暗号資産ウォッチャー これに注目!

第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」

底堅いと言ったそばから大幅下落

 

代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は15日19時頃、対ドルでは2万2100ドル台/対円では295万円台で推移しています。前日同時刻と比べると1.5%ほど上昇していますが、1週間前と比べると弱く下落幅は4.5%前後です。

 

前回コラムの第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」では、相場には買い遅れ感があると述べました。しかしながら9日に配信後、底堅いどころか売りの勢いが一気に強まってしまいました。


※Trading Viewより、2月7日から14日

 

下落の一因は、米国の市場監視機関である米証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、通称SEC)による暗号資産関連への規制強化です。SECは、投資家保護や公正な市場整備を目的として約90年前に設立され、証券(株式や債券など)取引における法規を管理しています。

 

このSECが9日、暗号資産交換業大手のクラーケンが米顧客向けに提供している「ステーキングサービス」を証券の違法販売にあたると訴えました。これを受けてクラーケン側は同サービスを停止し、民事制裁金を含む3000万ドル(1ドル=133円で39億9000万円)の和解金の支払い応じました。

 

ステーキング、ネットワークの維持に貢献

 

ステーキング(staking)とは、保有する暗号資産をそのブロックチェーン・ネットワークに預けブロック生成(取引や送金などの承認)に関わることです。ネットワーク維持に貢献した見返りとして暗号資産を得ることができます。その報酬はステーキングする期間や量によっても変わります。

 

中央集権的な管理者がいないブロックチェーン・ネットワークは、ピアツーピア(peer to peer、P2P)で接続されているノード(コンピューター端末)で保たれています。ネットワーク内におけるトランザクション(取引・送金など)の記録は全てのノードで共有される仕組みです。

 


そのなかでバリデータ(検証する人)に手を挙げたノードが、トランザクションの整合性を承認する役割(前述したブロック生成)を得ます。トランザクションをまとめたブロックを前のブロックに繋ぐことで報酬を得るのですが、どうしても専門的な知識は必要とされています。


SECの怒りを買う、相場はロングの投げ


前述したクラーケンは自らがバリデータとなって、ステーキングを代行するという形で個人投資家から資金を預かり、リターンを払っていました。この部分が証券として捉えられ、無登録や投資家への説明不足がSECの意に反したということらしいです。

 

米国では、SECによる法的な縛りが他の暗号資産企業やサービスにも適応される可能性も取沙汰されました。トランザクションの検証にステーキングを採用する(いわゆるプルーフ・オブ・ステーク、Proof of Stake 以下PoS)暗号資産に対しても、何らかの規制が加えられるという懸念も少なからずあったようです。

 

強気相場が続いていただけに相場全般が買い持ちに傾いていたなか、急に深まった先行き不透明感が嫌気されてロングの投げが投げを呼びました。暗号資産の先物市場では2億ドル以上の売りが出たとされています。

 

「クラーケンの和解、暗号資産下落に拍車──先物市場で2億ドル以上の清算が発生」

PoSを採用するイーサ(ETH)、カルダノ(ADA)、ポルカドット(DOT)なども軒並み大きく下落。ETHは対ドルで、8日の高いところからだと一時14%安近くまで下げ幅を拡大しました。

※Trading Viewより

 

ビットコイン、PoS騒動に巻き込まれた

 

ところでビットコインのブロックチェーンでは、取引の整合性を確認するための決め事にプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、PoW)を採用しています。

 

PoWでは、膨大な計算量を必要とする問題を最初に解いたマイナーと言われるノードに、トランザクションを承認する権利が与えられます。その後ブロックチェーンに新たなブロックを繋げると、報酬として暗号資産(この場合はBTC)を獲得するという仕組みです。


PoWではステーキングはできません。今回のBTCの下げはPoS騒動に巻き込まれただけとも言えるでしょう。BTCの時価総額は暗号資産全体の4割以上あり、ドミナンスは圧倒的1位ですが、アルトコインの動きはさすがに無視できませんでした。

バレンタインデーの指標に助けられた?

 

2月14日のバレンタインデーに発表された1月米消費者物価指数(CPI)の後、BTCに再び追い風が吹きつつあるように見えます。CPIの前年比は予想を上回りドル金利は上昇しましたが、ネガティブ材料にもかかわらずナスダック総合は上昇して終えました。

 

「暗号資産とナスダックの相関関係が11月以来の高水準に」

ステーキングサービス問題のとばっちりを受けましたが、この記事が述べているようにナスダックとの相関関係が強いままでしたらBTCにも期待が持てるかもしれません。

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
第76回「ビットコイン、飛び跳ねた年 年明けも好材料が待ち受ける?!」
第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
第62回「再びFTXで大騒ぎ、ソラナが大幅安 一方ビットコインは底打ち期待も?! 」
第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
第57回「リップルにつれ安、8月のビットコインは?そして6カ月後までに・・・」
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第52回「ビットコイン、対円にしました!口座開設はもうお済み?」
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第48回「ビットコイン SECの圧力はちょっと違う、底打ち感も?!」
第47回「ビットコイン 5月は失速、でも今年中には大幅上昇?!」
第46回「ビットコイン 動かず、過去2回はその後に大波」
第45回「G7は規制強化 交換業大手はカナダから日本へ」
第44回「ビットコイン 4カ月連騰、手数料高騰が懸念?」
第43回「ビットコイン 冬は終了?欲張り過ぎには要注意」
第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
第38回「ビットコイン 時価総額はメタ超え、強欲な感じも・・・」
第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」
第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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