今回解説していく通貨はニュージーランド(NZ)ドル米ドルです。2025年の前半はトランプ米政権による関税・貿易政策に振らされる相場となっていましたが、市場の目線が少しずつ各国の金融政策へと向きつつあるため、今後はNZ準備銀行(RBNZ、中央銀行)の金融政策にも注目が集まるでしょう。
一方で、テクニカル的には目先の下値を確認したことによる反動が進み、今度は2021年来の下落トレンドが転換する可能性も出てきました。では、チャート上でもNZドル米ドルの状況を確認していきましょう。
2025年現在のNZドル米ドルの相場 4月の荒い値動き一巡後は上値を試す
NZドル米ドルは2025年の初めから上下に振らされる展開となり、次第に値幅を伴った荒い値動きとなりました。4月に入るとさらに値動きが不安定となり、0.54米ドル台から0.60米ドル台で大きく上下。もっとも、下値を確認したとの見方が広がると次第に下値を切り上げ、0.6100米ドル手前まで値を上げています。
4月上旬からの荒い値動きはトランプ米大統領の相互関税を始めとする、米関税政策に振らされた結果です。ただ、ニュージーランド製品への米相互関税率は10%のみと相対的に低い水準に抑えられており、4月以降のNZドルはニュージーランド経済への影響で動意付いたわけではありません。世界的な貿易戦争と景気減速への懸念によって、投資家のリスク志向に敏感に反応しやすいNZドルが影響を受けた面が大きかった印象です。
そのため、4月以降に米中間で貿易紛争の解決へ向けた協議が行われ、米相互関税の上乗せ分が延期されると、市場全般のリスク回避姿勢が後退したため、NZドルも買い戻される格好となりました。
今後のNZドル米ドルの相場焦点 米関税政策や中東情勢、NZ中銀の金融政策にも注目
NZドル米ドル相場ですが、今後はニュージーランド内外両面に注意が必要となってくるでしょう。足もとでは米関税政策に対する市場の反応は鈍くなっていますが、米相互関税の上乗せ部分の停止期限が7月9日に迫っており、期限が迫るにつれて市場の注目を再び集めることも予想されます。
さらに直近で大きな相場の材料となった中東を巡る地政学リスクについても引き続き注意が必要です。執筆時点(24日)ではイスラエルとイランが停戦で合意したと報じられていますが、これが無期限の停戦に至るかの判断は難しいとの指摘も聞かれています。
ニュージーランドに対する直接的な影響は乏しいものの、前述したようにNZドルは市場全般のリスク選好度に左右されやすい面を持っているため、今後も外部要因に振らされる可能性には留意しておくべきです。
一方で、ニュージーランド国内の状況にも今後は注目しておきましょう。NZ準備銀行(RBNZ、中央銀行)は現在6会合連続での利下げを実施していますが、ホークスビーRBNZ総裁が「金利は中立水準に近い」と言及したように、利下げ局面の終わりも近づきつつあるようです。一時は関税・貿易政策ばかりに注目していた市場も最近では各国の金融政策に再び目を向け始めており、年後半は金融政策が相場を主導する展開へと回帰するかもしれません。
NZドル米ドルの週足分析 下値確認で2021年来の下降トレンドラインを試しにいくか
下図のチャートはNZドル米ドルの週足チャートになります。前回の分析時(4月2日)らの推移を確認すると、4月9日に0.5486米ドルまで下押す場面がありましたが、その後は急ピッチで下値を切り上げる展開となり、6月16日には0.6088米ドルまで上値を伸ばしました。
直近の下押しは0.54米ドル台後半までにとどまり、2022年10月安値の0.5512米ドルおよび2020年3月安値の0.5470米ドル(いずれもチャート上の赤丸で囲った分)付近で三度下値を確認した格好となりました。その後の買い戻しで前回に戻りの注目水準として指摘した昨年8月5日安値の0.5850米ドル、昨年4月19日安値の0.5852米ドル(いずれもチャート上の青色実線)を上抜け。
今度は一転して2021年2月高値を始点とする下降トレンドライン(チャート上の黄色実線)を試しにいく可能性が高まっています。ただ、2021年からの下落トレンドが本格反転したと判断するには最低でも2024年9月高値の0.6379米ドル、理想的には2023年2月高値の0.6538米ドル(いずれもチャート上の青丸で囲った分)を上回っておきたいところです。
なお、チャート下部に追加した「DMI」で確認すると+DI と-DIは直近で交差を繰り返しており、やや方向感を欠いた状況。トレンドの強さを示すADXも失速しており、現在のトレンドレスの状態を支持しています。
NZドル米ドルの日足分析 0.58米ドル半ばがレジスタンスから一転サポートに
今度は短期的なチャートから相場の流れを改めて確認していきましょう。下図は日足チャートです。チャート上の黄色実線および青色実線は週足分析で紹介したものと同じです。
注目すべきは青色水準を巡る攻防。4月中旬に同水準を上抜けると、5月以降は一転して同線がサポートとして機能していることが分かるかと思います。こうした過去のレジスタンスがブレイク後はサポートへと転換することはテクニカル分析でよくある状況です。
さらに今回のチャートに追加した「一目均衡表」によると、転換線と基準線こそ同値にありますが、遅行スパン>価格線、価格線>抵抗帯(雲)が成立しています。今後一目雲がサポートとして機能し、下値を切り上げていけば0.61米ドル乗せの再トライ、さらには転換線>基準線の成立によって強い買いシグナルとされる「三役好転」が点灯する可能性も期待できそうです。
今後の取引材料・変動要因をチェック NZ中銀の金融政策、総裁人事にも注目
最後に今後1カ月間の重要イベントも確認しておきます。期間内に米連邦公開市場委員会(FOMC)は予定されておらず、注目はNZ準備銀行(RBNZ、中央銀行)の金融政策決定会合となるでしょう。RBNZが公表した金利見通しでは今後少なくとも0.25%の利下げがあることが示唆されていますが、その後の中銀当局者からは追加利下げに慎重な意見も聞かれているため、結果は当然として今後の金融政策方針にも注目が集まるでしょう。
さらにRBNZに関しては次の総裁人事についても気になるところ。3年の任期を残して突如辞任したオア前総裁ですが、その後に中銀の運営予算削減案をめぐって財務省と意見が合わなかったための辞任であったことが明らかになっています。
その一方でオア前総裁は現在のニュージーランド国民党政権から、パンデミック後のインフレ急騰と景気後退につながった高金利は同氏の責任だと非難を受けていた経緯があります。4月8日に6カ月間の任期で総裁に就任したホークスビー氏も政府からの圧力を受ける可能性があり、今後どのような舵取りをするか注目されます。なお、ホークスビー総裁の任期ですが、最大で3カ月延長される可能性があるとのことで、早ければ今年10月、遅くとも来年には新総裁が選出される見込みです。
その他のイベントは以下の通りとなります。
今後1カ月の重要イベント
6月27日 米国 5月PCEコア・デフレーター
7月3日 米国 6月米雇用統計
7月9日 NZ NZ準備銀行(RBNZ)、金融政策
7月15日 米国 6月消費者物価指数(CPI)
7月21日 NZ 4-6月期CPI