英国の政治情勢が再び世界の金融市場の注目を集めています。6月22日、労働党のキア・スターマー英首相が辞任を表明しました。2024年の政権交代から2年足らずでの退陣劇は、長引く経済低迷や支持率低下を受けたものですが、この「英首相辞任」がポンド相場や英国経済へ与える影響と、今後のマーケット参加者が注視すべきリスクの核心について解説します。
年初来安値へ迫ったポンド、円滑な権力移譲への期待も
今回の「英首相辞任」は、完全に突発的なものでもありませんでした。すでに先週の下院補欠選挙で、労働党のバーナム前マンチェスター市長が大勝して国政復帰を果たしたことで、党内では「スターマー降ろし」の機運が一気に高まっていたからです。
そのため、為替市場では先週からすでに辞任を見越したポンド売りが進んでいました。週末に突っ込み気味に1ポンド=1.3163ドル前後まで売られ、多少戻して週引け。週明け22日の辞任表明の直後に再び1.3180ドル近辺へ下押すなど、3月下旬につけた年初来安値水準1.3160ドル付近を意識させるような動きとなっていました(図表参照)。

しかし、その後のマーケット参加者の反応は、当初の警戒感に反して落ち着きを示しています。次期首相の有力候補と目されていたストリーティング前保健相が、すぐさまバーナム氏への支持を表明したことで、泥沼の権力闘争を避け、新政権への「円滑な権力移譲」が進む公算が大きくなったためです。この見通しを好感し、ポンドは一時1.32ドル半ばへと急速に下げ幅を縮小し、その後は1.32ドルを挟んだ安値もみ合いの展開となっています。政権交代がスムーズに進むことで、停滞していた英経済運営が新たなリーダーシップのもとで好転することへの期待感も、一部のマーケット参加者からは聞かれています。
くすぶる財政拡張への懸念と「トラス・ショック」再来リスク
足元では政治リスクへの過度な警戒感は限定的となっているものの、中長期的な視点を持つマーケット参加者が最も懸念しているのは、次期政権が舵を切る「財政政策の行方」です。
現在の英国は、主要7カ国(G7)の中でも借入コストが高く、多額の債務を抱えています。スターマー政権下では、日常的な歳出を税収で賄う「安定性ルール」などの厳格な財政ルールを導入し、市場からの信認を維持してきました。しかし、新首相の座を争う党首選のプロセスにおいて、有権者や党内左派へのアピールを狙った減税や歳出拡大などの「財政拡張策」が打ち出されるのではないか、という警戒感がくすぶっています。
有力視されるバーナム氏は、厳格な財政規律を踏襲すると表明していますが、同氏はもともと左派寄りと見なされており、具体的な経済公約はまだ不透明です。もし新政権が市場との対話を軽視し、財源の裏付けのない積極財政へと傾斜した場合、英国債が投げ売られて長期金利が急騰し、同時にポンド安と株安が引き起こされる、いわゆる2022年の「トラス・ショック」が再来するリスクも懸念されています。
「英首相辞任」という目先の政局イベント自体は織り込みが進んだものの、7月9日から開始される党首選の行方、そして新首相が現在の財政ルールを維持するかどうかという点こそが、今後のポンド相場を大きく左右する重要なチェックポイントと言えるでしょう。





