暗号資産ウォッチャー これに注目!

第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」

ワイルドな相場、ホワイトデーに9カ月ぶりの高値

 

代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は3月15日18時時点で対ドルでは2万4900ドル付近と前週比で約13%も高い水準、対円では334万円台と足もとでは堅調に推移しています。

 

先週末には大きく売り込まれる場面がありました。BTCドルは1万9600ドル前後、BTC円は266万円台と1月中旬以来の水準まで値を下げました。これは米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻をきっかけとしたステーブルコインUSDC(USDコイン)のディペッグ騒動が影響しました。

 

※ステーブルコインは価格の安定を目的に設計された暗号資産。法定通貨担保型のUSDCは米ドルと交換比率が一定(1USDC=1ドル)に維持されていた。ディペッグとはその比率が崩れたこと。

※Trading Viewより


もっとも週明けからBTCは切り返し、買いの勢いが一気に強まると日本時間14日夜には対ドルで2万6500ドル台まで上昇し、昨年6月以来の高値を記録。対円も353万円台と直近安値から3割以上も値を上げました。

 

その後15日未明にはBTCドルは2万4000ドル付近と高値から約9%急落、BTC円も322万円割れまで一気に売り戻されました。まさしくジェットコースターのような値動きであり、かなり「ワイルド」な相場展開となっています。

 

シルバーゲートの次はシリコンバレー

 

ビットコインが下げた場面では、週末を控えた流動性枯渇への警戒感が高まっていました。前回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」でも取り上げた暗号資産に特化するシルバーゲート銀行が、任意清算した影響が大きかったようです。

 

相場の地合いが弱いところに、シルバーゲートよりも規模が遥かに大きいシリコンバレー銀行(SVB)の問題が明らかに。SVBはスタートアップ企業向け融資でビジネスを拡大していましたが、運用の失敗などで損失が発生。増資計画を発表したものの、それが預金者や投資家の不安を煽ってしまったようです。


取り付け騒ぎが起きたSVBは9億ドル以上の現金不足が発生し、あっさりと破綻してしまいした。


  

※社会人の教科書サイトより


安定(ステーブル)はウソだった?


新興企業が多い暗号資産の関連企業もSVBに口座を持っていました。そのなかでも市場が危惧したのは米ドル連動ステーブルコインUSDCの発行元であるサークル社がUSDCの準備金の一部(現金保有分の25%)33億ドルをSVBに預け入れていたことでしょう。


 「米サークル、シリコンバレー銀行から33億ドル引き出せず 日経新聞(有料会員限定)

 USDCからドルに交換したいという動きが進んだ場合、全ての要求には応えられない可能性が高まったということです。

 

サークル社と共に暗号資産交換業大手のコインベースもUSDC発行に携わっています。そのコインベースが、銀行が休みの週末のみと限定しながらも、USDCとドルの取引停止を発表しました。

 USDCの価格は1ドルから一部取引所では0.81ドル割れまで急落。全くもって安定(stable、ステーブル)とは程遠い動きに、(価格維持の仕様は全く違いますが)昨年のアルゴリズム型ステーブルコイン・テラの暴落が想起されました。

 


※Trading Viewより


連鎖破綻、ビットコインは買いで反応

 

もっとも、週明けにかけてUSDCは再び1ドルに戻しています。これは米当局が、SVBの全預金を保護すると公表したことで安心感が広がりました。米連邦預金保険公社(FDIC)の定める1口座あたりの預金保護上限は25万ドルであり、それ以上に対しては不透明でした。

 

その後、週明けにはニューヨークを拠点とするシグネチャー銀行も経営破綻し、サークル社への影響も取り沙汰されました。

「暗号資産取引で知られる米シグネチャー銀、経営破綻…」 読売新聞

「暗号資産の米サークル、シグネチャー・バンク閉鎖で業務に影響」ロイター

 

シルバーゲート、シリコンバレーに続いての連鎖破綻に対するビットコインの反応は買いでした。

 

これは2010年代前半からビットコインを支持してきた人々にとっては当たり前のことだったようです。ブロックチェーンというシステムに支えられたビットコインは元々、中央集権的な既存の金融システムからの脱却を目指して作られたからです。


【暗号資産よもやま話】第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」

※経産省の資料より

 

このところビットコイン(BTC)は「リスク資産」としての側面ばかり取り上げてきました。しかしながら、今回のような金融システム不安の高まりを受けて資金がBTCに向かったということは、金などと同じように「代替資産」としての位置づけが強まったと言えるのかもしれません。

 

ただし、14日夜に高値を更新した最後の一押しは2月米消費者物価指数(CPI)の鈍化が背景にありました。15日未明の直近高値から9%強の急落も、米金利の上昇を嫌気したものです。実際には、なかなか1つの見方に留まらないのが難しいところでしょう。

 

暗号資産相場のワイルドさはまだまだ続くことになり、ジェットコースターのような動きのなかではポジション管理の技術が問われることになりそうです。

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
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第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
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第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
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第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
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第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
第38回「ビットコイン 時価総額はメタ超え、強欲な感じも・・・」
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第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
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第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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