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第216回 1987年のブラックマンデー

株価が一日で22.6%下落

1987年10月19日、米国の株式市場で歴史的な暴落が起きました。「ブラックマンデー」と呼ばれるこの日、ダウ工業株30種平均は前週末比508ポイント安、下落率は22.6%に達しました。現在に至るまで、同指数の一日の下落率として最大の記録です。

 

当時の米国株は、1982年から続いた上昇相場のなかで大きく値上がりしていました。しかし、米国の貿易赤字やドル安への懸念、金利上昇などを背景に、投資家の不安が強まり始めます。10月14日には予想を上回る貿易赤字が発表され、ドルが下落する一方、米国債利回りは上昇しました。株式の魅力が低下したことで売りが広がり、週明けの19日には世界の市場で一斉に株価が急落したのです。

 

売りが売りを呼ぶ

暴落の背景には、投資家の不安だけでなく、当時広がっていた金融取引の仕組みもありました。代表的なものが「ポートフォリオ・インシュランス」です。これは、株価が下がったときに株価指数先物などを売り、保有資産の損失を抑えようとする運用手法です。

 

ところが、多くの投資家が同じような売却を行うと、株価が下がるほど売り注文が増え、さらに株価が下落するという悪循環が生まれます。また、株式市場と先物市場では取引の仕組みや時間に違いがあり、売り注文が集中した際に価格の調整が追いつかなくなる問題もありました。市場参加者が一斉に売ろうとしても、買い手が十分にいなければ、価格は急激に下がってしまいます。

 

為替市場にも波及

ブラックマンデーは株式市場だけの事件ではありませんでした。米国の金融市場が混乱すると、投資家は株式や債券、通貨の保有を見直すため、為替相場にも影響が及びます。

 

当時は、1985年のプラザ合意でドル安が促され、1987年2月のルーブル合意ではドルの下落に歯止めをかけようとしていました。しかし、米国の貿易赤字や金融政策を巡る各国の考え方の違いが市場の不安を強め、ドルの動きも不安定になっていました。株価暴落後には、投資家が安全性や流動性を重視して資金を移す動きが広がりました。こうした資金移動は、ドルや円などの通貨の需要にも影響します。

 

ただし、危機の際に必ず円が買われる、あるいはドルが売られるという単純な関係ではありません。金利差や各国の政策対応、投資家がどの通貨を安全とみなすかによって、相場の方向は変わります。

 

FRBの対応が市場の安定に

暴落の翌10月20日、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融システムを支えるために必要な流動性を供給する用意があると発表しました。

 

「流動性」とは、金融機関や投資家が必要なときに資金を確保し、取引や決済を続けられる状態を指します。株価が急落しても、銀行が証券会社などへの融資を止めたり、決済が滞ったりすれば、金融市場全体がさらに混乱するおそれがあります。

 

FRBは市場への資金供給を支え、銀行にも通常の融資を続けるよう促しました。この対応は、市場の不安を和らげるうえで重要な役割を果たしたと評価されています。暴落後、米国経済は長期的な金融危機や深刻な景気後退に陥ることを回避しました。

 

FX初心者が覚えておきたいこと

ブラックマンデーから学べるのは、金融市場は株・債券・為替が互いにつながっており、一つの市場の混乱が別の市場へ波及するということです。為替相場を見るときは、金利や経済指標だけでなく、株価の急落や金融機関の信用不安、中央銀行の資金供給策にも注目する必要があります。

 

また、危機の際には「どの通貨が安全と考えられているか」が変わることがあります。ニュースの見出しだけで判断せず、投資家が資金をどこへ移しているのか、中央銀行がどのような対応を取っているのかを確認することが大切です。

 

おわりに

ブラックマンデーは、世界の金融市場が急速につながり、売買の仕組みや投資家心理によって危機が拡大することを示した出来事です。そして、金融市場が混乱したときには、中央銀行の発言や資金供給が投資家の心理を変え、相場の流れを左右することもあります。

 

FXでは、為替だけを見るのではなく、株価や債券、金融政策を合わせて考えることが、相場の背景を理解するための大切な視点になります。

この連載の一覧
第216回 1987年のブラックマンデー
第215回 2010年の欧州債務危機
第214回 ボルカー・ショック
第213回 「ルーブル合意」
第212回 英国の「ブラック・ウェンズデー」
第211回 FXの基本「金利と為替」の関係
第210回 1998年LTCM危機の円相場
第209回 ニクソン・ショックから学ぶ為替の仕組み
第208回 ブレグジット、ポンドが急落
第207回 安全資産・円の意外な正体
第206回 「アジア通貨危機」から学ぶ通貨の信用
第205回 2015年のスイスフラン・ショック
第204回 リーマン・ショックと為替相場
第203回 プラザ合意、なぜ円高に
第202回 中央銀行は市場に勝てるのか
第201回 韓国ウォン急落、28年ぶり1500ウォン台
第200回 業者の「スワップ狙いはトルコリラ」に要注意
第199回 「最強の国」ランキング
第198回 ワールドカップ開催国と通貨
第197回 介入最大規模も、円安止まらず
第196回 日銀6月会合、利上げ実施か
第195回 ドルの基軸通貨の地位、揺るがないか
第194回 米中首脳会談、無難で終了
第193回 円買い介入も円売りポジションの解消進まず
第192回 加ドル、USMCAの見直しも重要なイベント
第191回 弱いのは日本、それとも円?
第190回 原油高・ユーロ安
第189回 ドル円は160円台回復、今後は?
第188回 イラン戦争、中国への影響
第187回 スイスフラン、なぜ強い
第186回 中東情勢に主要通貨の反応
第185回 経常収支の黒字は過去最大も、円安続く
第184回 中国・全人代、3月5日に開幕
第183回 ドル円、ドルの信認低下も重し
第182回 トランプ関税圧力と加ドル
第181回 円相場のカギは日本国債
第180回 2026年世界10大リスク-米調査会社
第179回 25年の中国貿易黒字、初の1兆ドル超え
第178回 金の台頭、ドルの支配に影響
第177回 人民元は堅調
第176回 FRB、来年の政策運営はなお不透明
第175回 円安、結局は再び介入との勝負か
第174回 円安、メリットとデメリット
第173回 実質為替レート 1ドル=270円
第172回 インフレと円安
第171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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