拡大する戦禍
2月28日に米国とイスラエルがイランへの攻撃に踏み切ったことで、市場ではリスク回避の動きが強まりました。
WTI原油先物価格は、攻撃前の終値である67.02ドルから急騰し、一時は119ドル台まで上昇しました。
その後は上昇一服となったものの、終値ベースでも83ドル台にとどまるなど、高値圏を維持する展開が続いています。
各国による石油備蓄の放出や、トランプ米大統領をはじめとする政権関係者が戦争の早期終結に言及するなど、原油価格の抑制に向けた動きも見られました。
しかし、約9000万人の人口と広大な国土を有するイランに対する軍事行動が短期間で収束する可能性は低く、情勢の不透明感は依然として強い状況です。
加えて、宗教的対立という根深い要因も無視できません。
特にイスラム圏とユダヤ教国家であるイスラエルとの間には歴史的・宗教的な隔たりが存在しており、単純な政治的交渉だけで解決できる問題ではありません。
こうした背景を踏まえると、今回の衝突は一時的なものにとどまらず、戦禍の拡大と長期化が避けられないとの見方が強まっています。
株式関係者は楽観主義なのか?
イランへの攻撃開始からまだ半月も経っていない先週、一部の株式市場関係者の間では、早くも戦争の早期終結や影響の限定性を見込む楽観論が浮上しました。
例えば、「市場はすでに悲観論を織り込んでおり、これ以上の下落余地は限定的だろう」「米国も戦争終結へと舵を切り、相場は次第に落ち着く」といった見通しです。
もちろん、こうした楽観論が結果的に正しい可能性も否定はできません。
しかし、この段階でここまで楽観的な見方が広がる背景には、株式市場特有の構造が影響していると考えられます。
株式市場は本質的に、企業の将来成長と利益拡大を織り込む市場です。
そのため、「いずれ回復する」「最終的には経済は成長する」という前提が常に内在しており、相場は自然と上昇志向を帯びやすい傾向があります。
こうした構造が、地政学リスクに対する感応度を相対的に鈍らせ、結果としてリスクを過小評価しているように見える一因となっています。

また、為替や原油先物の市場関係者は、相場を極めて短期の時間軸で捉えており、値動きや材料に対して即座に反応する傾向があります。
一方で、株式市場の参加者は、こうした事象が企業業績にどの程度影響を及ぼすかという点に主眼を置いています。
そのため、短期的な変動よりも、中長期的な収益見通しへの影響を重視する傾向があります。
要するに、株式市場は長期的視点と成長前提を基軸とする構造にあり、それが結果として楽観的な見方につながりやすいと言えます。
為替の楽観主義が一番厄介
株式市場には株式市場特有の見方があります。
当然ながら、戦争の発生が必ずしもすべての企業業績にマイナスに働くわけではありません。
むしろ、防衛関連のように需要が拡大する分野や、インフレに強い銘柄、さらには代替エネルギー関連など、恩恵を受けるセクターも存在します。
このため、戦争=株式市場の下落と単純に結び付けることはできません。
実際、過去を振り返ると、朝鮮戦争時には日本は戦場とならず、米国の後方支援拠点として機能したことで特需が発生し、株式市場は堅調に推移しました。
これは供給側としての立場を生かした特殊なケースではありますが、地政学リスクが必ずしも株価の下押し要因に直結しない一例と言えます。
このように、株式市場は個別産業や経済構造の変化を織り込みながら動くため、単純なリスクオフの枠組みだけでは捉えきれない側面を持っています。

ただし、こうした株式市場的な楽観主義を、そのまま為替市場に持ち込むことは最も注意すべき点の一つです。
為替市場では、例えばドル円が上昇すればドルが買われ円が売られ、逆に下落すればドルが売られ円が買われます。
すなわち、常にどちらかの通貨が買われ、どちらかが売られる構造にあります。
このため、株式市場のように「全体として上昇する」といった楽観的な前提は、そのままでは機能しません。
どの通貨を買い、どの通貨を売るのかという選択が常に求められる以上、単純な楽観論は実務的な判断材料になりにくいのが実情です。
さらに、為替市場は短期的な資金の出入りが主導する場面が多く、材料に対する反応速度も極めて速いという特性があります。
こうした市場環境では、株式市場と同様の中長期的な成長前提に基づく見方を、そのまま適用することはリスクを伴います。
もちろん、ポジションを長期間維持する中長期の取引戦略も存在しますが、短期主導の値動きが支配的な局面においては、株式市場的な発想でポジションを構築することは避けるべき(やってはいけない)アプローチの一つと言えるでしょう。



