暗号資産ウォッチャー これに注目!

第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」

雛祭りなのに・・・

 

代表的な暗号資産のビットコイン(BTC)は8日14時点で対ドルでは2万2100ドル台、対円では305万円割れと前週比5%超の下げ幅で推移しています。雛祭りだった先週3日に突然売りが強まり、その後の反発も限定的です。

 

雛祭りの東京午前、BTCドルは2万3400ドル台から2万2200ドル割れ、BTC円が320万円付近から302万円前後と6%近く急落しました。それも約1時間での出来事です。この短時間の下落幅は、昨年11月に暗号資産交換所大手FTXが破綻したとき以来の大きさでした。

 

※Trading Viewより

 

ことの発端は、またFTX?!


きっかけは、暗号資産業界に向け金融サービスを手掛けるシルバーゲート銀行の持ち株会社シルバーゲート・キャピタルの財務不安の高まりです。米証券取引委員会(SEC)への年次報告書の提出を延期すると発表し、同社株は2日ニューヨーク株式市場で50%超も暴落しました。


シルバーゲート銀行を巡っては、前述したFTXが大口顧客だったことが嫌気され昨年末にかけて取り付け騒ぎが起きていました。暗号資産関連の預金は第4四半期に7割近く急減しています。米ウォールストリートジャーナル紙によれば、約81億ドル(1ドル=136円、約1兆1000億)の引き出しに対応するため、シルバーゲートは資産を投げ売りせざるを得ない状況に陥っていたようです。

 

もっとも2日の米国市場では、シルバーゲート株の暴落を横目に、ビットコインだけでなく主要なアルトコインはどちらかというと底堅い動きだったとも言えます。これは、米株式市場の全体を見渡すと総じて堅調だったということがあるのでしょう。

 

※Trading Viewより


しかしながらその後、コインベースやビットスタンプ、ギャラクシーデジタルなどを含めた暗号資産関連企業が次々とシルバーゲートとの取引停止を発表。暗号資産の流動性不足を懸念する声が米国夜(日本時間3日午前)に急速に高まり、おそらく大口投資家が売り走ったと思われます。それにより、溜まっていた買い持ちが一気に投げさせられたのでしょう。

 

一時パニック的な売りとなり、暗号資産情報サイトCoinDeskによれば、先物市場で買い持ちの清算額は8月以来の規模まで拡大したということです。

「Bitcoin Long Liquidations Hit Highest Level Since August」 

                                                        

シルバーゲート 2年間で資産規模が8倍に

 

さて元凶のシルバーゲート、coindeskのこちらの記事「The Rise and Fall of Silvergate’s Crypto Business(シルバーゲートの暗号資産事業の盛衰)」によれば、資産規模が最も大きかった2021年第4四半期には160億ドルと19年の当時から8倍近くも増加していました。

 

Silvergate Exchange Network(SEN)という24時間・年中無休でドルと暗号資産の交換が可能なサービスや、ビットコインを担保にドルを貸し付ける商品など独自のサービスを展開。当時は暗号資産の市場規模が急速に拡大し、シルバーゲートにとって追い風が吹いていました。

 

「ゴールドマン・サックスが注目するシルバーゲートとは?」

米投資銀行大手のゴールドマン・サックスも、条件付きながらシルバーゲートの成長見通しに楽観的な見方を示していました。

 

※coindeskサイトより


しかしながら暗号資産市場が一時の隆盛を失い、そこに重要顧客FTXの詐欺が明るみにでてシルバーゲートの信頼もガタ落ち。結局、一時は半年間で取引高が4060億ドルにも達したSENは閉鎖されました。

「シルバーゲート銀が取引所ネットワークを閉鎖」コインテレグラフ


他にも懸念材料、まだあるの?

 

ある暗号資産アナリストによれば、市場にとって逆風となる「5つの懸念材料」があるそうです。

シルバーゲート問題はそのうちの1つでした。

「There are 5 major crypto headwinds alarming the market right now」

 

他には、2014年に破産したビットコイン取引所「マウントゴックス」に絡んだ思惑です。債権者へのBTC返還(合計で14万2000BTC)が実施された場合に売り圧力になるという話。昨年夏に浮上し、第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」、その日が近づいているとの見方です。


また、まもなく実行されるイーサリアムのアップグレード、「上海アップグレード」も取り上げられています。ネットワークに預け入れられていた(ステーキング)イーサが引き出され、こちらも売りに繋がるということなのでしょう。

 

