暗号資産ウォッチャー これに注目!

第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」

暗号資産(仮想通貨)で初めて発行されたビットコインの魅力、それは「自由」でした。


自由を探るため、今回は黎明(れいめい)期にあたる2009年から2010年半ばまでを、ナサニエル・ホッパー著「デジタル・ゴールド」(日本経済新聞出版社)を参考に振り返っていきたいと思います。


1つの論文から始まった


ビットコインが初めて誕生したのは2009年1月初めでした。Satoshi Nakamotoという個人またはグループが前年10月末、「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン: P2P 電子通貨システム)」という論文を暗号学に特化したメーリングリストで発表。その数カ月後にはプログラムがウエブサイト上に載るという、あっという間の出来事でした。

 

なお論文は日本語にも訳されていますので、上記のリンクをクリックして頂くと原文と共に読むことができます。ご興味ある方はぜひ!

 

政府や中央銀行による信用を拠りどころとしない、いわゆる「非中央集権的な通貨」が実現可能だと証明したのが、2008年のSatoshi Nakamotoの論文でした。それは「完全なP2P電子通貨の実現により、金融機関の介在無しに、利用者同士の直接的なオンライン決済が可能となるだろう。」から始まります。


P2Pとは「peer to peer」の略語であり、ネットワーク上で機能に違いのない端末同士が対等な関係で直に接続し、互いの持つデータや機能を利用しあう方式のことです。IT用語辞典より

↓のようなイメージです。


 


Satoshi Nakamotoが提唱したのは、いちいち国や銀行など第三者を通さずに済み、個人同士で直接、価値のやり取り(送金や決済)ができる仕組みです。


それに加えて匿名性の高さや既存の金融システムとは違ったプライバシー保護というところも理解できたプログラマーたちが、徐々にビットコインに引き付けられました。


ビットコインの日と呼ばれても・・・

 

この新たな通貨システムであるビットコインは、しばらくはSatoshi Nakamotoや少数のプログラマーなど極めて限られた仲間内だけでやり取りされていました。

 

当時は金融危機の真っただ中であり、金融当局の無制限とも言える銀行支援に批判が高まっていたときでした。ビットコインのウエブサイトでも「中央銀行のお粗末な政策から身を守ろう」と訴えかけましたが、新規ユーザーはそれほど増えなかったようです。

 

そういったなか、ビットコインのフォーラム(公開討論会)で米ドルとの売買の話が浮上。ビットコイン(BTC)が発行されて10カ月後、5050BTCが5.02ドルで購入されました。1BTCあたり1ドルの約1/1000いう交換比率は、ビットコインの発行(マインニング・採掘)時に使用される電気代をもとに算出されたそうです。

 

そこから半年以上が経った2010年5月22日にはピザ2枚(25ドル程度)と10000BTCの交換が行われ、ビットコインでモノが買えることが証明されました。その日は現在、「ビットコインの日、またはビットコイン・ピザデー」と呼ばれています。


 


その後にも10000万BTCを50ドルで買い、普及のために5ドルずつ配るというプロジェクトが進められました。しかしながら、ビットコインネットワークを大きく拡大するまでには至りませんでした。 


ビットコインの転機、政府の手が及ばないことを願う

 

ビットコインに転機が訪れたのは2010年7月11日です。フォーラムの中心メンバーがビットコインを世に知らしめようと、「スラッシュドット」というサイトに紹介記事を投稿しました。


このスラッシュドットは当時、世界中のコンピューターオタクが注目する電子掲示板だったようです。


そこでは「破壊的な技術とはこういうことだろうか」という言葉で始まり、「ビットコインはP2Pのネットワークベースのデジタル通貨で、中央銀行や取引手数料は存在しない」と説明。そして「(ビットコイン)コミュニティは、この通貨がいかなる政府(管理者)の手の及ばないものであり続けることを願っている」と文言で終えています。こちら⇒Bitcoin Release Version0.3

 

この記事がでたあと、ビットコインのサイトにはアクセスが殺到したようです。

 

ビットコインを取り巻く状況は大きく変わり、ソフトのダウンロード件数も飛躍的に伸びました。後に大きな騒動を巻き起こした取引所「マウントゴックス」もサービスを開始。5月と比べると価値も30-40倍ほど拡大しました。

 

※参照ウエブサイト bitcoin.orgBitcoin日本語情報サイト

 

個人主義がビットコインと繋がった

 

ビットコインのプログラムは順次バージョンアップしていたようですが、この2010年7月11日の前と後で仕様が急に変わったわけではありません。

 

スラッシュドット掲載前と違ったのは、ビットコインというプラットフォームに中央銀行は存在せず、政府の介入もないという「何人にも管理されない通貨がある」という事実が、そういったことに興味を持ちそうな人たちに届いたことでした。


ビットコインの新たなユーザーとなったのは、自ら管理し/匿名性も高く/世界中で動かせる「自由さ」に魅力を感じたのでしょう。

 

個人主義的な考え方が日本などよりもかなり強い米国や欧州では、プライバシーが守られ、個々の権利や自由を尊重することが非常に重要視されています。コロナ禍で「マスクを着用する/しない」で騒いでいたのは欧米諸国が多かったということも、個人主義が当たり前とされるからこそ起きた問題でした。

 

そういった欧米社会で育ち、その中でも権威や中央集権的なものをより嫌う人たちにとっては、ブロックチェーンという仕組みに支えられたビットコインという自由な通貨は、まさに待ち望まれていたものだったのかもしれません。

※出所:経済産業省商務情報政策局の資料より。ブロックチェーンについては「ビットコインなどの価値記録の取引を第三者機関不在で実現している」と記載。


なお、ビットコインのアドレスに匿名性はありますが、全ての取引はブロックチェーンで記録されているため追跡可能です。そのため取引の透明性という意味ではかなり高い決済ネットワークですただし、取引情報からは個人・団体を特定することはかなり難しいと言えるでしょう。


つまり伝え方が大事

 

いずれにせよ2010年7月11日、ビットコインの本質的なこと(国家や権力に束縛されない等)を気にする人がいるであろう場所でアナウンスできたことが、このデジタル通貨の普及に繋がりました。

 

物事を伝えるとき、強調する内容も大切ですが、伝える場所やタイミングということも非常に大事ということですね。


この連載の一覧
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第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
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第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
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第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
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第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
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第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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