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第175回 円安、結局は再び介入との勝負か

円安圧力は継続

今週に米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過し概ねドル売りに傾き、ドル円は伸び悩んだが、下押しは再び154円台でとどめ底堅い動きが続いています。なお、クロス円はオフショア市場で人民元(CNH)円が22円台前半、ユーロ円が182円後半で史上最高値を更新し、ポンド円は2008年以来の高値となる208円後半、豪ドル円は2024年4月以来の高値となる104円台まで上昇するなど、円売り圧力は続いています。

 

10月に高市政権が発足し、積極財政を掲げ、財政支出が膨張するなどの見方から、為替相場は円安が加速しました。来週の日銀金融政策決定会合での利上げは織り込み済みで、植田日銀総裁が来年に向けた利上げ継続姿勢(どちらかと言えば、緩和姿勢を維持すると強調し、ハト派利上げの印象を与える可能性が高い)を示さなければ、材料出尽くしで円に再び売りが入りやすいでしょう。足元では高市政権の財政拡張が円安要因とされるが、円安は高市政権から始まったわけではなく、日本経済成長の低迷や長期にわたっての日銀の「異次元金融緩和」政策が大きな要因と考えられます。

 

為替は国力で決まる

国力が強い国は、金利が高くなり、株価も上昇します。その国の人たちに製品やサービスを買ってもらおうと工場を建設するなど直接投資も増えます。お金は、国力が強い国に集まるのです。

 

逆に、国力が弱い国は、景気が悪いので金利は低く、株価も低迷します。そんな国に投資をするよりも、強い国に投資したほうが多くのリターンを期待できますので、弱い国には直接投資も行なわれません。

 

お金は、国力が弱い国から強い国へと流れます。その結果、国力の強い国の通貨が買われ、高くなり、他方、国力が弱い国の通貨は売られ、安くなります。為替は国力の強弱差で決まるというのが基本であり、円安が進むのは、日本経済が低成長で相対的に国力がどんどん弱まっているからだと言えます。

 

国際通貨基金(IMF)は2026年に日本の名目GDPはインドに抜かれ世界第5位となり、2030年にはイギリスにも抜かれるとの見通しを示しています。日本は1968年から40年以上、GDP世界2位の座にありましたが、2010年に中国に抜かれ、2023年にはドイツにも抜かれました。人口が多い中国やインドは別として、ドイツの人口は約8400万人で日本の7割にも満たず、イギリスに至っては約6923万人ですから6割以下であり、日本経済がどれだけ低迷しているのがわかります。

 

高市政権は財政の拡大で国力を強くするとしていますが、国の借金がまた増え、悪い財政がさらに悪化し、深刻な状況に陥る可能性があります。

 

円安、結局再び介入との勝負か

来週、日銀が利上げに踏み切っても円安地合いが変わらなければ、ドル円は再び160円が視野に入る可能性があります。日銀が円安を阻止するため利上げを示唆すると、日本国債の金利が上昇し、反対に日本国債の金利を懸念して利上げをあまり強く打ち出さないと、今度は円安になるという嫌な展開になってきています。円安が進めば、結局インフレ率が上昇するので、その分日本の長期金利は上昇します。利上げを前面に打ち出しても、長期金利は上昇してしまいます。どちらに転んでも、シナリオ上は長期金利上昇となるので、世界中の投機筋が日本国債と円に群がり、どちらもショートポジションを再構築しているようです。

 

米金融政策と日本の金融政策が行きついた先に、それでも金利差が厳然と残っているのであれば、円の上昇は難しいでしょう。物価上昇に歯止めがかからず、さらなる円安には財政拡張と金融緩和志向の高市政権も手を焼くことになり、結局は円買い介入に踏み切るしかありません。円安是正に為替介入との勝負になりそうですが、下手に為替介入すると市場にドル円の買い場を与えるだけになってしまう可能性があります。

 

円安、企業の4割超が「経営にマイナス」

前回、円安のメリットとデメリットで言及し、円安は個人にデメリット、企業にメリットの傾向が強いと述べたが、行き過ぎた円安は企業にもデメリットが大きくなります。

 

東京商工リサーチ(TSR)が12月1日-8日に実施したアンケート調査で、11月末「1ドル=156円前後」の為替水準が経営に「マイナス」と回答した企業は41.3%でした。円安が「マイナス」と回答した企業は、大企業が41.8%、中小企業41.3%で、業種別では「マイナス」の回答は「小売業」が半数以上の55.7%となりました。事業規模を問わず、内需型産業を中心に円安の影響が広がっています。国内企業が適正とした為替レートは「1ドル=133.5円」、中央値「1ドル=135.0円」で、現状の為替レート「1ドル=155円前後」とは大幅な乖離があります。

この連載の一覧
第175回 円安、結局は再び介入との勝負か
第174回 円安、メリットとデメリット
第173回 実質為替レート 1ドル=270円
第172回 インフレと円安
第171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
【FX、やるならお得に】第25回 急落で魅力低下の高金利通貨(トルコリラ)
【FX、やるならお得に】第24回 多難も地位が上がりつつある通貨(人民元)
【FX、やるならお得に】第23回 NZドル、豪ドルに似た動き
【FX、やるならお得に】第22回 米国と結びつきが深い通貨(加ドル)
【FX、やるならお得に】第21回 資源国通貨(豪ドル)
【FX、やるならお得に】第20回 変動幅が大きい通貨(ポンド)
【FX、やるならお得に】第19回 取引量第3位(円)
【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
【FX、やるならお得に】第17回 取引量が最も多い通貨(ドル)
【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
【FX、やるならお得に】第7回 スワップポイント
【FX、やるならお得に】第6回 FX、利益を得る仕組み
【FX、やるならお得に】第5回 買値、売値とスプレッド
【FX、やるならお得に】第4回 FXの「レバレッジ」
【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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