今回解説していく通貨はメキシコペソ円です。メキシコはトランプ関税の影響を当初の予想ほど受けておらず、メキシコペソ円を巡る環境も改善しつつあります。大幅利下げを続けているメキシコ中銀が今後利下げを一時停止するとの思惑もあり、金利先高観もメキシコペソ円の下支え材料として意識される可能性がありそうです。テクニカル面で確認しても2024年からのレンジ相場の下方ブレイクが「だまし」に終わった後、現在は上方ブレイクのチャンスを窺っており、今後の動向を注目しておく必要があるでしょう。
では、チャート上でメキシコペソ円の状況を確認していきましょう。
2025年現在のメキシコペソ円の相場 4月の下押しは「だまし」に終わる
2024年12月からの穏やかな下落基調を引き継ぐ格好で始まり、4月9日には一時6.84円まで下げ幅を拡大。昨年9月につけた直近安値の6.99円を下抜けて、一時は下値余地が大きく広がる場面も見られました。ただ、7円割れ水準で下値の堅さを確認すると一転して買い戻しが優勢に。直近では7.60円台まで下値を切り上げており、7円割れの下押しは結局「だまし」で終わった格好です。
メキシコはトランプ関税の影響を世界で最も受ける国として早くから警戒されており、メキシコペソ円を巡る懸念も同様に広がっていましたが、ここまでは杞憂に終わったと捉えてもよいでしょう。トランプ米大統領の関税政策も米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠した製品は対象外(鉄鋼・アルミニウムは除く)となっており、先行きの不透明感は残るものの、こうした状況の改善がメキシコペソ円相場を下支えしています。
今後のメキシコペソ円の相場焦点 対米関係に注意、メキシコ中銀は利下げ路線に不透明感
今後のメキシコペソ相場を占う材料ですが、一時期のような悲観的な状況とはなっていないものの、依然として対米関係がポイントに挙がりそうです。
トランプ米政権による鉄鋼の輸入品に対する追加関税50%に関しては、一定量の輸入分に限り撤廃または減免する方向で合意に近づいているとの報道があり、こちらはメキシコペソにとってプラス材料。一方で、米ロサンゼルスで起きている抗議デモに関しては、米国側が「メキシコのシェインバウム大統領がロサンゼルスでの暴力的な抗議を扇動した」と主張、シェインバウム大統領が「全くの虚偽だ」と反論するなど、移民問題への対立は深まりつつあります。
また、トランプ米大統領が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の早期見直しを求めていることも今後の注目材料になります。2020年7月1日に発効されたUSMCA は当初6年後に見直す予定となっていましたが、米大統領の要求によって今年9月にも見直し協議が始まる見込みです。前述したようにメキシコはUSMCAによって、米関税政策からも相対的に有利な条件を得ており、交渉の行方次第ではメキシコを巡る懸念が高まることも考えられます。
次にメキシコ国内の状況も確認しておきましょう。メキシコでは景気後退局面こそ陥っていないものの、景気減速懸念が広がっています。メキシコ銀行(中央銀行)はインフレの鈍化が進んだこともあって、昨年後半から連続利下げで景気下支えに動いていますが、足もとではインフレの再加速の兆しも見られており、中銀の金融緩和姿勢がどこまで継続するかも今後の注目ポイントとなるでしょう。
メキシコペソ円の週足分析 レンジ相場継続も今後トレンド変化の可能性
下図のチャートはメキシコペソ円の週足チャートになります。前回の分析(3月26日)からどのように推移したかを見ていきますと、2024年7月以降の急落後に形成された7円台のレンジ相場(チャート上の四角で囲った部分)を4月上旬に一時下抜けると同時に、2020年4月安値を起点とする長期の上昇トレンドライン(チャート上の黄色実線)も下抜けましたが、その後はすぐに切り返すなど「だまし」となった形です。
結果的に現在も長期の上昇トレンドと昨年後半からのレンジ相場を維持する格好となっていますが、チャート下部に追加した「DMI」で確認すると、依然として-DI>+DI(下落トレンド)を示唆しているものの、足もとでは-DIと+DIが接近。今後は昨年6月以来となる+DI>-DI(上昇トレンド)に転換する可能性もあり、トレンドの強さを示すADXとともに今後の推移に注目しておきましょう。
メキシコペソ円の日足分析 三役好転で短期目線はレンジ上限を試す方向へ
今度は短期的な目線からメキシコペソ円の状況を確認します。下図は日足のチャート(16日執筆時点)。チャート上の黄色実線は週足分析で紹介した2020年4月安値を起点とする上昇トレンドラインになります。
今回追加した「一目均衡表」によると、転換線>基準線、遅行スパン>価格線、価格線>抵抗帯(雲)が成立しており、強い買いシグナルとされる「三役好転」が点灯しています。
短期的な目線は上昇ということであれば、気になるのは今後の上値目処ですが、まずは昨年12月26日につけた7.84円(チャート上の青色点線)が目先の目標です。さらに昨年8月15・16日高値の8.01円(チャート上の青色実線)が重要なポイント。同水準を上抜けると週足分析で紹介したレンジ相場のブレイクとなりますが、今年4月のような「だまし」がまた起きる可能性もあるため、レンジブレイクの判断はある程度の時間・水準的な猶予を取って下すべきでしょう。
今後の取引材料・変動要因をチェック メキシコ中銀の利下げ低下観測が浮上
最後に今後1カ月間の重要イベントも確認しておきます。注目はメキシコの金融政策。メキシコ銀行(中央銀行)は前回(5月15日)に0.50%の利下げを決めた際の声明文で「今後も金融政策のスタンスを継続し、同様の規模の調整(0.50%の利下げ)を検討する可能性がある」との見解を示していましたが、足もとでは当局者からややトーンの違う話も伝わっています。
メキシコ中銀のヒース副総裁は今月10日、利下げを一時停止する可能性を示唆。中銀副総裁の発言を手掛かりに、現在はメキシコの金利先高観も高まりつつあるようです。
高金利環境の継続はメキシコペソにとってプラス材料と捉えられますが、同時にこれまでの利下げが景気減速懸念の広がっていたメキシコ経済を下支えしてきた面もあるため、中銀の利下げが停止した際にはメキシコの景気鈍化がさらに進むかについても注目しておく必要があるでしょう。今回の金融政策決定会合に関しては結果だけでなく、声明文から中銀の経済・インフレ見通しについてもしっかりと確認しておきたいところです。
また、米国の関税交渉の行方についても引き続き注目しておく必要があります。米相互関税の上乗せ部分の停止期限が7月9日に迫っており、期限が近づくにつれて市場も神経質な反応を見せることが予想されます。もっとも、市場では「米国側が最終的には期限を延長するだろう」との見方も広がっているようです。その他のイベントは以下の通りとなります。
今後1カ月の重要イベント
6月20日 日本 5月全国消費者物価指数(CPI)
6月26日 メキシコ メキシコ中銀、金融政策決定会合
7月9日 米国 相互関税の上乗せ部分の停止期限
7月9日 メキシコ 6月CPI
7月18日 日本 6月全国CPI