暗号資産ウォッチャー これに注目!

第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」

注目のアップグレード、パンダマークはダウンタイムなし

 

イーサリアムにとって重要なアップグレードThe Merge(統合という意味、以下「マージ」)が、2022年9月10日から20日の間に実施されます。


前回の【暗号資産よもやま話】第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」でも、「マージ」の時期についてイーサリアム財団のブログ「メインネットのマージ実施の発表」を紹介しました。


暗号資産全体にとってもビッグなイベント。こちらがイーサリアムのウエブサイトethereum.orgに記載されているイメージ画像です。

 

パンダマークで示されている「マージ」は、前述期間の一時点、必要条件が満たされたときに実行されるようです。

 

イーサリアムのサイトでは、The Merge upgrade is designed to transition to proof-of-stake with zero downtime.(マージのアップグレードは、ダウンタイムなしでプルーフ・オブ・ステークに移行できるように設計されている。)と記載されています。

 

※ダウンタイムとは、システム(この場合はイーサリアムのブロックチェーン)が止まり使えない時間のこと。計画(意図的)と計画外(想定外)がある。

 

赤色のProof of Work(プルーフ・オブ・ワーク、以下PoW)」から「緑色のProof of Stake(プルーフ・オブ・ステーク、以下PoS)」にサクッと変わるようですね。また、別なラインから合流するロケットマークのBeacon Chain(ビーコンチェーン)というのがとても重要とされています。


暗号資産全体でも過去最大のアップグレード

 

今回の「マージ」は暗号資産で過去最大のアップグレードとも言われています。

 

(暗号資産を支える)ブロックチェーンにとって非常に重要な「取引の整合性を承認する権利を得る」合意形成のルール/方法(コンセンサスアルゴリズム)を変更するからです。暗号資産の発行に至る手段が変わるとも言えます。

 

イーサリアムは「マージ」が実施されるまではPoWというコンセンサスアルゴリズムを採用しています(または、採用していました)。これは簡単に言えば、計算量に依存する方法です。

 

そのPoWからPoSに変更されるのが「マージ」です。


PoSでは預け入れる暗号資産の保有量や期間が重要視されます。

※PoSのS、Stake(ステーク)は掛け金や出資金などの意味。ネットワークに暗号資産を預け入れることをステーキングという。

 

イーサリアムのサイトではこのPoW⇒PoSのタイミングについて、The Merge is like changing an engine on a rocketship mid-flight.(宇宙船の飛行中にエンジンを変更するようなもの)と表現しています。



何を統合するのか?


イーサリアムのアップグレード、PoWからPoS移行(変更)にもかかわらずネーミングは↑の文章でも使われた「change」ではありません。「merge(統合、併合)」というのはどうしてでしょうか。


これは、The Mergeのイメージ図にロケットマークで示されたBeacon Chain(ビーコンチェーン、2020年12月から稼働)が、イーサリアム誕生時から動いてきた既存のブロックチェーンと一緒になることを指しています。


ビーコンチェーンの主な役割は、PoSを稼働させるためには必要不可欠validator(バリデータ)の管理です。

 

Validateとは検証/承認するという意味です。暗号資産のバリデータとは、ブロックチェーンに記録されるトランザクションデータに整合性があるかを検証するノード(ネットワークに参加するコンピューター)のことを言います。

 

PoSのバリデータになると、ブロック生成(トランザクションの承認作業)に協力することになり、ネットワークのセキュリティ維持に貢献。それにより報酬を得ることができます(暗号資産の発行)。ただし、イーサリアムのバリデータになるには32イーサ(ETH)をステーキングする必要があります。

 

ETHはイーサリアムプラットフォーム上で使われる暗号資産(仮想通貨)であり、時価総額はビットコインに次いで全体の第2位を維持し続けています。9月3日時点で1ETHは約22万円ですので32ETHは、704万円ほどになります。


引用:ethereum.orgサイトより


イーサリアムのサイトによれば、9月3日時点でのバリデータ数は41万9806、ステーキングされた(預け入れられた)ETHは1419万234ETHに達しています。この時点でのステーキングの報酬はAPR(年換算利回り)で最大4.1%です。


ただし実際に32ETHを保有していたとしても、バリデータになるにはネットワークの高度な知識が必要なようです。


手持ちのETHを預け入れてバリデータとなれたとしても、ブロックチェーンに常に参加する(ノードとして登録したコンピューターをオンライン)ことが要求されます。トランザクション承認の協力を怠ると、預けたETHがペナルティとして没収されてしまうようです。

 

マージ、いったい何が変わるのか

 

「マージ」実施後にイーサリアムは実際に何が変わるのでしょうか。


良く取り上げられているのが、コンセンサスアルゴリズムがPoWからPoSに移ることで、イーサリアムネットワークが消費する電力量が99.95%削減されること。こちらについては次回以降、ビットコインとの比較なども含めて話したいと思います。

 

PoWの環境負荷を気にしていた人たちも、これで心置きなくイーサリアムを使用するかもしれません。

 

ETHを「マージ」前から保有し、その後も持ち続けるという人は特別なことをする必要はありません。ただ、取引所によってETHを引き出せない期間もあるようですので、そのあたりはチェックしたほうがよいでしょう。


気になるのはやはり、ETHの今後の値動きですね。それについては、ETHの供給が減ることに注目が集まっています。


How The Merge impacts ETH supply

https://ethereum.org/en/upgrades/merge/issuance/



イーサリアムサイトによれば、マイニング報酬(PoWのブロック承認で得たETH発行量)はマージ前までは1日で1万3000ETHありました。PoS移行でこの報酬分がマージ後には無くなり、ETHの発行量が90%も減少するというのです

 

需要がこれまで通りであるとするならば、ETH発行量(供給量)の劇的な減少を受けて需給バランスが大きく崩れてしまう可能性は高そうです。単純にこれだけを見ると、ETH買いが圧倒的に優勢になると思ってしまいます。


もちろん、絶対にETHが上昇するとは言い切れません。何事も絶対はない、金融相場と長く付き合うためには覚えておいた方が良い言葉です。

 

来週もまた、「マージ」について追いかけてみる予定です。

この連載の一覧
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第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
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第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
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第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
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第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

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