暗号資産ウォッチャー これに注目!

第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」

BTCにもアノマリー?

 

本日から9月、ビットコイン(BTC)にとって怖い月が始まってしまいました。

 

アノマリー(anomaly)という言葉をご存じでしょうか。

 金融相場では、これといった合理的な根拠がある訳ではないのですがよく当たると言われている経験則・規則性という意味で使われています。

 

米国株式市場のアノマリーを1つ上げるとすれば「5月に売り逃げろ、9月に戻ってくるのを忘れるな」。外国為替市場では夏前になると「8月は円高になりやすい」というアノマリーを語る人が増えます(今年は大きくハズレましたが)。

 

株や為替と比べて歴史も浅く、経験則もそれほど無いように思えるBTCですが、9月にはアノマリーらしきものがありました。それもあまり喜ばしくないものが・・・。

 

↓の表は暗号資産データを提供するサイトcoinglass内にある2013年1月からのBTC月間騰落率です。

※騰落率とは一定期間内での変化(値上がり・値下がり)率のこと。


 出所:coinglass 日本時間8月29日9時時点

 

BTC 9月は2勝7敗、今月は重要イベント


coinglassの表では、黄色い線で囲んだ2013年から21年までの9年間、月間マイナスで終えたのは7回/プラスはたったの2回です。直近では5年間連続でマイナスを記録しています。


確かに基となるデータは少ないのですが、「9月のBTCの弱さ」はアノマリーと言ってもよさそうです。

 

さて今月は、BTCにとってもかなり重要な米連邦公開市場委員会(FOMC)の開催を9月20-21日に控えています。FOMCの前にも、金融当局者の発言や重要イベント(米雇用統計やインフレ指標など)も発表されます。

【暗号資産よもやま話】第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」

 

FOMCの結果を見るまでは分かりませんが、9月アノマリー通りにBTCにとって怖い月になってしまうかもしれず、取引する場合はいつも以上の慎重さが求められるでしょう。


ところでFOMCの他にもう一つ、9月半ばには暗号資産市場にとって非常に重要なイベントが待ち構えています。それはマージ(The Merge)というイーサリアムのアップグレードです。


 

出所:イーサリアムHPより


イーサリアム、デジタル通貨というよりも


2015年に正式にリリースされたイーサリアムは、その2年前に当時19歳だったロシア系カナダ人ヴィタリック・ブテリン氏が仕様(ホワイトペーパー)を発表しました。

 

イーサリアムはビットコインを元に考えられたものであり、ブロックチェーン技術に支えられています。ただし、ビットコインは送金や決済に特化していましたが、イーサリアムは更に汎用性(はんようせい)を持たせることを目的に作られました。


※汎用とは様々な用途や分野に用いることができるという意味。weblio辞書サイトの実用日本語表現辞典より

 

※ヴィタリック・ブテリン氏 Forbes Japanより引用


汎用性を持たせたイーサリアムは、そのブロックチェーン上で様々な分散型アプリケーションの開発や運用が可能です。そのため、ビットコインのようなデジタル通貨ではなく、システムやサービスの土台となる「プラットフォーム」と位置付けられています。


このイーサリアムのネットワーク上で手数料や送金などに使用されているのが、暗号資産取引所でも取引されているイーサ(ETH)です。ETHは暗号資産市場ではBTCに次いで2番目に大きい時価総額を持ち、全体におけるドミナンス(占有率)は8月29日時点では19%弱となっています。


なお、BTCは発行枚数が2100万BTCと決められていますが、ETHには発行枚数の上限がありません。


他にもイーサリアムの特徴である「状態遷移」、実装されている「スマートコントラクト」、DApps(分散型アプリケーション)やDeFi(分散型金融)、ERC-20トークン、NFT(非代替性トークン)など説明すべきことは沢山あるのですが、また別の機会にさせていただきますね。

 

取引の承認、今のところ仕事量で決めてます

 

ビットコインやイーサリアムのネットワークでは中心となるサーバーがあるわけではなく、「P2P(peer to peer、ピアツーピア)」・端末同士が対等な形で繋がっています。


こういった暗号資産は中央管理者がいないため、取引や送金などのトランザクションの整合性を確認し、承認する作業をネットワーク参加者が行う必要があります。複数のトランザクションを一つのブロックにまとめ、暗号化してブロックチェーンの最後に繋げていく工程は、データが正しいことを担保するためにも非常に重要となってきます。

 

この暗号資産を保証するために絶対必要な承認作業は、それぞれのブロックチェーンごとに合意された特定のルール・手続き方法でなりたっています。その合意形成の方法がコンセンサスアルゴリズムと言われています。


出所:経済産業省


9月1日現在でイーサリアムのコンセンサスアルゴリズムは、プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、以下PoW)を採用しています。これは基本的にはビットコインと同じです。

