基軸通貨であり続けるドル
米国の影響力はその経済規模だけでなく、ドルが世界で最も支配的な国際通貨であることにも由来します。ドルは、1944年の連合国通貨金融会議で合意に至ったブレトン・ウッズ体制(Bretton Woods System)の下で基軸通貨の地位を与えられました。
それから80年以上経った今もなお、その地位は揺らぐことなく続いています。世界の外貨準備に占める通貨別の割合で、ドルは低下傾向にあるとは言え現在も依然として過半を占めており、第2位のユーロの2割程度を大きく引き離しています。また、ドルは外国為替取引の約9割を占め、国際物品貿易の約半分の決済通貨として用いられています。米政府の巨額の財政赤字、米国民の収入以上の消費を可能にするのは、そうしたドルの支配的地位であり、ドル建て資産の購入に強い意欲を示す外国投資家が穴埋めに貢献しています。
ドルが主要な国際準備通貨としての地位を保っている背景には、米国債に対する強い需要や米経済の規模、金融市場の深さ、地政学的な影響力などもあります。米国の国債市場は、世界で最も規模が大きく流動性の高い資産クラスとして存在し、投資家に安全性や透明性、そしていつでも多額の資金を移動できる能力を提供しており、他のいかなる通貨もこの機能を充足するのに十分な規模と開放性を持つ市場を有していません。
世界中の銀行や企業は、貸し借りや国際取引でドルに依存しています。長年にわたり、これはネットワーク効果を生み出してきました。つまり、ドルの使用が普及すればするほど重要性が増し、またドルが広く採用されていることにより同通貨の価値を支える構造的な需要が生まれています。
米中貿易摩擦は貿易パターンを変え始めています。昨年の1-9月期の中国の対米輸出額は前年同期比16.9%減少した一方で、中国の輸出額は世界全体で同6.1%の伸びを示しました。これは米中の分断を示唆し、中国は新たな市場を模索しているが、米国はあまりにも大きな存在であり、まだ簡単に代替することはできません。こうした政治的緊張にもかかわらず、この2大経済大国間の経済的結び付きはドル需要を支え続けています。
ドルの信認に揺らぎ
2022年のロシアのウクライナ侵攻を受け、米政権がロシアのドルへのアクセスを制限したことや、トランプ第2次政権発足後の昨年4月に拙速な関税導入と方針転換でドルと米国債の同時下落を招いたことなどで、ドルの信認が揺らいでいます。
ドルに代わり得る国際通貨が現れる様子はないが、ドルが国際金融において果たす極めて重要な役割によって可能となった米国の経済制裁の広範な適用は、一部の国々に代替手段の積極的な模索を促しています。
中央銀行、金準備を増やす
米国を中心とした制度への過度の依存は政治的リスクを伴うことも意識され、複数の国々が代替決済システムの構築や現地通貨を用いた2国間貿易の強化、外貨準備におけるドル依存度の低減に向けた取り組みを加速させています。
例えば、中国、インド、トルコなどの中央銀行は、金準備を徐々に増やしつつあります。これは制裁やインフレ、金融リスクに対する予防手段と見なすことができます。同時に、デジタル通貨の出現や、世界中で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入が進むにつれ、ユーロや人民元などの通貨のデジタル形態がドル建て取引の代替手段となるなど、より多極化した通貨環境が促進されています。
中国は世界2位の規模の金準備を密かに築き、米国との「ゴールドギャップ」を急速に縮めています。非公式の推計では中国の金準備高は最大5500トンに達するとされ、これは公式発表(2303.5トン)の2倍以上にあたります。公式の数字に基づくと、中国は金準備高で現在7位だが、豪銀大手オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)銀行による5500トンという推計が正しいとすれば、一気に1位の米国(8133.5トン)に次ぐ2位に浮上します。中国の金戦略はドルへの依存度を下げる取り組みの一環であり、金準備の積み増しはその戦略の一部にすぎません。



