やってはいけないこれだけの理由

第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」

各国の議事要旨は?


中央銀行は国によって理事会、金融政策委員会(MPC)などと呼び方は違いますが

政策決定会合を開いています。多くの国では、発表直後に大まかな声明文が発表されたり、

当日に記者会見が開かれます。FXも会見内容により上下することも多々あります。


また、声明文よりも詳細を明らかにする議事要旨を発表する中銀もあります。

欧州中央銀行(ECB)、カナダ中銀、NZ準備銀行(RBNZ)は議事要旨などは特に発表していませんが

日米豪英の各中銀は詳細となる議事要旨を会合後しばらくした後に発表します。


具体的に他国での議事要旨公表は

米連邦公開市場委員会(FOMC)、昨年12月13-14日に会合→議事要旨は1月4日発表

豪準備銀行(RBA)、昨年12月6日に会合→議事要旨は12月20日発表

英イングランド銀行(BOE)、MPC終了の翌日に政策金利と議事要旨を同時に発表となっています。


そして、日銀は昨年12月19-20日に会合→議事要旨は先週の1月23日発表されました。

会合が開かれ議事要旨が発表されるまでに、もう一度会合が1月17-18日にあったのですから

他国と比較してその遅さが目立ちます。


BOEは1日で制作するものを、日銀は議事要旨を作るのになぜ1カ月以上の時間をかかるのか?

市場にとっては新鮮味がなく、市場との対話を重視していないと非難されるのもうなずけます。


前回の日銀の議事要旨にサプライズが


上述したように時間が経った議事要旨への注目度は否が応でも下がります。

しかし、先週発表された日銀の議事要旨(昨年12月19-20日分)は注目されました。


その理由は、12月の会合で日銀がイールドカーブコントロール(YCC)を

従来の「±0.25%」から「±0.50%」へ変更したからです。


しかも、黒田日銀総裁は12月20日の会見では「YCCの運用見直しは利上げではない」と

市場関係者からすれば、意味不明の回答が出てきたことで今回の真意はなんだったのか?となり、

市場は議事要旨への注目が集まりました。


議事要旨の詳細は日銀のホームページで読めますが、その中でYCC変更は

「運用見直しは市場機能の改善に資すると述べたうえで、マーケットがどこに、どのように落ち着き

市場機能がどれだけ改善するのか、謙虚にみていくことが大切であるとの見方を示した」


「この間、何人かの委員は、長期金利の変動幅の拡大は、世界的な物価上昇圧力が高いもとで

金融緩和をより持続可能なものとする対応であり、

金融緩和からの出口に向けた変更ではないことを明確に説明する必要があると指摘した。」


と、記載されています。

この文言を読んでも市場は「相変わらず分かりにくいので、取りあえず静観」となり動きは限られました。


しかし、サプライズは議事要旨15ページ目からの文にありました。


政府からの圧力があったのか?


15ページ目には・・・

「以上の議論を踏まえ、政府からの出席者から、会議の一時中断の申し出があった。

議長はこれを承諾した(10 時 51 分中断、11 時 28 分再開)。」

この「政府から出席者」と秋野公造財務副大臣、藤丸敏内閣府副大臣にあたります。


その間に中座した政府出席者は鈴木財務相に連絡をしています。

そして、政府の意向を下記のように示しています。(抜粋)


