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第160回 FRB理事の解任騒動

米大統領、クックFRB理事の解任表明

トランプ米大統領は25日、連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事が住宅ローンに関連して虚偽の申告をしたとして、即時解任すると表明しました。クック氏宛てに通告した署名入りの書簡をSNSで公表しました。解任が合法かどうかは不明だが、FRBへの政治的な圧力が一段と強まった形で、金融政策運営の信認が揺らぐとの懸念が高まりそうです。

 

トランプ氏は「100%誠実で疑いの余地のない人物が必要だ」と述べ、クック氏に「違反行為」があったと批判を繰り返しました。トランプ氏はクック氏が理事就任前の2021年に契約した住宅ローンに問題があったとしています。

 

トランプ氏はクック氏の後任を早期に選ぶ考えも示しました。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、26年1月までの理事の枠に指名された米大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長をスライドさせる案のほか、世界銀行のマルパス前総裁が候補に浮上しています。

 

クックFRB理事、トランプ氏を提訴

トランプ米大統領の解任表明を受けて、クックFRB理事は解任が不当だとして28日に首都ワシントンの連邦地方裁判所に訴えを起こしました。

 

訴状では、FRBの独立性を保持するため大統領が理事を解任できるのは正当な理由がある場合のみと法律で定められていると指摘したうえで、トランプ大統領が解任の根拠とする住宅ローンの不正は根拠がなく立証もされておらず、「正当な理由」にあたらないと主張しています。

 

大統領に解任の権限ない

クック氏の解任が認められればFRBの歴史上初めての事例となります。独立性が重んじられるFRBに対してトランプ大統領が圧力を強める中、裁判の行方が注目されます。

 

連邦準備制度は最大限の雇用、価の安定、円滑に機能する金融システムの促進という法定の責務を遂行するために、連邦議会によって設立されました。連邦準備法により、理事は長期かつ定められた任期で務め、「正当な理由」がある場合のみ、大統領によって解任されると規定されています。クック氏は2022年、民主党のバイデン前政権下で黒人女性初の理事に就任し、現在の任期は38年までとなっています。

 

連邦準備制度法が解任理由として規定している「正当な理由(for cause)」とは、職務怠慢、職務放棄、職務上の不正行為、などとなっており、2022年のクックFRB理事就任以前の2021年の住宅ローン問題が解任理由となるのか否か、裁判所の判断に委ねられることになります。

 

トランプ氏とFRBの対立

トランプ氏は利下げ判断が遅過ぎるとパウエルFRB議長を批判し、辞任を繰り返し要求してきました。トランプ氏のクック理事解任表明を受けて、FRBは声明を出してクック理事の支持を表明しています。

 

FRBとの対立は「未知の領域」に突入しています。大統領が理事を一方的に解任するのは前代未聞で、金融市場の不透明感をいたずらに高めかねません。利下げ要求に応じないFRBに、意のままになる人物を送り込みたいトランプ氏の焦りも透けています。

 

FRBの理事会は議長、副議長を含めて7人で構成されます。クック氏の首をすげ替えれば、トランプ氏の意向に従う理事が増えるのは事実だが、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)は理事会メンバーに加え、全米12地区の連邦準備銀行総裁から5人が投票権を持ちます。このため、FRBの政策決定はトランプ氏の思い通りにならない公算が大きいとの見方もあります。

 

世界が固唾

今後の動きはFRBの金融政策に関する独立性がむしろこれまで慣例や政治的な約束事といった問題であったのか、あるいは実際に法的に守られているのかどうかを試す重要な事例となる可能性があります。

 

金融政策に関する独立性が米国とFRBを安定した影響力を持つ世界的な金融構造の中心軸とみなしている世界の金融市場にとって、どのくらい重要であるかどうかを試す重要な事例になり得るでしょう。

 

中央銀行の独立性はインフレ抑制のカギとなります。トランプ氏のクック氏解任騒動は、金融市場でFRBの独立性と中長期的な物価安定が損なわれるとの懸念を今後一層強める可能性もあります。FRB理事の解任騒動が今後、ドルの信認低下にもつながる懸念もあり、世界が固唾を飲んで注目しています。

この連載の一覧
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
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【FX、やるならお得に】第5回 買値、売値とスプレッド
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【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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