暗号資産ウォッチャー これに注目!

第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」

マージ、無事に完了


暗号資産市場でビットコインに次いで時価総額が第2位のイーサ(ETH)。


そのETHが使用されるプラットフォーム「イーサリアム」のアップグレード「The Merge(マージ)」が、ほぼ予定通り9月15日、日本時間では16時前に実行されました。

 

【暗号資産よもやま話】でも数回にわたりマージを取り上げています。

・第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」

・第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」

・第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」


 

ethereum.orgのWebサイトより


このマージによってイーサリアムは、取引データ(トランザクション)承認の合意形成ルール、いわゆるコンセンサスアルゴリズムが、計算量に頼るプルーフ・オブ・ワーク(PoW)から保有量や期間を重要視するプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行しました。

 

PoSでイーサリアム・ネットワークの消費電力は、それまでと比べて99%以上も減少するとされています。マージを経て、地球に優しいサステナブル(持続可能)なブロックチェーン・ネットワークに成長することが見込まれます。

 

SDGs、13番目の目標に寄与


近年、持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)への貢献が投資の世界でも重要視されています。


17の大きな目標からなるSDGsのうち、今回のマージでは13番目の「気候変動に具体的な対策を」に寄与することになるでしょう。


サステナブル度を高めたイーサリアムに対し、機関投資家の注目度も増すのではないかと期待されています。


 


それでは、イーサリアム・ネットワークで使用されるイーサ(ETH)の値動きはマージ前後でどうだったのでしょうか。以下は1ETHあたりの日本円価格です。

 

・8月15日、マージ1カ月前は25万円を挟み上下していました

・9月1日、マージ約2週間前には22万円付近での取引でした。

・9月14日、マージ前日が23万円前後で推移。

・9月15日、マージ実行後やや上昇しましたが、約8時間後には21万円割れまで下落してしまいました。

 

※Trading Viewより

 

↑のチャート後、18日の日曜日には1ETHは20万円を下回り、日本が祝日だった19日には約3カ月ぶりの安値となる18万4000円前後まで一時売り込まれました。

 

6月中旬に12万円割れまで下落した水準からはまだ高い位置にいますが、大型アップグレードを終えたにもかかわらず、8月半ばの戻り高値27万円から3割以上も低い水準まで下げたことになります。


材料出尽くし?


マージ後のETHの値動きは、金融市場でよくある「材料が出尽くした」という見方からの売りも出ていたのでしょう。


【暗号資産よもやま話】第11回の後半で述べましたが、PoSではETHの供給量がPoW時から約90%も減少するとされています。

 

ETHへの需要量が変わらなければ明らかに需要>供給となるわけで、そうなると値上がり期待もかなり高まっていたことが想像できます。つまり、(私のように)既に買ってしまっていた人も多かったのでしょう。


しかし残念ながら、上昇力は思ったほど強まりませんでした。期待先行でETHを購入していた向きが失望し、諦め売り(投げ売り)が断続的に出たいうことも考えられます。


運が悪かった面も


またイーサリアムにとっても運が悪かったのは、マージ前から暗号資産市場に逆風が吹いていたことでしょう。きっかけはマージの2日前に発表された米国の8月消費者物価指数(CPI)でした。


8月米CPIは市場予想を上回り、夏のインフレ・ピークアウトを見込んでいた人たちが落胆。翌週の米連邦公開市場委員会(FOMC)はもともと利上げが確実視されていましたが、上げ幅拡大や金融引き締め長期化を金利先物市場が織り込み始めました。


中長期の米債券利回りも上昇し、金利の上昇で株などのリスク資産売りが強まりました。現在はリスク資産に位置付けられるビットコインを始めとする暗号資産も全般に下落。ETHもその流れに抗えなかったということでしょうか。

※Trading Viewより


↑のチャートは、ロウソク足に重なる青い線が、米国のNASDAQ(ナスダック)証券取引所に上場している企業のうち金融機関を除く時価総額上位100社で構成しているナスダック100指数の値動きです。別画面の紫の線は米国10年債利回りになります。米国の金融商品ですので、ETHの対通貨は米ドルとしました。


10年債利回りが急騰と共に株価指数は急落し、ETHも売られました。その後、米債利回りは水準が高いままナスダック100は低調というなかで、マージが実行されています。明らかに周囲の環境は良くありませんでした。


※ビットコインとナスダックや金融政策について、【暗号資産よもやま話】第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」


イーサリアム、次はどこに向かうの?


 さてイーサリアムはマージを終えて次はどこに向かっていくのでしょうか。

 

Vitalik Buterin says Ethereum will be ‘55% complete’ post-merge 

ヴィタリック・ブテリン氏、マージ後のイーサリアムは「55%完成」と発言

こちらはFortune.comが配信した記事をyahoo!financeがまとめたものです。

 

7月にパリで開催されたコミュニティ会議において講演したイーサリアム共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、ビットコインの支持者がその暗号資産の完成度を80%だと考えているのならば、(マージ前)のイーサリアムは40%程度だとしています。

 

そして今回のマージ後でイーサリアムの完成度55%に達すると述べました。大きな進展ですが、まだ道半ばということです。ブテリン氏は、The Merge後のロードマップ(行程表)について、4つの主要なアップグレードがあることを示しました。


それが「Surge(サージ)、Verge(ヴァージ)、Purge(パージ)そしてSplurge(スプラージ)」です。これらすべて、イーサリアムをより安全で分散されたネットワークにすることを目的としています。

 

2023年にも次のアップグレードSurge(サージ)が予定されています。これが成功すれば、データ処理能力が各段に向上し、ナットワーク内のガス代と言われる手数料も最小化されるようです。


イーサリアム、マージ終了で材料が出尽くしどころかまだまだ豊富であり、今後も話題には事欠かないようですね。

この連載の一覧
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第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
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第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
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第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
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第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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