くわえて、「マクロ経済の変化」「規制当局による暗号資産の取り締まり強化」です。

マクロ経済については、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言が米金利の先高観を強め、リスク資産にとってはネガティブ要因に働いています。規制強化については、第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」で取り上げました。


個人的には、暗号資産市場の本格的な回復にはFTXの膿み出しは必要だと思っていましたが、それ以外にも気を付けねばならいことはまだあるようですね。

この連載の一覧
第94回「ビットコイン、2割下落は買い場? 月間の連勝記録は途絶え5月は鬼門かも」
第93回「ビットコイン、4年に1度のイベント終了 半分になったことが・・・」
第92回「ビットコイン、下落はあの国のせい? リスク耐性はどこいった」
第91回「ビットコイン、対円では高値更新も米国では小休止 香港が追随?! そして半減期」
第90回「ビットコイン、月間の連騰記録を更新 日足チャートで気になる形も」
第89回「ビットコイン、やっぱりETF次第・・・ 手数料高いとやっぱりダメ?!」
第88回「ビットコイン、大幅下落も何のその 相変わらずのジェットコースター相場」
第87回「ビットコイン、巨人がかき集め中 わずか2カ月で追いついたETFも」
第86回「ビットコイン、ついに夢の水準へ 機関投資家はこれから?!」
第85回「強すぎるビットコイン、まだ重要イベントが控える」
第84回「ビットコイン、対円では最高値更新 お隣が前向きな感じ」
第83回「どうにも止まらない、ビットコイン ETFによる保有量はあの企業も上回る」
第82回「ビットコイン、1月は何とかプラス 都合の良い見方にはご注意」
第81回「ビットコイン、トータルでは流入増だった 半値戻しは・・・」
第80回「ビットコイン、高値から2割下落 売り手はヤツが・・そろそろ終わり?!」
第79回「ビットコイン、祝・現物ETF承認!事実で売られるも取引は活況」
第78回「ビットコイン、年初も材料変わらず フェイクニュースもなんのその」
第77回「ビットコイン、4カ月連続のプラスとなるか 辰年への期待も高いまま」
第76回「ビットコイン、飛び跳ねた年 年明けも好材料が待ち受ける?!」
第75回「ビットコイン、荒い動き ただし下落率は意外とそれほどでも?」
第74回「フィーバー中に、ビットコインがフィーバーしていた! それも仕方なし」
第73回「ビットコイン、先物市場は盛り上がり ただし現物ETFへの待ち疲れ感も?」
第72回「ビットコイン、アルゼンチンからバイナンスまで材料多し 上げて下げて結局まだ底堅い」
第71回「ビットコイン、強気に傾き・買われ過ぎ感も高まっていた 後付けではありますが」
第70回「ビットコイン、5%下落は調整の範囲内、でもポジションの急拡大には要注意?」
第69回「まだまだ強いビットコイン、クジラも活発化 ハロウィンで15周年」
第68回「ビットコイン、年初来では2倍超に!ETFに心躍らせる人たち 」
第67回「ビットコイン、誤報にもめげず底堅い あの高級車も買えるようになる?!」
第66回「地政学リスクよりもハッキングリスク、9月や第3四半期は今年最悪」
第65回「急騰の要因は色々あれど、マスク氏も関係?米議会の混乱や債務増もポジティブ材料に」
第64回「ビットコイン、米金利とドルに振り回され再び暗雲も しかし挫けない男は追加でご購入」
第63回「ビットコイン大台回復、大手参戦が追い風に たまには他のコインも要チェック」
第62回「再びFTXで大騒ぎ、ソラナが大幅安 一方ビットコインは底打ち期待も?! 」
第61回「ビットコイン、9月は本当に"fall"なの?今年もアノマリーが気になる」
第60回「ビットコイン、復活!きっかけはGBTC そしていよいよETFも・・・」
第59回「どうしたビットコイン?スペースXのせいなのか さて、どのサインを信じるか」
第58回「ビットコイン、売り買い材料が交錯 あのトランプ氏も心変わり?」
第57回「リップルにつれ安、8月のビットコインは?そして6カ月後までに・・・」
第56回「ビットコイン、400万円台維持 ネガティブニュースも跳ね返す」
第55回「ビットコイン、ゴールドのように羽ばたけるか ただしETFはもう少し先かも?」
第54回「Simple is Best、相場は単純に考える ところでBTCが上がらない理由は?」
第53回「ビットコイン 円高の影響、分かれたヤツは元気」
