暗号資産ウォッチャー これに注目!

第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」

シビアな状況、金融政策に落胆


12月半ば以降、暗号資産は再びシビアな状況となっています。21日11時時点では、暗号資産で代表的なビットコイン(BTC)は対ドルで1万6800ドル台での値動きです。前日には11月末以来の安値となる1万6300ドル割れまで売り込まれる場面がありました。

 

じつは、日本時間16日未明にかけて買い戻しの勢いが強まる場面があり、一時1万8300ドル台と11月9日以来の高値圏まで上昇。約1カ月続いた抵抗水準を上抜けたか!と思いましたが、テクニカル的に言うところの「騙し(だまし)」に終わっています。なかなかFTX破綻前の水準まで戻すのは大変なようです。

 

以下は、12月9日から21日までのBTCドルの時間足チャートとNASDAQ100のラインチャートです。


 ※Trading Viewより


CPIで期待を持たせ、FOMCで失望


上昇のきっかけは↑のチャートに記載している、日本時間13日22時30分に発表された米国の11月消費者物価指数(CPI)です。インフレが想定以上に鈍化していたため、市場では米連邦準備理事会(FRB、中央銀行にあたる)が「利上げペースを減速させるのではないか」という期待に膨らみました

 

米金利の先高観が弱まれば、リスク資産にとってはポジティブです。米株の上昇と共に、BTC買いも強まりました。

 

しかしながら膨らんだ期待はあっさり破裂してしまいます。日本時間15日4時に米連邦公開市場委員会(FOMC、金融政策を決定)が結果を発表。委員たちによる金利見通しが「市場の予想より高かった」ため、再び金利先高観が広まってしまいました。市場にとっては梯子を外された形です。

 

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が来年以降の利上げ継続を明言したことも、リスク資産にとって重石に。その後、金融政策を発表した欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が今後の利上げに意欲的だったことも欧米株式市場の失望売りを誘いました。

  

暗号資産の証拠金取引(レバレッジ取引)であれば売りからも入れるため収益チャンスだったかもしれません。ただ現物(という言葉が暗号資産にとって正しいかは微妙ですが)取引のみの人にとっては、かなり残念な相場となっています。


いずれにせよ、経済規模が世界一の米国の金融政策や金融市場は、暗号資産にとって無視できないことが確認されました。

【暗号資産よもやま話】第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」

【暗号資産よもやま話】第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」


クジラの軍団、平均購入価格は・・・


ビットコイン(BTC)が大きく動くと、特に下落したときですが、話題にあがる企業があります。米ソフトウェア企業マイクロストラテジ-(Microstrategy)です。というのも、同社は米上場企業のなかでBTC保有規模が最大だからです。前CEOであり、現在は会長職のマイケル・セイラ―氏が「BTCの獲得戦略および支援活動」を推し進めてきました。

「マイケル・セイラー氏がマイクロストラテジーCEOを退任し、会長職に」


マイクロストラテジーは2020年8月からBTCの購入を開始。購入履歴はこちら→「MicroStrategy Bitcoin Holdings Chart & Purchase History」で見ることができます。今年9月20日時点では、なんと13万BTC!を保有しています。


CoinMarketCapによれば、12月21日19時時点でのBTCの流通量(発行枚数)は約1923万9000BTCです。つまりマイクロストラテジーのみで、流通しているBTCの約0.67%を保有していることになります。購入履歴を示すサイトによれば、39.81億ドルが購入に費やされ、13万BTCの平均購入価格は3万623ドルとされています。


【暗号資産よもやま話】第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」

↑では、1000BTC以上の大口保有アカウントのことを「Whale、クジラ」、5000BTC以上が「Humpback(Whale)、ザトウクジラ」と呼ばれていることを紹介しました。マイクロストラテジーは1頭分を遥かに超えており、クジラの軍団と言ってよさそうです。



一喜一憂しない、それともできない?


さて、さえない動きが続くBTC市場ですが、マイクロストラテジーの共同創業者でもあるマイケル・セイラー会長から投資家に対してアドバイスがあるようです。

「家を買った場合、毎日の価格を気にするのか?」コインテレグラフジャパン


記事によればセイラー氏は、短期の価格変動で一喜一憂すべきではないと主張。4年以上の時間軸でBTCを考えるべきと述べています。冗談としながらも例えとして、「家を買った場合、毎日その不動産価格を気にするのか?」という考え方も挙げていました。


BTCや他暗号資産の変動率(ボラティリティ)は確かに高く、目先の値動きで大騒ぎするべきではないでしょう。どんな金融相場でも、生き残るには「冷静さ」が必要です。しかしながらマイクロストラテジーに関しては、あまりにもポジションが大きくなりすぎて、一喜一憂さえもできないように見えます。

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
第76回「ビットコイン、飛び跳ねた年 年明けも好材料が待ち受ける?!」
第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
第62回「再びFTXで大騒ぎ、ソラナが大幅安 一方ビットコインは底打ち期待も?! 」
第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
第57回「リップルにつれ安、8月のビットコインは?そして6カ月後までに・・・」
第56回「ビットコイン、400万円台維持 ネガティブニュースも跳ね返す」
第55回「ビットコイン、ゴールドのように羽ばたけるか ただしETFはもう少し先かも?」
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第49回「BTCの占有率上昇、ただし市場が盛り上がっているわけでは・・・」
第48回「ビットコイン SECの圧力はちょっと違う、底打ち感も?!」
第47回「ビットコイン 5月は失速、でも今年中には大幅上昇?!」
第46回「ビットコイン 動かず、過去2回はその後に大波」
第45回「G7は規制強化 交換業大手はカナダから日本へ」
第44回「ビットコイン 4カ月連騰、手数料高騰が懸念?」
第43回「ビットコイン 冬は終了?欲張り過ぎには要注意」
第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
第38回「ビットコイン 時価総額はメタ超え、強欲な感じも・・・」
第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」
第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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