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第119回 米大統領選後のシナリオ別相場展望

米国では11月5日に4年に1度の大統領選挙が実施されます。今回は共和党のトランプ候補と民主党のハリス候補の対決となりますが、現在は接戦が予想されており、どちらに転ぶか分からない状況です。トランプ候補、ハリス候補が勝利した場合の為替相場はそれぞれどのように推移するのか確認していきましょう。


2016年の大統領選では何が起きたのか

まずは前回のコラムで紹介した2016年の米大統領選挙、トランプ氏が勝利して大きく「円安・ドル高」方向に推移した際に何が起きていたのか見ていきます。

2016年11月はトランプ大統領が掲げた規制緩和や大規模減税への期待から「米株高・米金利上昇・米ドル高」が同時に進む、いわゆる「トランプラリー」と呼ばれる現象が発生しました。これだけですと単純な構図のように見えますが、実は大統領選挙の当日には為替市場で大きな混乱が起きています。



こちらは2016年当時のドル円のチャート(ローソク足、日足)ですが、11月9日のドル円は一時101円台前半の水準まで急落しました。

時系列で追っていくと、大統領選当日の8日(日本時間の9日午前)から徐々に開票結果が伝わり、激戦州などでトランプ氏が勝利したことが明らかになっていきます。事前の世論調査や各メディアの出口調査ではヒラリー・クリントン氏が有利と報じられていただけに、この年の大統領選挙は番狂わせとなったわけです。

為替市場ではこうした予想外の結果に対して大きな反応を示すことが多く、この時は政治経験のないトランプ氏が大統領になることへのリスクを意識。いったんはリスクを回避する目的で「円高・ドル安」方向に大きく反応しました。その後は前述したように「トランプラリー」の流れに沿って「円安・ドル高」方向へと反転。ドル円も105円台後半まで急反発となりました。


今回の大統領選は現時点ですと世論調査の支持率も拮抗しているため、2016年のような「予想外の結果」は起こりにくいかもしれません。ただ、今後に両候補の支持率で差がつき始めた場合や出口調査とは異なる結果となった場合には、こうした選挙当日の急変動に注意が必要となるでしょう。


トランプ候補勝利の場合、ドル高→ドル安?

ここからは各候補者が勝利した際のシナリオについて展望していきます。始めはトランプ候補が勝利したケースです。トランプ候補の主な財政・経済・金融政策への対応などは以下の通りです。

・法人税率の引き下げ、所得減税の恒久化

・輸入品に対する一律関税、対中国関税の大幅引き上げ

・米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に対する圧力強化


こうした政策のうち輸入品に対する関税は輸入品価格の上昇と国内のインフレにつながり、米国の中央銀行であるFRBの利上げを促すことになります。為替市場では金利の高い(もしくは金利を引き上げている)国の通貨が買われやすい傾向があるため、米国の金利上昇はドル高を招くことになるでしょう。


ただ、2016年当時と比較して現在と大きく異なるのがFRBの金融政策です。2016年はリーマンショックからの不況で長らく続いた金融緩和政策を前年にようやく転換し、利上げ方針へと舵を切った年でした。対して現在は2022年からの利上げ局面が終了して利下げが始まった直後です。前述したように金融政策は為替市場に与える影響が大きいため、2016年当時のようなドル高が進む可能性は高くないかもしれません。

また覚えておきたいのがトランプ候補自身はドル安を志向しているということ。米国第一主義を掲げるトランプ候補は国内製造業の競争力を弱めるドル高を嫌っています。大統領はFRBの金融政策運営に対して発言権を持つべきだと主張するトランプ候補が、FRBに対して利下げを働きかける可能性もありそうです。FRBの金融政策に大統領が介入した場合、中央銀行の独立性が損なわれることになりますが、これは市場が最も嫌う通貨安(この場合はドル安)要因です。


こうした材料からトランプ候補が勝利した際のシナリオとしては、初動の反応はドル高と予想されますが、次第にドル安方向へと転換。トランプ候補の経済政策によって再度ドル高に向かう可能性はあるものの、金融政策への介入があった場合には大幅なドル安もあり得る波乱含みの展開となりそうです。


ハリス候補勝利の場合、ドル安→穏やかなドル安継続

続いてはハリス候補が勝利したケースをみていきます。ハリス候補の主な財政・経済・金融政策への対応などは以下の通りです。

・法人税率の引き上げ、富裕層への増税、低所得者向け税額控除の拡充

・輸入品に対する一律関税に反対

・米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策には干渉しない


こちらは多少の違いはあるものの、基本的にはバイデン現政権からの継続となります。現状から大きな相違がないということは、現在の為替相場からドル高・ドル安のどちらの方向にも大きく傾くわけではないということになりますね。

ただ、ハリス候補が勝利=トランプ候補の敗北ですから、トランプ候補の勝利によってドル高を見込んでいた市場参加者は方針転換を迫られることになり、その分で初動はドル安で反応する可能性が高いでしょう。

実際にこうした見方を裏付ける事例として、ハリス候補とトランプ候補による初の討論会(9月10日)でハリス候補が優勢だったとの世論調査結果が伝わると、為替市場ではドル安の反応が見られました。


その後も米国の金融緩和方針に沿ってドル安の継続が予想されますが、ハリス候補はFRBの独立性をこれまで通り尊重する姿勢を示していますので、トランプ候補のように大きくドル安へと傾くリスクは小さいと思われます。全般的には穏やかなドル安の展開となりそうです。

 

トランプ・ハリス両候補とも初動の反応を除くとドル安へと向かうというシナリオになりましたが、前回のコラムで紹介した大統領選翌年のアノマリーは「ドル高・円安」に動きやすいというものでした。現在の米国の金融政策はドル安方向に向かいやすいものとなっていますが、今回もそれらを覆してアノマリー通りの展開となるのか、大統領選の行方とともに為替相場の動向にも注目しておきたいところです。

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為替情報部 アナリスト

岩間 大祐

大学卒業後の2004年に国内証券会社に入社。 外国為替証拠金取引業務に携わった後、金融情報サービス会社にて個人投資家向けの為替情報配信業務を担当。市況サービスのほか、テクニカル分析を軸にした情報を配信する。 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト。

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