ワイルドな相場、ホワイトデーに9カ月ぶりの高値
代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は3月15日18時時点で対ドルでは2万4900ドル付近と前週比で約13%も高い水準、対円では334万円台と足もとでは堅調に推移しています。
先週末には大きく売り込まれる場面がありました。BTCドルは1万9600ドル前後、BTC円は266万円台と1月中旬以来の水準まで値を下げました。これは米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻をきっかけとしたステーブルコインUSDC(USDコイン)のディペッグ騒動が影響しました。
※ステーブルコインは価格の安定を目的に設計された暗号資産。法定通貨担保型のUSDCは米ドルと交換比率が一定(1USDC=1ドル)に維持されていた。ディペッグとはその比率が崩れたこと。
※Trading Viewより
もっとも週明けからBTCは切り返し、買いの勢いが一気に強まると日本時間14日夜には対ドルで2万6500ドル台まで上昇し、昨年6月以来の高値を記録。対円も353万円台と直近安値から3割以上も値を上げました。
その後15日未明にはBTCドルは2万4000ドル付近と高値から約9%急落、BTC円も322万円割れまで一気に売り戻されました。まさしくジェットコースターのような値動きであり、かなり「ワイルド」な相場展開となっています。
シルバーゲートの次はシリコンバレー
ビットコインが下げた場面では、週末を控えた流動性枯渇への警戒感が高まっていました。前回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」でも取り上げた暗号資産に特化するシルバーゲート銀行が、任意清算した影響が大きかったようです。
相場の地合いが弱いところに、シルバーゲートよりも規模が遥かに大きいシリコンバレー銀行(SVB)の問題が明らかに。SVBはスタートアップ企業向け融資でビジネスを拡大していましたが、運用の失敗などで損失が発生。増資計画を発表したものの、それが預金者や投資家の不安を煽ってしまったようです。
取り付け騒ぎが起きたSVBは9億ドル以上の現金不足が発生し、あっさりと破綻してしまいした。
※社会人の教科書サイトより
安定(ステーブル)はウソだった?
新興企業が多い暗号資産の関連企業もSVBに口座を持っていました。そのなかでも市場が危惧したのは米ドル連動ステーブルコインUSDCの発行元であるサークル社がUSDCの準備金の一部(現金保有分の25%)33億ドルをSVBに預け入れていたことでしょう。
「米サークル、シリコンバレー銀行から33億ドル引き出せず」 日経新聞(有料会員限定)
USDCからドルに交換したいという動きが進んだ場合、全ての要求には応えられない可能性が高まったということです。
サークル社と共に暗号資産交換業大手のコインベースもUSDC発行に携わっています。そのコインベースが、銀行が休みの週末のみと限定しながらも、USDCとドルの取引停止を発表しました。
USDCの価格は1ドルから一部取引所では0.81ドル割れまで急落。全くもって安定(stable、ステーブル)とは程遠い動きに、(価格維持の仕様は全く違いますが)昨年のアルゴリズム型ステーブルコイン・テラの暴落が想起されました。
※Trading Viewより
連鎖破綻、ビットコインは買いで反応
もっとも、週明けにかけてUSDCは再び1ドルに戻しています。これは米当局が、SVBの全預金を保護すると公表したことで安心感が広がりました。米連邦預金保険公社(FDIC)の定める1口座あたりの預金保護上限は25万ドルであり、それ以上に対しては不透明でした。
その後、週明けにはニューヨークを拠点とするシグネチャー銀行も経営破綻し、サークル社への影響も取り沙汰されました。
「暗号資産取引で知られる米シグネチャー銀、経営破綻…」 読売新聞
「暗号資産の米サークル、シグネチャー・バンク閉鎖で業務に影響」ロイター
シルバーゲート、シリコンバレーに続いての連鎖破綻に対するビットコインの反応は買いでした。
これは2010年代前半からビットコインを支持してきた人々にとっては当たり前のことだったようです。ブロックチェーンというシステムに支えられたビットコインは元々、中央集権的な既存の金融システムからの脱却を目指して作られたからです。
【暗号資産よもやま話】第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
※経産省の資料より
このところビットコイン(BTC)は「リスク資産」としての側面ばかり取り上げてきました。しかしながら、今回のような金融システム不安の高まりを受けて資金がBTCに向かったということは、金などと同じように「代替資産」としての位置づけが強まったと言えるのかもしれません。
ただし、14日夜に高値を更新した最後の一押しは2月米消費者物価指数(CPI)の鈍化が背景にありました。15日未明の直近高値から9%強の急落も、米金利の上昇を嫌気したものです。実際には、なかなか1つの見方に留まらないのが難しいところでしょう。
暗号資産相場のワイルドさはまだまだ続くことになり、ジェットコースターのような動きのなかではポジション管理の技術が問われることになりそうです。