暗号資産ウォッチャー これに注目!

第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」

BTC 急落、大規模な売りが大手取引所で?

 

代表的な暗号資産であるビットコイン(BTC)は、20日1時時点で対ドルでは2万9300ドル台/対円では395万円前後と前週比で約2%の下落率です。

 

この1週間を振り返ると、対ドルでは14日に約10カ月ぶりの3万1000ドル超えを達成。一巡後は3万ドルを挟み上下していましたが、19日の欧州序盤に2万9000ドル付近まで急落する場面がありました。

 

15分間で3%下落について暗号資産情報サイト・コインデスクでは、交換業最大手バイナンスで出た大規模な売りがきっかけではないか、という見方を紹介しています。


「ビットコイン、2万9000ドル近くまで急落・・・」

原文はこちら→「Bitcoin Drops to $29,000 in Sudden Sell-Off」


 

※Trading Viewより

 

記事によれば、バイナンスで1万6000BTCが現物取引で売却されたというのです。1BTC=400万円換算で640億円相当は、世界最大の交換所にとってもかなり大きめな取引額でした。

 

大きな現物の売りで驚いた先物市場ではロングの投げが誘発され、BTC相場の下落が加速したようです。

 

ETH シャペラ後に大幅上昇も高値圏を維持できず

 

じつは、BTCより動きが目立ったのが時価総額2位のイーサリアム(ETH)でした。


以下は、暗号資産分析サイトcoinglassのETH清算チャートです。緑のバーが買い持ち、赤が売り持ちのポジションを閉じた額となります。バーが長ければ長いほど、緑は売り圧力赤は買い圧力が高まったことを示しています。

 

※coinglassサイトより

 

イーサリアム・ネットワークでは、13日の日本時間7時台にシャペラ(または上海)と言われるアップグレードが無事に完了。しばらくは静かな動きでしたが、翌14日には大きめのショートカバーが発生しました。

 

ETHドルは節目とされた2000ドルを超え、昨年5月以来の高値となる2140ドル台まで上昇。その後も19日の東京午後までは底堅く推移していました。

 

しかしながら高値圏でロングが溜まってしまい、BTCが崩れるとETHもロングを吐き出す動きが強まります。対ドルでは再び節目を割り込み、20日1時時点でETHドルは1980ドル台と24時間比では5%を超える下げ幅です。


ただしシャペラ後の上げ幅が大きかったことで、前週比では4%弱の上昇率を維持しています。


 ※Trading Viewより

 

シャペラでやっと引き出せる

 

「シャペラ・アップグレード」の成功により、ネットワークに預け入れられた(ステーキング)ETHの出金が可能となりました。


イーサリアムは昨年9月に過去最大のアップグレードThe Merge(マージ)を実行しています。

【暗号資産よもやま話】

・第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」

・第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」

・第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」

 

このアップグレードによりイーサリアムでは、ブロックチェーンを維持する上で非常に重要な「トランザクション(取引)承認の方法」が プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、以下PoS)となりました。


PoSでは、バリデータ(validator、検証/承認する人という意味)がトランザクションを承認し、ブロックを追加します。このバリデータにとってのインセンティブ「ステーキングによる利回り」や「承認による報酬」が、これまでは引き出せませんでした。


それどころか、バリデータになるために必要な「32ETH以上のステーキング」も預けっぱなしの状態でした。


それがシャペラの実装でやっと出金できることになりました。 

ethereum.orgサイトをgoogle chromeで翻訳


出金後への思惑が交錯

 

さて、この「シャペラ」を控えて、アップグレード後に約130万ETHが売却される可能性とのリサーチが発表されていました。そのため「シャペラ」は「市場の下落圧力になるのではないか」という思惑が高まったようです。

 

一方、ネットワークから引き出すにはある程度の時間がかかることや、1日辺りの全体の出金限度額が決められていることを指摘する声もありました。また、例え引き出されたETHが売られても、市場の取引量を考えるとインパクトは弱いとする専門家の意見も見受けられました。

 

結局↑のETH清算チャートの長い赤棒が示しているように、先物市場ではETH売り持ちが多かったようですね。その人たちにとっては残念ながら、シャペラ後もETHは底堅く、買い戻しを強いられてしまいました。

 

成長期待が大、ただし待ち時間が延びる


イーサリアムに関する様々な情報が記載されているethereum.orgのサイトをみると、9月のマージ前にバリデータ数は42万弱でしたが、現在は56万を超えています。バリデータになるには32ETH(約840万円)が必要なことを考えると、ネットワークの成長を期待する投資家が多いことが分かります。


シャペラ・アップグレードに向けて強含み、完了後も底堅かった理由は、イーサリアムへの安心感が増し、その将来性にコミットする人が増えたということなのでしょう。


ただしかし、ステーキングしたETHを一先ず引き出したいという人がいるのも確かです。

「イーサリアムの引き出し待ち、約17日に延びる──ステーキングETHは増加」 コインデスク


申請から引き出しまでの期間が、先週末は14日前後から17日にまで延びているというニュースです。


暫くのあいだETHは、出金動向を見定めながらの値動きとなりそうです。

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為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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