FXでは、米国の金利が上がるとドルが買われやすくなることがあります。その仕組みを理解するうえで重要なのが、1970年代末から1980年代初めにかけて米国で起きた「ボルカー・ショック」です。インフレを抑えるために大幅な金融引き締めを行い、米国経済だけでなく、世界の為替市場にも大きな影響を与えました。
米国を苦しめたインフレ
1970年代の米国では、原油価格の上昇などを背景に物価が上がり続けました。景気が弱いのにインフレが進む「スタグフレーション」と呼ばれる状況に陥り、政策運営は難しくなっていました。
物価を抑えるために金利を上げれば、企業や家計がお金を借りにくくなり、景気が悪化する可能性があります。一方、景気を支えるために金融緩和を続ければ、インフレがさらに深刻になるおそれがありました。米国は、この難しい選択に直面していたのです。
ボルカーFRB議長が選んだ強硬策
1979年、米連邦準備制度理事会(FRB)の議長に就任したポール・ボルカー氏は、インフレ抑制を最優先に掲げました。同年10月には金融政策の運営方法を変更し、通貨供給量の伸びを抑えることを重視する姿勢を明確にしました。
その結果、米国の政策金利は大きく上昇し、フェデラルファンド金利は1980年に一時20%に達しました。高金利は企業の借り入れや住宅購入を抑え、景気に強いブレーキをかけました。
失業率は上昇し、米国経済は1981~82年に深刻な景気後退を経験します。それでもFRBはインフレ抑制を優先し、金融引き締めを続けました。短期的な景気の痛みを受け入れてでも、物価を安定させるという強い姿勢を示したのです。
高金利がドル高に
この金融引き締めは、為替市場にも大きな影響を及ぼしました。一般に、ある国の金利が他国より高くなると、その通貨建ての預金や債券などの運用が魅力を増し、海外から資金が流入しやすくなります。米国の高金利はドルを保有するメリットを高め、ドル買いを促す要因となりました。
もちろん、為替相場は金利だけで決まるわけではありません。景気の先行きや貿易収支、投資家のリスク回避姿勢なども影響します。それでも、ボルカー期の経験は、金融政策が通貨の価値を左右する重要な要因であることを示しています。
インフレ抑制には時間がかかる
金融引き締めの結果、米国のインフレ率は1980年代初めにかけて低下しました。FRBが物価安定に本気で取り組むという姿勢を貫いたことで、長期的には金融政策への信頼回復にもつながりました。
ただし、その過程では景気後退や失業の増加という大きな代償が生じました。金利を引き上げれば、すぐに物価が下がるわけではありません。企業や家計の行動が変わり、需要が弱まり、物価上昇の勢いが落ち着くまでには時間がかかります。
この点は、現在の米国の金融政策を考える際にも重要です。インフレが高止まりしているとき、FRBが利下げを急がなければ、ドルを支える材料となる可能性があります。一方、景気や雇用が急速に悪化すれば、将来の利下げ観測が強まり、ドル安につながることもあります。
おわりに
ボルカー・ショックから学べるのは、金利の変化だけでなく、中央銀行が何を優先し、どこまで政策を続ける意思があるのかを見ることが大切だという点です。
FXでは、政策金利が高い通貨が必ず上昇するわけではありません。しかし、インフレ抑制のために高金利が長く続くと予想されれば、その通貨が買われやすくなる場合があります。



