先週のトリプル安を振り返る
先週28-29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されました。
29日には政策金利の据え置きが決定され、投票結果は9対3(3名は利上げを支持)となりました。
市場では当初、ドル売りが進行。
更に、その後のウォーシュ米連邦準備理事会(FRB)議長の会見が始まると、ドルは下げ幅を拡大しただけでなく、米株は売られ、米債も売られる展開となりました。
この動きについて、朝の市場コメンテーターからは「米金融政策の不透明感によるドル売り」との解説も聞かれています。
しかし、米債が売られるということは米金利が上昇していることを意味します。
それにもかかわらず、なぜドルは売られたのでしょうか。
結論から言えば、市場や多くの著名エコノミストがウォーシュ議長に対して失望感を抱いたことが、ドル売りにつながったと考えられます。
風見鶏とも評されたウォーシュ氏――フォワードガイダンス廃止の余波
もともとウォーシュ氏には、政策スタンスが変化しやすいとの見方もありました。
ウォーシュ氏はブッシュ(子)政権期の2006年2月から2018年1月までFRB理事を務めています。
2008年のリーマン・ショック前後では金融システム防衛に協力する一方、その後の大規模な量的緩和(QE)や低金利政策については、一貫して非常に批判的な姿勢を示していました。
当時は「インフレリスク」を強く警戒し、FRBによる市場介入を抑制すべきだと主張する代表的な金融タカ派として知られていました。
しかし、トランプ前大統領がFRBの利上げを激しく批判し、「利下げ」を要求するようになると、ウォーシュ氏のスタンスには変化が見られます。
トランプ氏から次期FRB議長候補の一人として面接を受けるなど接近する中で、それまでのタカ派姿勢を大きく和らげ、「FRBはもっと金利を下げるべきだ」「金融引き締めは誤りだった」といったハト派寄りの主張を展開するようになりました。
こうした経緯から、就任前から市場関係者の間では「風見鶏」と見る向きもありました。
そして、ウォーシュ氏が初めてFRB議長として臨んだ6月のFOMCでは、ドットプロット(金利見通しチャート)やフォワードガイダンスといった、従来の情報発信のあり方を見直す動きを見せました。
さらに、6月17日のFOMCではウォーシュ議長自身がドットプロットに金利予測を提出しませんでした。
また、将来の政策金利の見通しを明確に示す従来型のフォワードガイダンスを抑制し、「データ次第で柔軟に対応する」という姿勢を強調しました。
これらの見直しの背景には、ドットプロットはあくまで参加者個人の予測に過ぎないにもかかわらず、市場が「FRBの約束された金利パス」と受け止め、不必要な混乱を引き起こしているとの考えがあります。
また、あらかじめ将来の金利予測を提示してしまうと、インフレや景気データが急変した際にFRB自身が過去のシグナルに縛られ、迅速かつ柔軟な政策判断が難しくなるためともされています。
6月のFOMC後は、これらの方針変更に対する市場の反応は限定的でした。
しかし、7月のFOMCでは状況が一変します。
声明文やウォーシュ議長の会見での質疑応答から、市場が求めていた政策判断の軸や今後の方向性を読み取ることができず、大きな失望感が広がりました。

著名エコノミスト・元FRB理事から批判相次ぐ
市場に明確なメッセージを与えなかったウォーシュ議長ですが、具体的な発言内容を見ると、その問題点が浮かび上がります。
どのインフレ指標を重視しているのかと問われると、PCE物価指数を示した後、すぐに「来年1月以降、どのような戦略になるか分からない。タスクフォースが何か付け加える可能性がある」と、その見解に条件を付けました。
つまり、来年1月以降のドットプロットやフォワードガイダンスをどのように変更するのかはタスクフォース次第であり、FRBが何を政策判断の基準にするのか現時点では明確ではないということになります。
今後、インフレが上昇した場合、あるいは景気減速によって物価上昇圧力が低下した場合でも、FRB議長自身が何を基準に判断するのか市場には不透明感が残ります。
それにもかかわらず、ウォーシュ氏は「5月以前のFOMCは物価安定への明確なコミットメントを欠いていた」と、自身が着任する前のFRBを批判しました。
これは、トランプ米大統領が「自分に問題はなく、前政権に原因がある」と主張する姿勢とも重なります。
市場は「トランプ化したFRB議長」にNO
今回の米国市場の動きは、単なる金融政策の不透明感だけでは説明できません。
為替市場、債券市場、株式市場は、ウォーシュ議長の政策運営そのもの、そして市場との対話姿勢に対して「NO」という判断を示したといえます。
次回のFOMCは9月15-16日に開催されます。
金融市場が求めているのは、単なる利下げや利上げだけではなく、政策判断の基準と方向性を明確に示すFRBの姿勢です。
今後もウォーシュ議長が市場との対話方法を改めず、明確な政策メッセージを発信できない状況が続けば、今回のような米国市場のトリプル安が再び発生するリスクがあることを知らずにやってはいけないでしょう。



