マージ、なぜ必要なの?
今回の【暗号資産よもやま話】も前回に引き続き、イーサリアムの重要アップグレードThe Merge(統合という意味、以下「マージ」)について見ていきたいと思います。
※このコラムを執筆した9月12日時点では、まだ「マージ」は実施されていません。
(前回の繰り返しになりますが)このアップグレードでイーサリアムのネットワークは、トランザクション承認の合意形成ルールをプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、以下PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、以下PoS)に移行します。
※トランザクションとは取引データのこと。日付や送受信先、資産の内容が含まれる。
この「マージ」、なぜ必要なのでしょうか?
それを知るにはイーサリアムのビジョン(理想像、未来像)を見ていく必要がありそうです。
ethereum.orgのWebサイト(以下、イーサリアムサイトと記載)の Upgrading Ethereum to radical new heights(イーサリアムを画期的な高みにアップグレードする)では、ビジョンについて以下のように書かれています。
To bring Ethereum into the mainstream and serve all of humanity、
(イーサリアムを主流にし、全人類に貢献するため)
we have to make Ethereum more scalable, secure, and sustainable.
(拡張性を高め、更に安全で、一段とサステナブルにイーサリアムをする必要がある)
引用:イーサリアムサイトより
More scalable 拡張性を高める
・イーサリアム上でのアプリケーションをより高速で安く使用できるようにするため、(今後は)毎秒1000回のトランザクションをサポートする必要がある。
※現在は毎秒15回程度。
More secure 安全性の向上
・イーサリアムの採用(使用)が拡大するにつれ、プロトコルはあらゆる形態の攻撃に対して防御をより強固にする必要がある。
※プロトコルとは約束事のこと。コインベースのウエブサイトによれば、コンピューター間でデータ共有を可能にするための基本ルール。
More sustainable 一段とサステナブル(持続可能)に
イーサリアムは環境に対してより良いシステムであるべき。既存のテクノロジーでは、非常に大きいコンピューティングパワーとエネルギーが要求される。
この3つの目標を達成するために、イーサリアムはアップグレードし続けています。
一段とサステナブルに
さて今回の「マージ」で大きく進展したのがサステナブルについてです。
「サステナブル(持続可能)」とは、今、世界の多くの人たちが共通の目標として取り組んでいる考え方・システムやプロセスです。新語時事用語辞典によれば、「主に自然にある資源を長い期間維持し、環境に負荷をかけないようにしながら利用していくこと」と説明されています。
イーサリアムサイトでは、これまでのイーサリアムは電気を使い過ぎている(つまり、環境負荷が高くてサステナブルではない)とし、ネットワークの安全性を保つ技術は もっと持続可能であるべきと述べていました。
前回の【暗号資産よもやま話】でも軽く触れましたが、「マージ」でコンセンサスアルゴリズム(トランザクション承認の合意形成方法)がPoWからPoSに変わることで、イーサリアムネットワークが消費する電力量が99.95%削減されると言われています。
それでは、イーサリアムのネットワークはPoWでどれくらいの電気量を使っていたのでしょうか。
PoWではマイナーと言われるブロックチェーン参加者が、「トランザクション承認の権利を勝ち取るため」に膨大な計算量を必要とする問題を解いていきます。それには、電力をかなり使用する高性能のコンピューターを何台もフル稼働させなければなりません。
権利付与は1ブロックに一人、早いもの勝ちです。負けた人たちも含めると、全体の電力消費量は↓のように相当な大きさになります。
引用:Ethereum Energy Consumption Index
消費電力は南米チリと一緒、それがこれから・・
Ethereum Energy Consumption Index(イーサリアム・エネルギー消費指数)によれば、9月8日時点で年率換算したイーサリアムの電力消費は南米チリ(人口1900万人超)と同程度。2020年調査で同国の消費量は世界全体の40位台でした。また、二酸化炭素排出量は第70位台の香港と同等され、アイルランドやニュージーランドより若干少ない程度です。
これが「マージ」でPoSに移行すると計算量による競争が無くなります。バリデーターというネットワーク参加者の中から指定された人が、トランザクションの整合性を検証(バリデーション)し、トランザクションの集まったブロックを繋ぐことになります。理論上、高価なハードウェアを使う必要はありません。
こちら↓は、イーサリアムサイトに記載されている2021年の年間エネルギー消費を比較したグラフです。(ページの最後の方に記載)
イーサリアムのPoW、つまり「マージ」前はネットフリックス関連の消費電力より大きいとされていました。それがPoSへの移行で劇的にエネルギー消費量を減らし、イーサリアムによる環境負荷が大きく弱まることになります。
地球に優しくなろうとしているイーサリアム。
来週は「マージ」後のイーサ(ETH)の値動きなどを見ていく予定です。
※追記、日本時間9月15日16時前にマージは実行されました。