、今の日本(円)がおかれている状況は似ているとも言えます。
よって、利上げもできない中で、決して投機だけではなくファンダメンタルズでも円は売られるべくして売られているので
今回介入の効果は長続きはしないのではないかとの考えが多くあるわけです。
協調介入は難しいが、今後は?
上述したように協調介入は非常に難しいです。
しかしながら、現在のドル高に苦しんでいる国は日本だけではありません。
ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁も通貨(ユーロ)安がインフレの一因と認めています。
デギンドスECB副総裁も同じ意見です。
英国もインフレに苦しみ、ポンドは対ドルで史上最安値を付けているように通貨安も問題と思っているでしょう。
また、多くのアジア諸国も同様に通貨安に苦しんでいます。
米国は上述のようにインフレ対策に翻弄されていますが、ロシアをめぐり同盟国との協調がこれほど重要な時期はここ最近ではありません。
米国が同盟国の軍事的な協力などの駆け引きで、他国の通貨安に対して協調する可能性が今後出てくる可能性は否定できません。
もし、今後そのようなことが起こる場合は、米国の要人が協調介入をする前に何かニュアンスを持たせた発言をするでしょう。
その時には市場が大きく動くことで警戒をしておきたいところです。