「 本日、議論のあった内容は、『物価安定の目標』を実現する観点から、より持続的な金融緩和を実施するためのものと受け止めている。」

「 わが国の景気の先行きは、各種政策の効果もあって、持ち直していくことが期待される」

「日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、適切な金融政策運営を期待する」


多くの報道でも記載されていましたが、37分の中座が行われたこと自体が、異例中の異例です。

しかも、政府の見解まで議事要旨に記載されています。

これは政府からの圧力だったのではないかとの声が出ています。



なぜならば、時を数日前に遡る12月17日の日経新聞に「政府、日銀との共同声明見直し論」との報道が流れました。

内容は「2%の物価上昇目標の達成時期や範囲をより柔軟に」「表現の一部を修正」などとなっていました。


会合が開かれる前にマスコミを使って「政府の意向はこうなんだから、ちゃんとやれよな」と圧力、

会合を中断して政府関係者が「こうすることになりましたが、どうですか?」と確認作業、

政府は了承し、政府の思惑通りにYCC拡大決定、という流れではなったのではないかと言われています。


レームダックの中銀総裁の意向で取引してはいけない


今回の一連の流れは、現政権は黒田総裁について納得していないとのことでもあるのでしょう。


このことは、今月20日にブルームバーグでインタビューを受けた甘利前自民党幹事長の発言でもうかがえます。

このインタビューで甘利氏は

マイナス材料は少しずつ情報を出して発表時に織り込み済みにする悪だくみができる人がいい」と述べ

市場との対話不足と言われている黒田総裁への批判とも捉えられます。


これまでは安倍政権と黒田総裁があまりにも蜜な関係だったことで、政府と日銀の間のずれがありませんでした。

しかしながら、現在の岸田政権と黒田総裁の関係は安倍=黒田ラインほどは濃くはないのでしょう。

現内閣は、頑なに政策変更を拒否する黒田総裁の意向を拒絶し、政府の姿勢を12月の会合でしっかり伝えたと思われます。


12月の会合後の黒田総裁の会見を見た市場参加者は、総裁は虚ろで元気がなかったとの声もあったように

黒田総裁の意向に反する決定だったのかもしれません。

4月8日で任期が切れる黒田総裁はもうレームダックとなっていると言えるでしょう。


よって、ここからの注目は政府が2月10日頃に国会に提出予定となっている日銀の正副総裁人事です。

次の総裁は岸田内閣の意向を組むことを前提とした人事になるでしょう。


甘利前幹事長曰く、「いい意味で世界に向けて悪知恵を出せる人を期待する」。

岸田内閣の意向を組んでくれる新総裁は誰になるのか、今後の金融政策やFXに影響を与えます。

黒田総裁の時代は終わり、2月からの相場は新総裁の信条を理解しない限りは「やってはいけない」相場展開になりそうです。


この連載の一覧
第140回「反トランプが支持率回復・・・各国の政治状況を知らずにやってはいけない」
第139回「石破降ろし・・・FXも参議院選挙を考えないでやってはいけない」
第138回「4月上旬・・・重要な日程を知らずにやってはいけない」
第137回「ドル円の押し下げ介入のリスクを考えないでやってはいけない」
第136回「歴史は繰り返す・・・過去の歴史を知らずにやってはいけない」
第135回「なぜトランプ米大統領は停戦交渉を進めるか?・・・欧州圏の動向を考えずにやってはいけない」
第134回「2025年の10大リスク・・・すでに現実化、FXの動向も予想しないでやってはいけない」
第133回「米加墨通商摩擦・・・どこの国が得するかを考えないでやってはいけない」
第132回「リスク回避の動き・・・そろそろこれまでの常識通りにやってはいけない」
第131回「トランプ政権開始で一瞬先は分からず・・・8年前に倣ってやってはいけない」
第130回「日本の経済指標・・・真剣に読み解いてやってはいけない」
第129回「第2次トランプ政権・・・米国離れを考えないでやってはいけない」
第129回「順張り・逆張り?それぞれ何をやってはいけない?」
第128回「昨年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第128回「短期・中長期のポジションについて・・・ポジションを混同してやってはいけない」
第127回「日銀総裁驚きの発言・・・総裁発言を信じてやってはいけない?」
第126回「第2次トランプ政権・・・脱米国になる可能性を無視してやってはいけない?」
第125回「何が市場を引っ張っているか分からないでやってはいけない」
第124回「12月の日銀政策決定会合・・・データを信じてやってはいけない?」
第123回「FXは専門家に任せてやってはいけない」
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
第108回「日銀のパラダイムシフト2…正副総裁が市場流動性を破壊」
第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
第86回「タカ派ハト派を更新していますか?・・・最新の発言をアップデートしないでやってはいけない」
第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
第56回「ブラックアウト期間を知らないでやってはいけない…国によっても違う」
第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
第53回「スワップポイントを知らずにやってはいけない」
第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
第49回「時間帯を知る①月曜早朝取引・・・これを知らずにやってはいけない」
第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
【やってはいけないこれだけの理由】第20回「ファンダメンタルズには逆らうな」
【やってはいけないこれだけの理由】第19回「日本語を信じるな…翻訳ソフトで良いので原文を読む」
【やってはいけないこれだけの理由】第18回「サプライズ介入は成功するのか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」
【やってはいけないこれだけの理由】第16回「アジア時間の欧州通貨の動きを捨てる」
【やってはいけないこれだけの理由】第15回「介入に備える…その4、中銀は負けが多い」
【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第11回「FXだけで食べていく計画、その3…無料の情報を生かす」
【やってはいけないこれだけの理由】第10回「FXだけで食べていく計画、その2…高額の情報ベンダーと契約する必要はあるか?」
【やってはいけないこれだけの理由】第9回「FXだけで食べていく計画、その1…まずは金融機関と違うことを認識」
【やってはいけないこれだけの理由】第8回「儲けるために大事なこと…臆病者が勝つ」
【やってはいけないこれだけの理由】第7回「新聞は読むな?」
【やってはいけないこれだけの理由】第6回「FX詐欺でTKOされないために」
【やってはいけないこれだけの理由】第5回「どのFX指南役が信用できるか、その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第4回「140.00円に売りなんて置いてはいけない!」
【やってはいけないこれだけの理由】第3回「どのFX指南役が信用できるか、その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第2回「どのFX指南役が信用できるか、その1」
【やってはいけないこれだけの理由】第1回「ナンピンは魅力的。しかし・・・」

為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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