 

PoWでは、膨大な計算量を必要とする問題を最初に解いたマイナーと言われるネットワーク参加者に、トランザクションを承認する権利が与えられます。承認し、ブロックチェーンに新たなブロックを繋げると、報酬として暗号資産を獲得。かなり大雑把な説明ではありますが、これがPoWによる暗号資産の発行の仕組みです。

 

報酬を得るまでには高性能のコンピューターが必要であり、大量の電気を消費すると言われています。計算量、つまり仕事量 が大きい人(たいていは専門の企業)ほどブロックが承認される成功率が高いとされ、この計算する作業がいわゆるマイニング(採掘)です。


 

イーサリアム 今月半ばにマージ、PoSに

 

PoWは、電力消費の大きさから環境負荷の高さが長らく問題視されてきました


しかしながらイーサリアムはまもなく、電力消費量を大幅に減らすことができるプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、以下PoS)にコンセンサスアルゴリズムを変更する予定です。待ちに待たれたこのアップグレードの名前がマージ(The Merge)です。

 

PoSとは、バリデータと言われるネットワーク参加者が一定額の暗号資産を預け(ロックされる)、その保有量や預け入れ期間によってブロック承認権利の割り当て確率が変わる(ランダム性もあり)システムです。保有量による格差という問題はあるようですが、計算量による競争が起きないため電力消費が大きく抑えられます。



引用:edgeサイトより


イーサリアムのPoWからPoSの移行は9月10日から20日の間に行われます。

「メインネットのマージ実施を発表」

※イーサリアム財団ブログより

暗号資産の関連サイトをみると、15日前後で実施を見込む向きが多いようです。

 

では次回も、このマージ(The Merge)についてもう少し見ていきましょう。

この連載の一覧
第122回「ビットコイン、そりゃ上がるわ 現物ETFへの資金流入が急拡大 あのFRB高官の見方に変化も」
第121回「ビットコイン、どうにも止まらない あの企業はやはり買い増し・米国は戦略的な…」
第120回「ビットコイン、最高値更新はトランプ様のおかげ 単なる投資対象としてではなく…」
第119回「ビットコイン、対円では最高値を更新 強気材料が目立つなか…あの国は」
第118回「ビットコイン、クジラが活発化 米大統領選を材料視…」
第117回「ビットコイン、7月以来の高値圏まで上昇 取引所からの残高減少が?」
第116回「ビットコイン、必要なのか? 尋ねてみた…BTC円は先月高値に迫る 」
第115回「ビットコイン、9月は2年連続の上昇 10月は好調なはずなのに・・・」
第114回「ビットコイン、回復基調 利下げはやはり!!副大統領は初めて暗号資産に言及」
第113回「ビットコイン、米利下げの影響は? ところで詐欺に合わないために・・・」
第112回「ビットコイン、伸び悩み ファンドから資金流出 昨年の暗号資産詐欺のトレンドは?」
第111回「ビットコイン、夏バテか? 残暑も厳しく 曲がり屋とされるあの人は」
第110回「ビットコイン、上値トライは失敗 チャットアプリ騒動が影響?」
第109回「暗号資産税制、隣の芝は青く見え過ぎた 1年以上保有すると・・・」
第108回「ビットコイン、米インフレ減速も上昇の勢いは・・・相場って難しい 米投資銀行が現物ETFを所有」
第107回「ビットコイン、夏バテ気味 リスク回避の流れに逆らえず」
第106回「ビットコイン、失速するも月間ではプラス維持 トランプ氏がビットコイン大国を掲げる」
第105回「ビットコイン、分散化が強さ 米大統領選の影響はより不透明に」
第104回「ビットコイン、大幅反発はトランプ氏のおかげ? イーサリアムもついに!」
第103回「BTC、2月以来の安値更新 独政府やMt.Goxなど売り材料目立つ ただし一巡後は持ち直す」
第102回「ビットコイン、半値戻しまで 日本の投資家は暗号資産に興味あり?!」
第101回「ビットコイン、週明けに売り強まる マウントゴックスがついに?!」
第100回「ビットコイン、ダブルトップ形成で下落?! アルトコインの影響も無視できず」
第99回「ビットコイン、対円では最高値更新も・・・ 米イベントで右往左往」
第98回「ビットコイン、ハッキングもなんのその こんどは豪とタイが!」
第97回「ビットコイン、占有率が下がり気味・・・ 現物イーサETFの取引は?!」
第96回「ビットコイン、対円では最高値更新 ETHもついに?!」
第95回「ビットコイン、弱い米指標が助けに?! ウィスコンシン州がお買い上げ」
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第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
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第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
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第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
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第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
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第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
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第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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