巨額のAI投資が続くなか、AIモデルも日々進化を続けています。最近では、オープンAIの新モデル「GPT-5.6」の一般提供が始まりました。ちょっと前には、世間を騒がせたアンソロピックが最新モデル「ミュトス」と、セキュリティを強めた一般向けモデル「フェイブル5」の提供を始めました。
SNSのX(旧ツイッター)で使えるAIモデル「Grok」も4.5がリリースされています。もともとはxAI(エックスエーアイ)という企業が提供していましたが、宇宙開発企業スペースXのAI部門として統合されました。スペースX=ロケットとスターリンクのイメージが強いため、こちらはあまり知られていない印象です。
世はまさに大AI時代と言えますが、AIが勢いを増すにつれて株価が反比例した業界があります。今回はSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)業界に焦点を当ててみましょう。
AIによる代替懸念
ことの発端は2025年後半。アンソロピックの「Claude Code」やオープンAIの自律型コーディングエージェントが、ソフトウェア開発を大幅に低コスト化できることを示しました。これによって既存SaaS企業の参入障壁が崩れるとの見方が強まり、株式市場は堅調なのにソフトウェア、SaaS、コンサルティングといったITを駆使したサービスを提供する企業の株価は雲行きが怪しくなり始めます。
こういった企業の株価が急落したのは26年1月末くらいからです。「Claude Code」の機能である「Cowork」に法務・財務業務対応の新機能を追加したことなどを受け、AIが専門分野も侵食するとの警戒感が一段と強まりました。これにより、セールスフォース、アドビ、サービスナウといった米国のSaaS企業は軒並み暴落。いわゆる「SaaSの死」と言われ、日本でもNEC、富士通、野村総合研究所などのIT大手がきつい下げとなったのは記憶に新しいでしょう。

※各種データを基に弊社作成
くすぶる懸念
3月ごろにはいったん暴落は収まりましたが、懸念はくすぶります。個々の決算発表もあり、内容が良ければ買いの反応となりますが、上昇は続かず上下を繰り返すばかり。AIの進化がすさまじく、今が良かったとしても将来の不透明感がぬぐえないというのが要因と言えます。
7月で株式市場を揺らしたのはIBMの暫定決算でした。2026年第2四半期(4-6月期)の暫定決算では調整後一株当たり利益(EPS)の見通しを2.93ドルとし、市場予想の3.01ドルを下回る内容です。メモリーなどの価格高騰により顧客企業における設備投資の優先順位がそちらに向き、システム投資が足踏みしたようです。
これを受けて7月15日に株価は25%安という驚異の暴落を引き起こしました。翌16日には東京市場でもSaaS・ソフトウェア株への懸念が広がり、関連銘柄が幅広く売られたのは記憶に新しいでしょう。

※各種データを基に弊社作成
隆盛の後は再編?
2010年代以降はクラウド(インターネットを通じたサービス)の急拡大を追い風にSaaS企業も業績を伸ばしていきましたが、AIの台頭により投資家は今後の成長に懐疑的。AIに淘汰されるか、AIを使いこなして成長するか、各社の分岐を見極めたいという雰囲気に満たされています。
国内でもSaaS企業社長へのインタビューが各メディアから発信されていますが、楽観的な内容はあまり見受けられません。一方で好機ととらえる経営者も多く、「汎用化されたデータは不要」「企業固有のデータを持っているか否か」「AIネイティブ(AIを組織やシステムに自然な形で組み込むこと)を進める」といった声がありました。
SaaS関連株の足取りは重いですが、最近気になるニュースがありました。経費精算システム「楽楽精算」などで有名なラクスが、人材管理システム「タレントパレット」を手掛けるプラスアルファ・コンサルティングの株式を追加取得するといったものです。ラクスの議決権所有割合は20%を超えることになるので、プラスアルファはラクスの持分法適用会社となる予定です。
ラクスは経理向けのクラウドサービスに強みを持ち、プラスアルファがグループになることで人材向けにも領域を広げることになります。SaaS市場は一部が圧倒的な市場シェアを獲得している分野と競争が激しい分野が極端に分かれます。前者は参入障壁が高く早々にAIに牙城を崩されることはないと思いますが、競争が激しい分野(参入しやすい分野)は汎用的なツールになりやすく、乱立・価格競争が続きます。
ちょっと前の話になりますが、筆者は良さそうな家計簿アプリがないか探していた時期があります。何個かダウンロードして使ってみましたが、機能は似たり寄ったりで、これがずば抜けて使いやすいといったものは見つかりませんでした。最近は生成AIを使うことが増えたので試しに家計簿アプリを作ってもらうと、スマホでもちゃんと機能するものができます。
AIに作ってもらったアプリは不満があればいくらでも改良と修正ができるので、AIで簡単にできる「汎用的なもの」は確かに衰退しそうな感じがします。SaaSも同じで、AIで簡単に解決できそうな汎用的な製品は価値が薄まると言えます。
こういった状況であることを考えると、生き残るのはAIで簡単に置き換えることが難しいSaaSです。そのSaaS自体もAIを取り入れることで、よりユーザーに支持される製品へと昇華するでしょう。経理向けで高いシェアを持つラクスは、人材向けで高いシェアを持つ製品を手に入れました。もしかしたら、今後のSaaS業界は強い者同士が手を取る時代になるのかもしれません。



