暗号資産ウォッチャー これに注目!

第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」

サム・バンクマン・フリード氏のFTX王国、崩壊


今月11日、暗号資産交換所FTXと姉妹企業アラメダ・リサーチや約130のグループ会社は、日本の民事再生法にあたる米連邦破産11条(チャプター11)の適用を申請しました。

「仮想通貨FTX、破産法適用申請 バンクマンフリードCEO辞任」

 

昨年12月時点で時価総額が推定250億ドルにも達していたFTXはその価値を失いました。同社のバランスシートは流動性資産が9億ドルに対し、負債がその10倍の90億ドルと報じられています。

「FTX Held Just $900MM In Liquid Assets Vs $9BN In Liabilities」


FTXの前CEOであり暗号資産投資会社アラメダ・リサーチの設立者でもあるサム・バンクマン・フリード氏が今回の騒動の中心人物です。暗号資産業界のヒーローと言われた同氏が率いていたFTXは、投資先としてかなり魅力的だったようです。

「FTX出資企業、タイガーなど有力ヘッジファンドやソフトバンクも」


※サム・バンクマン・フリード氏、NEW YORK POSTより


当初FTXの流動性不足が問題と見られてきましたが、事態が進むにつれてFTXが顧客資産を乱用(アラメダ・リサーチの損失を補っていた)していたことが明らかになりました。

「Sam Bankman-Fried secretly transferred FTX customer funds to Alameda Research after his trading firm suffered losses in the spring, report says」


詐欺の疑いが濃厚のバンクマン・フリード氏も今月、160億ドルの資産を数日でほぼ吹っ飛ばしました。

「FTXのバンクマンフリード氏、全資産失う-数日で160億ドル吹き飛ぶ」


 暗号資産業界をリードする役割と思われた企業グループの破綻を受け、市場はリスク回避の動きを加速。暗号資産全体の時価総額は月初の約1兆200億ドルから、約23%減の7860億ドル程度まで一時縮小しました。


 

※CoinMarketCapより


きっかけは財務内容の暴露


ことの発端はサム・バンクマン・フリード氏が2017年に立ち上げた暗号資産トレーディング会社アラメダ・リサーチの財務内容が暴露されたことです。

「Divisions in Sam Bankman-Fried’s Crypto Empire Blur on His Trading Titan Alameda’s Balance Sheet」


6月末時点でアラメダの資産は146億ドルとされ、そのうち最大の36.6億ドル相当がFTT(FTXトークン:姉妹企業FTXが発行した暗号資産。保有していると同社の取引手数料が割引される)、3番目に大きい項目がそのFTTを担保とした21.6億ドルでした。つまり、日本円にして2兆440億円(1ドル=140円)の約4割がグループ企業が管理しているトークンでした。加えて負債の一部も、直ぐには売却できないFTTで構成されていたということです。

 


他にも、バンクマン・フリード氏が支援するブロックチェーン「ソラナ」で使用される通貨SOLが売却可能分で3億ドル弱、ステーキングされていた分で8.6億ドル相当が保有されていたことが分かりました。

 

上記の情報が明らかになったのは2日でした。じつは、そこから相場が騒ぎ出すまではやや時間がかかりました。4日に発表された米雇用統計を受け米株が上昇し、相場全般に安心感が広がっていたことも下げ渋った要因だったのでしょう。

 

バイナンス、FTT売却を表明


市場の雰囲気が変わったのは日本時間7日1時頃です。


暗号資産交換所最大手であるバイナンスのCEOチャンポン・ジャオ氏が、同社が保有するFTTを清算すると表明。正確な額は明らかにしていませんが、21年時点では合計で21億ドル相当のBUSD(バイナンスの米ドル建てステーブルコイン)とFFTをFTXから受け取っていたようです。↓



流動性を考慮し、段階的に売却することで市場へのインパクトは最小限に抑えるとその後にツイートしています。しかしながら、FFTロングの人たちを恐れさせるには十分でした。結局はこれがFTTの暴落、FTX王国の崩壊に繋がりました。

 

この辺りまでは市場からの信頼を何とか保っていた(と思われる)バンクマン・フリード氏は財務懸念の払しょくに努めました。

「FTXのサム・バンクマン-フリードCEO、支払い能力に関する憶測を否定」


しかしながらFTT売りは止まらず、対ドルでは月初25ドル後半から、8日東京午後には15ドル前半と下落幅は40%超まで広がりました。FTXから資金を引き出す顧客が相次ぎ、3日間で約60億ドルが出金されるという、いわゆる「取り付け騒ぎ」となってしまいました。

 

その後、バイナンスがFTXの買収検討という報道でFTTは急反発する場面もありましたが、結局は再び下落。バイナンスのジャオCEOがFTXの財務が想像以上に悪かったことを理由に買収を諦めると、FTTは何と2ドル割り込みました。

 

さすがに反発する場面は何度かありましたが、バンクマン・フリード氏がFTXからアラメダに100億ドルの顧客資金を秘密裏に移したと報道が最後の一押しに。

「仮想通貨取引所FTX、顧客資金で高リスク取引に融資」

 

FTXはチャプター11を申請し、FTTは対ドルで1.15ドル手前まで低下しています。月初来で失った価値は95%にも達しました

※FTT/ドルの値動きはBITFINEXを参照。


 

※Trading Viewより


暗号資産、終了なのか?


今回の件を受け、こういった記事も見受けられます。

「バークシャーのマンガー氏、仮想通貨は「妄想」とあらためて批判」


 破綻後にもハッキングされるなど、傷口に塩を塗られるような状況をみると 未来は暗そうにも感じます。

「FTXハッキング、依然としてハッカーウォレットには約6200万ドルの資産」


ただ、↓の米大手金融機関JPモルガンのコメントには勇気づけられる人もいるのではないでしょうか。


「FTX崩壊のニュースは暗号懐疑論者に力を与えているが、我々は暗号エコシステムの最近の崩壊はすべて中央集権的なプレーヤーからであり、分散型プロトコルからではないことを指摘したい」


ビットコインを考えたSatoshi Nakamotoが提唱した非中央集権的なところに立ち戻る必要が今一度あるのかもしれません。

暗号資産よもやま話第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
第76回「ビットコイン、飛び跳ねた年 年明けも好材料が待ち受ける?!」
第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
第62回「再びFTXで大騒ぎ、ソラナが大幅安 一方ビットコインは底打ち期待も?! 」
第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
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第56回「ビットコイン、400万円台維持 ネガティブニュースも跳ね返す」
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第52回「ビットコイン、対円にしました!口座開設はもうお済み?」
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第45回「G7は規制強化 交換業大手はカナダから日本へ」
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第43回「ビットコイン 冬は終了?欲張り過ぎには要注意」
第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
第38回「ビットコイン 時価総額はメタ超え、強欲な感じも・・・」
第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」
第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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