第52回「ビットコイン、対円にしました!口座開設はもうお済み?」
第51回「現物ETF 承認への期待大! ただし一旦落ち着く必要も・・・」
第50回「ビットコイン、救世主が出現! 現物ETFへの期待高まる」
第49回「BTCの占有率上昇、ただし市場が盛り上がっているわけでは・・・」
第48回「ビットコイン SECの圧力はちょっと違う、底打ち感も?!」
第47回「ビットコイン 5月は失速、でも今年中には大幅上昇?!」
第46回「ビットコイン 動かず、過去2回はその後に大波」
第45回「G7は規制強化 交換業大手はカナダから日本へ」
第44回「ビットコイン 4カ月連騰、手数料高騰が懸念?」
第43回「ビットコイン 冬は終了?欲張り過ぎには要注意」
第42回「イーサリアム 待ち時間は延びる、BTC 10カ月ぶりの高値をつけるも・・・」
第41回「ビットコイン 約10カ月ぶりの高値、信じる者は・・・」
第40回「リップル 3月は元気いっぱい、裁判の終わりが見えた?!」
第39回「当局の圧力にも負けず、BTC買い衰えず」
第38回「ビットコイン 時価総額はメタ超え、強欲な感じも・・・」
第37回「まるでジェットコースター、ビットコイン 代替資産としての位置づけも」
第36回「ビットコイン とんだ雛祭りに、懸念材料は複数残る?」
第35回「ビットコイン 売り持ちファンドに資金流入、投資家の懸念を反映」
第34回「昨年6月以来の高値更新、ビットコインの上昇要因を探る」
第33回「ビットコイン とばっちり食らう、PoWには関係なし?」
第32回「ビットコイン、2月も底堅い クリスマスまでには?!」
第31回「イーサリアム、マージから4カ月半 伸び代あり?!」
第30回「悪いニュースに反応せず、アノマリーもあったとは」
第29回「クジラがショートカバーを誘発?! 最後の一押しは日銀」
第28回「ビットコイン 年始はまずまずのスタート、より身近になった?」
第27回「ボラティリティ低調、でも今年のビットコインは進展!」
第26回「期待は失望に変わり、一喜一憂すべきではないとの助言も・・・」
第25回「厳しい年、規制強化は仕方なし?・・・理想は遠い」
第24回「あれから1カ月、ようやく明るい話も」
第23回「破綻の検証始まるも・・・先はまだ長そう」
第22回「FTX破綻の衝撃拡大、ただ日本法人は年内にも?!」
第21回「FTX/アラメダ破綻、FTT暴落・・・暗号資産は今後?」
第20回「ETHがBTCをアウトパフォーム、市場全体をけん引」
第19回「BTC 今年も10月は良い月に、依然としてボラは注視」
第18回「ビットコイン やっと反発、ボラティリティの底打ち感も?」
第17回「何時でも何処にでも、ウクライナ支援も」
第16回「BTCと米株、相関関係はあるの?」
第15回「BTC、9月アノマリーはどうなった?」
第14回「ビットコイン かなり電気を使い過ぎ?世界で23番目と同等」
第13回「マージ後にETH下落、運の悪さも?完成度はまだ・・・」
第12回「イーサリアム、地球に優しくなるために」
第11回「暗号資産のビッグイベント! The Merge」
第10回「BTCにとって怖い9月、一方でETHは?」
第9回「久しぶりのフラッシュクラッシュ、今さらマウントゴックス?」
第8回「ディフェンスは重要、保管の方法は?」
第7回「時価総額9位がハッキング被害、財布のせい?」
第6回「ビットコイン、まずはエビになってみる?」
第5回「ビットコイン 金融市場の入り口に?」
第4回「ビットコインもFOMCは無視できず」
第3回「ビットコインの魅力~それは自由、黎明期を振り返る」
第2回「ビットコインって魅力的?」
第1回「ビットコイン、えらいことになってます!」

為替情報部 アナリスト

小針 卓哉

1993年に米系銀行へ入行し、外国為替部でインターバンク・スポットディーラーとなる。ドル円のみならず豪ドルやドルマルクなどの通貨も担当し、東京市場を中心に活躍。 ユーロ発足後からは、ユーロドルやユーロクロスなどを担当。その後に移った米系証券や大手邦銀のトレーディング部においても欧州通貨を中心に取引し、収益手法は主に短期的なトレーディングを得意とした。 為替相場以外では、アンガーマネジメント・ファシリテーターとしての一面もある。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチ社に入社。

小針 卓哉の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております