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第204回 リーマン・ショックと為替相場

外国為替市場では経済危機や金融不安が発生すると、「リスク回避」という言葉をよく耳にします。その代表的な出来事が2008年9月に発生した「リーマン・ショック」です。

 

米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破綻したことをきっかけに、世界の金融市場は大混乱に陥りました。株価は急落し、多くの投資家が保有資産の売却を進めるなど、市場は極度の不安心理に包まれました。

 

リーマン・ショックはなぜ起きたのか

発端となったのは、米国の住宅市場でした。当時は住宅価格が上昇を続けるとの見方が強く、返済能力の低い人向けの住宅ローン(サブプライムローン)が急速に拡大しました。これらのローンは証券化され、世界中の金融機関や投資家が保有していました。

 

しかし、住宅価格が下落へ転じると返済不能者が急増し、関連する金融商品も急速に価値を失いました。その影響は世界中の金融機関へ広がり、資金の貸し借りが滞る「信用収縮」が発生します。そして2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが経営破綻したことで金融システムへの不安が一気に高まり、世界同時株安へと発展しました。

 

リーマン・ショックで円が大幅高

株価が急落したにもかかわらず、当時の為替市場では円が大きく買われました。一見すると、日本経済も世界景気の悪化による影響を受けるため、円も売られそうに思えるかもしれません。しかし、市場では「円キャリートレード」の巻き戻しが急速に進んだことが円高の大きな要因となりました。

 

金融危機によって投資家がリスクを避ける動きを強めると、これまで借りていた円を買い戻して返済する動きが一斉に広がりました。その結果、円買いが加速し、ドル円相場は一時1ドル=90円を下回る水準まで円高が進みました。「危機になると円が買われる」と言われる背景には、このような市場の仕組みがあります。

 

ドルも上昇

リーマン・ショックでは、円だけでなくドルも買われました。世界経済の中心である米国が震源地だったにもかかわらず、多くの投資家や金融機関は決済や資金調達のためにドルを必要としていました。世界の貿易や金融取引の多くはドル建てで行われています。そのため、市場が混乱すると「まずドルを確保しよう」という動きが強まりました。

 

このように円はリスク資産の整理による買い戻し、ドルは世界の基軸通貨としての需要から買われるという、一見すると矛盾しているようにも見える現象が同時に起きたのです。為替市場では、通貨が買われる理由は一つではないことを理解しておくことが大切です。

 

リーマン・ショックから学べること

この出来事から学べることは数多くあります。第一に、市場は経済指標だけで動くわけではないということです。金融システムへの不安や投資家心理の変化が、相場を大きく動かすことがあります。

 

第二に、「リスク回避」の局面では、それまで人気だった通貨や資産が急速に売られることがあります。高金利通貨や株式が大きく下落する一方で、安全資産とみなされる通貨へ資金が向かうケースも少なくありません。

 

そして第三に、相場は予想以上のスピードで動くことです。金融危機のような局面では、短期間で数円から十数円規模の値動きが発生することもあります。FXでは利益を狙うことだけでなく、損失を限定するためのリスク管理がいかに重要であるかを、この出来事は教えてくれています。

 

おわりに

リーマン・ショックは、世界経済だけでなく外国為替市場の歴史にも大きな転換点を残しました。

 

現在でも金融市場では、景気後退懸念や地政学リスク、金融機関への不安などから「リスク回避」の動きが意識される場面があります。そのたびに市場関係者は、リーマン・ショックで何が起きたのかを振り返り、相場の変化を分析しています。

 

FX初心者の方は、チャートだけではなく、「なぜ投資家はその通貨を買うのか」「市場ではどのような心理が働いているのか」という背景にも目を向けてみてください。リーマン・ショックは、為替市場の仕組みや投資家心理を理解するうえで、今なお多くの示唆を与えてくれる歴史的な出来事といえるでしょう。

この連載の一覧
第204回 リーマン・ショックと為替相場
第203回 プラザ合意、なぜ円高に
第202回 中央銀行は市場に勝てるのか
第201回 韓国ウォン急落、28年ぶり1500ウォン台
第200回 業者の「スワップ狙いはトルコリラ」に要注意
第199回 「最強の国」ランキング
第198回 ワールドカップ開催国と通貨
第197回 介入最大規模も、円安止まらず
第196回 日銀6月会合、利上げ実施か
第195回 ドルの基軸通貨の地位、揺るがないか
第194回 米中首脳会談、無難で終了
第193回 円買い介入も円売りポジションの解消進まず
第192回 加ドル、USMCAの見直しも重要なイベント
第191回 弱いのは日本、それとも円?
第190回 原油高・ユーロ安
第189回 ドル円は160円台回復、今後は?
第188回 イラン戦争、中国への影響
第187回 スイスフラン、なぜ強い
第186回 中東情勢に主要通貨の反応
第185回 経常収支の黒字は過去最大も、円安続く
第184回 中国・全人代、3月5日に開幕
第183回 ドル円、ドルの信認低下も重し
第182回 トランプ関税圧力と加ドル
第181回 円相場のカギは日本国債
第180回 2026年世界10大リスク-米調査会社
第179回 25年の中国貿易黒字、初の1兆ドル超え
第178回 金の台頭、ドルの支配に影響
第177回 人民元は堅調
第176回 FRB、来年の政策運営はなお不透明
第175回 円安、結局は再び介入との勝負か
第174回 円安、メリットとデメリット
第173回 実質為替レート 1ドル=270円
第172回 インフレと円安
第171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
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第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
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第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
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第119回 FXの確定申告
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第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
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第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
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第43回 原油相場と為替
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第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
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第31回 リスクオン・リスクオフ取引
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第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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