円安圧力は継続
今週に米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過し概ねドル売りに傾き、ドル円は伸び悩んだが、下押しは再び154円台でとどめ底堅い動きが続いています。なお、クロス円はオフショア市場で人民元(CNH)円が22円台前半、ユーロ円が182円後半で史上最高値を更新し、ポンド円は2008年以来の高値となる208円後半、豪ドル円は2024年4月以来の高値となる104円台まで上昇するなど、円売り圧力は続いています。
10月に高市政権が発足し、積極財政を掲げ、財政支出が膨張するなどの見方から、為替相場は円安が加速しました。来週の日銀金融政策決定会合での利上げは織り込み済みで、植田日銀総裁が来年に向けた利上げ継続姿勢(どちらかと言えば、緩和姿勢を維持すると強調し、ハト派利上げの印象を与える可能性が高い)を示さなければ、材料出尽くしで円に再び売りが入りやすいでしょう。足元では高市政権の財政拡張が円安要因とされるが、円安は高市政権から始まったわけではなく、日本経済成長の低迷や長期にわたっての日銀の「異次元金融緩和」政策が大きな要因と考えられます。
為替は国力で決まる
国力が強い国は、金利が高くなり、株価も上昇します。その国の人たちに製品やサービスを買ってもらおうと工場を建設するなど直接投資も増えます。お金は、国力が強い国に集まるのです。
逆に、国力が弱い国は、景気が悪いので金利は低く、株価も低迷します。そんな国に投資をするよりも、強い国に投資したほうが多くのリターンを期待できますので、弱い国には直接投資も行なわれません。
お金は、国力が弱い国から強い国へと流れます。その結果、国力の強い国の通貨が買われ、高くなり、他方、国力が弱い国の通貨は売られ、安くなります。為替は国力の強弱差で決まるというのが基本であり、円安が進むのは、日本経済が低成長で相対的に国力がどんどん弱まっているからだと言えます。
国際通貨基金(IMF)は2026年に日本の名目GDPはインドに抜かれ世界第5位となり、2030年にはイギリスにも抜かれるとの見通しを示しています。日本は1968年から40年以上、GDP世界2位の座にありましたが、2010年に中国に抜かれ、2023年にはドイツにも抜かれました。人口が多い中国やインドは別として、ドイツの人口は約8400万人で日本の7割にも満たず、イギリスに至っては約6923万人ですから6割以下であり、日本経済がどれだけ低迷しているのがわかります。
高市政権は財政の拡大で国力を強くするとしていますが、国の借金がまた増え、悪い財政がさらに悪化し、深刻な状況に陥る可能性があります。
円安、結局再び介入との勝負か
来週、日銀が利上げに踏み切っても円安地合いが変わらなければ、ドル円は再び160円が視野に入る可能性があります。日銀が円安を阻止するため利上げを示唆すると、日本国債の金利が上昇し、反対に日本国債の金利を懸念して利上げをあまり強く打ち出さないと、今度は円安になるという嫌な展開になってきています。円安が進めば、結局インフレ率が上昇するので、その分日本の長期金利は上昇します。利上げを前面に打ち出しても、長期金利は上昇してしまいます。どちらに転んでも、シナリオ上は長期金利上昇となるので、世界中の投機筋が日本国債と円に群がり、どちらもショートポジションを再構築しているようです。
米金融政策と日本の金融政策が行きついた先に、それでも金利差が厳然と残っているのであれば、円の上昇は難しいでしょう。物価上昇に歯止めがかからず、さらなる円安には財政拡張と金融緩和志向の高市政権も手を焼くことになり、結局は円買い介入に踏み切るしかありません。円安是正に為替介入との勝負になりそうですが、下手に為替介入すると市場にドル円の買い場を与えるだけになってしまう可能性があります。
円安、企業の4割超が「経営にマイナス」
前回、円安のメリットとデメリットで言及し、円安は個人にデメリット、企業にメリットの傾向が強いと述べたが、行き過ぎた円安は企業にもデメリットが大きくなります。
東京商工リサーチ(TSR)が12月1日-8日に実施したアンケート調査で、11月末「1ドル=156円前後」の為替水準が経営に「マイナス」と回答した企業は41.3%でした。円安が「マイナス」と回答した企業は、大企業が41.8%、中小企業41.3%で、業種別では「マイナス」の回答は「小売業」が半数以上の55.7%となりました。事業規模を問わず、内需型産業を中心に円安の影響が広がっています。国内企業が適正とした為替レートは「1ドル=133.5円」、中央値「1ドル=135.0円」で、現状の為替レート「1ドル=155円前後」とは大幅な乖離があります。



