国際決済銀行(BIS)が3年に1度発表する世界の外国為替取引高で
対米ドルが対象の取引で英国通貨ポンドは約13%のシェアになっています。
これはユーロの約31%、円の約17%に次ぐ3位の取引高です。
余談ですが、金融機関内ではポンド対ドルの取引を「ケーブル」と呼びます。
英米間にある大西洋の海底ケーブルを使い、ポンドのレートを送受信したことが起因です。
なお、よくケーブル円という人もいますが、そんな呼び名はありません。
ポンド対ドル対円などの取引は出来ませんので…。
これだけの取引量があるのに、ポンドドルやポンド円の取引を「やってはいけない」
理由はなんででしょうか?
ポンドはプロでも難しい通貨
米系証券に以前働いていた友人が、退職後にポンド円の取引を行い
一晩明けたら約1億円損をしていたことがありました。
普通に考えたら、1億円を持っていること自体が凄いことですし
それだけ損失を放置してしまったことにも驚いてしまいます。
しかし、一つ確実に言えるのはポンド円(ポンドドル)は
それほど振幅が激しく、危険な通貨だということです。
しかも、上述のように米系証券で為替の担当だったプロですら大損する通貨です。
ポンド取引がなぜ難しいか
筆者は複数の英系銀行に20年以上勤務していましたが
ポンドの取引は他通貨と比較しても難しい通貨と言えます。
ここでは、ポンドの取引が難しい理由を挙げたいと思います。
1…市場流動性が悪い
対ドルで世界で3番目に取引高が多いのですが、流動性は悪いです。
ドル円とポンドドルを比較ても数%程度しか取引高は違わないのにも関わらずです。
ドル円は両サイド(売りも買いも)、輸入や輸出、本邦投資家
そして、個人FXからのオーダーに囲まれていることで流動性は豊富にあります。
しかし、ポンドドルやポンド円はそのようなオーダーにはあまり囲まれていません。
「取引高が多いのに流動性が悪いなんて信じられない」という意見もあるでしょう。
では、なぜ取引高が多いかというと、ロンドン時間に集中して大きな取引が集まるからです。
ドル円と違い、通常はオーダーがスカスカなのです。
2…動きが複雑
そもそも、ポンドの動きを見るときに一番重要なのはポンド対ドル、ポンド対円ではありません。
一番重要なのがユーロ対ポンドなのです。
英銀本店でも一番取引量が多いのはユーロドルでしょうが、次はユーロポンドです。
日本人にとってはこのユーロポンドを肌感覚でつかむのが非常に難しく
ユーロポンドの値動きにポンドドルが左右される相場が多いことで取引を難しくさせています。
3…集中的に取引量が莫大になる
ロンドン時間に集中した取引が集まると記載しましたが
ロンドンフィキシング(冬時間は日本時間25時、夏時間は24時)などの取引量は相当な額になります。
特に月末のフィキシングなどは、こんな大きな取引見たことがないと言えるほどの取引量です。
ロンドン本店で取引をしていた時も、こんな取引量は日本時間でやることは不可能と思える量でした。
これは英系の実需などが一極集中して決済にむけて取引が集まるのが一つの要因です。
その取引の大きさで、ファンダメンタルズに沿わない動きになり
せっかく正しいポジションと思われたものも、ストップロスがついてしまうことが多くあります。
簡単に書きますと、自分が見ていない時間帯(ロンドンの午後=日本の深夜)
に無茶苦茶な動きになってしまうことが多いのです。
それでもポンドを取引するには
話が矛盾しているかもしれませんが、私個人はポンドの取引での勝率は高いです。
さすがに英系に長期間いましたので、その通貨の特徴を知っているからだと思います。
よって、もし難しい通貨でも取引をしたい場合へのアドバイスを書きます。
「ユーロポンドの値動きを必ず追いかけること」
動きが複雑な理由の2つ目に書きましたが、ポンドでの取引の中心はユーロポンドです。
この動きをフォローしない限り、ポンドの本当の値動きを見逃してしまいます。
ポンド円などは、世界でやっている人は非常に少なく、ほぼ日本人なのでトレンドは作れません。
「大相場に備えること」
ポンドは一度火が付くと大相場になります。
逆張りは非常に危険な通貨です。
今年に入り対ドルで史上最安値を付けた時の動きを見れば分かるように、一度動き始めたら地の果てまで動きます。
理由は上述した通り、通常は流動性が悪いのにも関わらず
潜在的には大きな取引があることで、一気に大玉が同方向に出てくるからです。
「短期的なら時間帯に気を付けること」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
にも記載しましたが、欧州の入り際には欧州勢がアジア勢の反対サイドの取引を行うことが多々あります。
この反対サイドの動きで振り落とされる(ストップロスをつけられる)ことに注意する必要があります。
また、上述したようにロンドンフィキシング(特に月末前の数日)も非常に危険な動きになります。
これらの時間帯に気を付けた取引が必要になるでしょう。
ポンドは玄人向けの取引になりますが、通貨の特徴を知ることでリスク回避は可能です。
しかし、それまでは簡単に「やってはいけない」通貨と思います。