やってはいけないこれだけの理由

第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」

国際決済銀行(BIS)が3年に1度発表する世界の外国為替取引高で

対米ドルが対象の取引で英国通貨ポンドは約13%のシェアになっています。

これはユーロの約31%、円の約17%に次ぐ3位の取引高です。


余談ですが、金融機関内ではポンド対ドルの取引を「ケーブル」と呼びます。

英米間にある大西洋の海底ケーブルを使い、ポンドのレートを送受信したことが起因です。

なお、よくケーブル円という人もいますが、そんな呼び名はありません。

ポンド対ドル対円などの取引は出来ませんので…。


これだけの取引量があるのに、ポンドドルやポンド円の取引を「やってはいけない」

理由はなんででしょうか?


ポンドはプロでも難しい通貨


米系証券に以前働いていた友人が、退職後にポンド円の取引を行い

一晩明けたら約1億円損をしていたことがありました。


普通に考えたら、1億円を持っていること自体が凄いことですし

それだけ損失を放置してしまったことにも驚いてしまいます。


しかし、一つ確実に言えるのはポンド円(ポンドドル)は

それほど振幅が激しく、危険な通貨だということです。

しかも、上述のように米系証券で為替の担当だったプロですら大損する通貨です。


ポンド取引がなぜ難しいか


筆者は複数の英系銀行に20年以上勤務していましたが

ポンドの取引は他通貨と比較しても難しい通貨と言えます。

ここでは、ポンドの取引が難しい理由を挙げたいと思います。


1…市場流動性が悪い


対ドルで世界で3番目に取引高が多いのですが、流動性は悪いです。

ドル円とポンドドルを比較ても数%程度しか取引高は違わないのにも関わらずです。


ドル円は両サイド(売りも買いも)、輸入や輸出、本邦投資家

そして、個人FXからのオーダーに囲まれていることで流動性は豊富にあります。

しかし、ポンドドルやポンド円はそのようなオーダーにはあまり囲まれていません。


「取引高が多いのに流動性が悪いなんて信じられない」という意見もあるでしょう。

では、なぜ取引高が多いかというと、ロンドン時間に集中して大きな取引が集まるからです。

ドル円と違い、通常はオーダーがスカスカなのです。



2…動きが複雑


そもそも、ポンドの動きを見るときに一番重要なのはポンド対ドル、ポンド対円ではありません。

一番重要なのがユーロ対ポンドなのです。

英銀本店でも一番取引量が多いのはユーロドルでしょうが、次はユーロポンドです。


日本人にとってはこのユーロポンドを肌感覚でつかむのが非常に難しく

ユーロポンドの値動きにポンドドルが左右される相場が多いことで取引を難しくさせています。


3…集中的に取引量が莫大になる


ロンドン時間に集中した取引が集まると記載しましたが

ロンドンフィキシング(冬時間は日本時間25時、夏時間は24時)などの取引量は相当な額になります。

特に月末のフィキシングなどは、こんな大きな取引見たことがないと言えるほどの取引量です。

ロンドン本店で取引をしていた時も、こんな取引量は日本時間でやることは不可能と思える量でした。


これは英系の実需などが一極集中して決済にむけて取引が集まるのが一つの要因です。

その取引の大きさで、ファンダメンタルズに沿わない動きになり

せっかく正しいポジションと思われたものも、ストップロスがついてしまうことが多くあります。


簡単に書きますと、自分が見ていない時間帯(ロンドンの午後=日本の深夜)

に無茶苦茶な動きになってしまうことが多いのです。


それでもポンドを取引するには


話が矛盾しているかもしれませんが、私個人はポンドの取引での勝率は高いです。

さすがに英系に長期間いましたので、その通貨の特徴を知っているからだと思います。

よって、もし難しい通貨でも取引をしたい場合へのアドバイスを書きます。


「ユーロポンドの値動きを必ず追いかけること」


動きが複雑な理由の2つ目に書きましたが、ポンドでの取引の中心はユーロポンドです。

この動きをフォローしない限り、ポンドの本当の値動きを見逃してしまいます。

ポンド円などは、世界でやっている人は非常に少なく、ほぼ日本人なのでトレンドは作れません。


「大相場に備えること」


ポンドは一度火が付くと大相場になります。

逆張りは非常に危険な通貨です。

今年に入り対ドルで史上最安値を付けた時の動きを見れば分かるように、一度動き始めたら地の果てまで動きます。


理由は上述した通り、通常は流動性が悪いのにも関わらず

潜在的には大きな取引があることで、一気に大玉が同方向に出てくるからです。


「短期的なら時間帯に気を付けること」


【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」

にも記載しましたが、欧州の入り際には欧州勢がアジア勢の反対サイドの取引を行うことが多々あります。

この反対サイドの動きで振り落とされる(ストップロスをつけられる)ことに注意する必要があります。


また、上述したようにロンドンフィキシング(特に月末前の数日)も非常に危険な動きになります。

これらの時間帯に気を付けた取引が必要になるでしょう。


ポンドは玄人向けの取引になりますが、通貨の特徴を知ることでリスク回避は可能です。

しかし、それまでは簡単に「やってはいけない」通貨と思います。







この連載の一覧
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
【やってはいけないこれだけの理由】第20回「ファンダメンタルズには逆らうな」
【やってはいけないこれだけの理由】第19回「日本語を信じるな…翻訳ソフトで良いので原文を読む」
【やってはいけないこれだけの理由】第18回「サプライズ介入は成功するのか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
【やってはいけないこれだけの理由】第15回「介入に備える…その4、中銀は負けが多い」
【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
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【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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