第186回 中東情勢に主要通貨の反応

米・イスラエルがイラン攻撃

2月28日に米国とイスラエルはイランに対して「大規模な戦闘作戦」を実施しました。今回の攻撃により、イランの最高指導者ハメネイ師が殺害され、イランの報復攻撃も続いています。イラン攻撃が長期化になるか、それとも短期間で終了するかに関して情報が錯綜していますが、この一週間は中東リスクで金融市場全般が神経質な動きとなっています。

 

攻撃の2日前には米国とイランは、イランの核開発計画をめぐって間接的に協議していたが合意には至らず、トランプ米政権は攻撃に踏み切りました。この攻撃に対し、世界では国際法違反との声も少なくありません。

 

中東情勢の悪化で原油の供給への懸念が高まり、原油相場は急騰しました。また、世界同時株安が進み、投資家のリスクオフ志向が高まる中、為替市場も神経質な動きが続いています。中東の地政学リスクの高まりへの主要通貨の反応を確認します。


「有事のドル買い」は変わらず

イラン攻撃開始後、ドルは全面高となっています。トランプ米大統領の関税政策、二転三転する同氏の言動、米中銀の独立性への脅威などでドルの信認が低下し、ドル離れの動きが進んでいるものの、まだドルが最強通貨であることは変わらず、今回も素直に「有事のドル買い」で市場は反応しています。

 

ただ、イラン戦争の長期化が見込まれ、米経済への悪影響懸念が高まり、国内外でトランプ氏への不満や批判が高まれば、一方的にドル高が進むのは難しいでしょう。


円、リスク回避の買いは限定的

週明け初期反応としては円買いとなったが、値幅は限定的にとどまり、ドル円はドル高を支えに上昇に転じ、日本株を含め世界の株式市場が急落する場面でも「リスク回避の円買い」は大きく進まず、クロス円の下押しも限られました。昔と比べて、近年の円は逃避通貨としての魅力は明らかに低下し、円の信認が低下していることも伺えます。

 

また、イランがホルムズ海峡を封鎖し長期化のリスクが高まれば、エネルギー価格の上昇による日本経済の悪影響が懸念されていることも、円の上値を重くしています。

 

スイスフラン、逃避通貨

円と違って、スイスフランは逃避通貨としての地位に揺るぎはありません。ドルと円の信認が低下しつつある中で、今後もリスクオフ局面でスイスフランが真っ先に安全通貨として選択肢に入る可能性が高いでしょう。


今回もスイスフランの買いが鮮明にあり、スイスフランの急上昇を警戒したスイス国立銀行(中央銀行)は為替介入姿勢を強めると、異例の口先介入に打って出ました。スイス中銀は「スイスフランの急激かつ過度な上昇が物価安定を脅かす場合、介入の用意がある」と警告しました。日本は円の一段安阻止に動いているが、スイスはスイスフラン高の阻止と格差が鮮明になっています。


原油高への反応

イラン攻撃で原油相場が急騰し、市場では「原油高に強い国の通貨が買われ、弱い国の通貨が売られやすい地合い」となっています。市場では欧州、インド、中国などの主要輸入国に打撃となる一方、ロシアやカナダ、ノルウェーといった輸出国が恩恵を受けると指摘されています。

 

ユーロやポンド、下落

原油や天然ガスの高騰はエネルギー輸出国の米国には有利だが、輸入依存の高い欧州には不利ということで、ユーロやポンドは売りに押されました。イランや中東情勢を巡る混乱が長期化した場合、財政拡張を転機に回復基調にあるユーロ圏の景気を下押しするとともに、エネルギー価格の上昇を通じて物価を押し上げるとの見方が強いです。

 

原油高が続くと、欧州中央銀行(ECB)が今後利上げに踏み切り、イングランド銀行(英中銀、BOE)は年内の利下げ期待が後退するとの見方が一段と強まりそうです。原油高を受けて市場ではBOEが3月会合で利下げを実施するとの観測が大きく後退しています。

 

人民元、底堅い

ドルの全面高や、中国がイランから原油輸入が大きくそのダメージを受けるということで、人民元が売られる場面もあったが、下押しは限られています。人民元の先高観が根強いこと、最近の人民元がリスクオフ局面で買われやすくなっていることや、中国の全エネルギー源から見るとイランからの輸入は限られていることもあり、人民元の底堅い動きが続いています。

 

2024年の中国の全エネルギー源構成をみると、石油はわずか18.5%程度で、その中で輸入が72%であり、輸入でイランが占める割合は12%程度となっており、中国のエネルギー源のイラン石油依存度は「わずか1.6%」程度でした。

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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