暗号資産ウォッチャー これに注目!

第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」

暗号資産の時価総額、1兆ドル超えも8月水準には届かず

CoinMarketCapによれば、日本時間11月8日9時頃、暗号資産全体の時価総額は約1兆255億ドル(約150兆7458億ドル、1ドル=147円)と前週比で約1%の微増でした。ただし年初の約2兆2600億ドルの半分以下、6月につけた年初来の最低額7900億ドル超からは3割弱ほど戻してはいますが、再拡大した8月の最高額1兆1900億ドル超には届いていません。


※暗号資産と取引される法定通貨は米ドル(ドルを担保としたステーブルコインを含む)が主要なため、ドル価での表記とします。法定通貨とは、ドルや円など国家によって強制通用力が認められている通貨のことです。


なお、8日午後から9日早朝にかけて暗号資産市場は暴落しました。こちらについては次回の【暗号資産よもやま話】で取り上げたいと思います。 


※暗号資産時価総額の年初来チャート 11月8日9時時点、CoinMarketCapより


全体で伸び悩んだのはマージのせい?

 暗号資産の時価総額は9月半ばから1カ月強の間、なかなか1兆ドルを回復できませんでした(↑のチャート赤線部分)。その要因の1つは、暗号資産の時価総額で2番目に大きいイーサ(ETH)の弱さがあったようです。

 

当時は米国のインフレ加速が再び確認され、同国の中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)による利上げ強化への思惑が高まっていました。金利高は暗号資産を含むリスク資産への売り圧力に繋がるため、価格が上がりづらい状況ではありました。

 

そういったなか、9月15日にはETHが使用されるプラットフォーム「イーサリアム」の大型アップデートThe Merge(マージ)が実行されました。↓

【暗号資産よもやま話】第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」

 

しかしながら注目された割に上昇力は強まりませんでした。目先の材料出尽くし感でETH売りが優勢となり、過度な期待の高まり(ロングが溜まっていた)に対する反動も相まってETHを手放す向きが多かったようです。

 

マージが行われたその日、ETHは対ドルで9%超の下落幅を記録。その後も戻り鈍く、一時はマージ直前から2割近く価値を落とす場面もありました。

 

※Trading Viewより

 

10月下旬に潮目が変わる

 ETHの反発力が強まったのは先月25日からです。前2回の【暗号資産よもやま話】ではビットコイン(BTC)の反発を中心に述べましたが、ETHも溜まったショートの買い戻しが急ピッチで進みました。


↓関連記事 暗号資産情報サイトDecryptより

Bitcoin, Ethereum Rally Liquidates Over $1 Billion in Trades Overnight

「ビットコイン、イーサリアムの上昇により、一晩で10億ドル以上の取引が清算される」

 

また先月末のcoindesk Japanには以下のような記事も。

「イーサリアム、1週間で16%上昇──3カ月ぶりの上昇率」

                

マージによりプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、以下PoS)に移行したイーサリアムの供給量は1カ月強で1300ETHのみ。もし、それまでのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)のままであれば48万1000ETH以上!も供給量が増加していたようです。

 

記事ではETHは供給量が時間とともに減少していくデフレ型暗号資産になった、と指摘しています。供給量の減少は計画通りではありますが、実際に確認されたことで投資家がやっとETHに目を向けたのかもしれません。ETH価格の上昇は、少なからずも暗号資産の時価総額1兆ドル超えに貢献しました。


なおマージやPoS、PoWについては、こちらのコラム↓も参照してみてください。

【暗号資産よもやま話】第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」

 

ETH/BTC 0.07BTCを超えて上昇力強める

前述のcoindesk Japan記事では、イーサリアム・ビットコイン・レシオは先週10%上昇し、7月以来最大の上昇率を記録したと述べられています。

 

では、実際にETH対BTCのチャートを見てみましょう。日本では一部の交換所のみが提供しているだけですが、海外ではETH/BTCなど暗号資産のクロス取引が頻繁に行われています。


 

※Trading Viewより


〇で囲ったところ、10月25日に1ETHが0.070BTCを超えると一気にETH買いBTC売りが強まっています。同月29日には一時0.079BTC前半まで上値を伸ばしました。0.08BTC手前でやや伸び悩んでいるところが気になりますが、前述記事にあるようにBTCよりもETHを魅力的とする投資家は増えつつあるようです

 

CoinMarketCapによれば、11月8日時点の暗号資産全体におけるドミナンス(占有率、シェア)はBTCが39%弱で首位、ETHは約19%と2位と長らく変わらない位置関係です。ただ今回のようにETHがBTCをアウトパフォームすることで暗号資産全体を引っ張ることもあり、ETH/BTCの動きは今後も常に気を付けておく必要がありそうです。

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
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第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
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第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
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第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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