サム・バンクマン・フリード氏のFTX王国、崩壊
今月11日、暗号資産交換所FTXと姉妹企業アラメダ・リサーチや約130のグループ会社は、日本の民事再生法にあたる米連邦破産11条(チャプター11)の適用を申請しました。
「仮想通貨FTX、破産法適用申請 バンクマンフリードCEO辞任」
昨年12月時点で時価総額が推定250億ドルにも達していたFTXはその価値を失いました。同社のバランスシートは流動性資産が9億ドルに対し、負債がその10倍の90億ドルと報じられています。
「FTX Held Just $900MM In Liquid Assets Vs $9BN In Liabilities」
FTXの前CEOであり暗号資産投資会社アラメダ・リサーチの設立者でもあるサム・バンクマン・フリード氏が今回の騒動の中心人物です。暗号資産業界のヒーローと言われた同氏が率いていたFTXは、投資先としてかなり魅力的だったようです。
「FTX出資企業、タイガーなど有力ヘッジファンドやソフトバンクも」
※サム・バンクマン・フリード氏、NEW YORK POSTより
当初FTXの流動性不足が問題と見られてきましたが、事態が進むにつれてFTXが顧客資産を乱用(アラメダ・リサーチの損失を補っていた)していたことが明らかになりました。
詐欺の疑いが濃厚のバンクマン・フリード氏も今月、160億ドルの資産を数日でほぼ吹っ飛ばしました。
「FTXのバンクマンフリード氏、全資産失う-数日で160億ドル吹き飛ぶ」
暗号資産業界をリードする役割と思われた企業グループの破綻を受け、市場はリスク回避の動きを加速。暗号資産全体の時価総額は月初の約1兆200億ドルから、約23%減の7860億ドル程度まで一時縮小しました。
※CoinMarketCapより
きっかけは財務内容の暴露
ことの発端はサム・バンクマン・フリード氏が2017年に立ち上げた暗号資産トレーディング会社アラメダ・リサーチの財務内容が暴露されたことです。
「Divisions in Sam Bankman-Fried’s Crypto Empire Blur on His Trading Titan Alameda’s Balance Sheet」
6月末時点でアラメダの資産は146億ドルとされ、そのうち最大の36.6億ドル相当がFTT(FTXトークン:姉妹企業FTXが発行した暗号資産。保有していると同社の取引手数料が割引される)、3番目に大きい項目がそのFTTを担保とした21.6億ドルでした。つまり、日本円にして2兆440億円(1ドル=140円)の約4割がグループ企業が管理しているトークンでした。加えて負債の一部も、直ぐには売却できないFTTで構成されていたということです。
他にも、バンクマン・フリード氏が支援するブロックチェーン「ソラナ」で使用される通貨SOLが売却可能分で3億ドル弱、ステーキングされていた分で8.6億ドル相当が保有されていたことが分かりました。
上記の情報が明らかになったのは2日でした。じつは、そこから相場が騒ぎ出すまではやや時間がかかりました。4日に発表された米雇用統計を受け米株が上昇し、相場全般に安心感が広がっていたことも下げ渋った要因だったのでしょう。
バイナンス、FTT売却を表明
市場の雰囲気が変わったのは日本時間7日1時頃です。
暗号資産交換所最大手であるバイナンスのCEOチャンポン・ジャオ氏が、同社が保有するFTTを清算すると表明。正確な額は明らかにしていませんが、21年時点では合計で21億ドル相当のBUSD(バイナンスの米ドル建てステーブルコイン)とFFTをFTXから受け取っていたようです。↓
流動性を考慮し、段階的に売却することで市場へのインパクトは最小限に抑えるとその後にツイートしています。しかしながら、FFTロングの人たちを恐れさせるには十分でした。結局はこれがFTTの暴落、FTX王国の崩壊に繋がりました。
この辺りまでは市場からの信頼を何とか保っていた(と思われる)バンクマン・フリード氏は財務懸念の払しょくに努めました。
「FTXのサム・バンクマン-フリードCEO、支払い能力に関する憶測を否定」
しかしながらFTT売りは止まらず、対ドルでは月初25ドル後半から、8日東京午後には15ドル前半と下落幅は40%超まで広がりました。FTXから資金を引き出す顧客が相次ぎ、3日間で約60億ドルが出金されるという、いわゆる「取り付け騒ぎ」となってしまいました。
その後、バイナンスがFTXの買収検討という報道でFTTは急反発する場面もありましたが、結局は再び下落。バイナンスのジャオCEOがFTXの財務が想像以上に悪かったことを理由に買収を諦めると、FTTは何と2ドル割り込みました。
さすがに反発する場面は何度かありましたが、バンクマン・フリード氏がFTXからアラメダに100億ドルの顧客資金を秘密裏に移したと報道が最後の一押しに。
FTXはチャプター11を申請し、FTTは対ドルで1.15ドル手前まで低下しています。月初来で失った価値は95%にも達しました。
※FTT/ドルの値動きはBITFINEXを参照。
※Trading Viewより
暗号資産、終了なのか?
今回の件を受け、こういった記事も見受けられます。
「バークシャーのマンガー氏、仮想通貨は「妄想」とあらためて批判」
破綻後にもハッキングされるなど、傷口に塩を塗られるような状況をみると 未来は暗そうにも感じます。
「FTXハッキング、依然としてハッカーウォレットには約6200万ドルの資産」
ただ、↓の米大手金融機関JPモルガンのコメントには勇気づけられる人もいるのではないでしょうか。
「FTX崩壊のニュースは暗号懐疑論者に力を与えているが、我々は暗号エコシステムの最近の崩壊はすべて中央集権的なプレーヤーからであり、分散型プロトコルからではないことを指摘したい」
ビットコインを考えたSatoshi Nakamotoが提唱した非中央集権的なところに立ち戻る必要が今一度あるのかもしれません。
暗号資産よもやま話第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」