28年ぶりの協調介入を行ったが・・・
ここで「日銀」という中央銀行の名前を出すのは、市場で実際に取引を行う主体として日銀の名前が出てくるためです。
ただ、為替介入を行う権限を持っているのは財務省であり、その背後には政権与党や財務相の判断があります。
金融機関は財務省と直接取引をするのではなく、日銀を通じて介入取引を行います。
そのため、市場では「日銀による介入」と認識されやすいのですが、実際に介入を決定する権限は日銀にはありません。
今回の介入は、ゴールデンウイーク中に行われた第1シリーズに続く第2シリーズとなりました。
ただし、今回は本邦単独の介入ではなく、米国との協調介入でもありました。
協調介入というのは非常に稀であり、単独介入とは意味合いが大きく異なります。
この点については、第207回「協調介入、なぜ単独ではないかを知らずにやってはいけない」で詳しく解説しています。
しかし、8月3日に行われた介入で157円後半から155.23円まで下落したドル円は、翌週の10日には159円台まで上昇しました。
わずか1週間で、介入によって生じた円高効果がほぼ剥落してしまったわけです。
28年ぶりとなる米国との協調介入まで行ったにもかかわらず、なぜこれほど短期間で介入効果が失われてしまったのでしょうか。
今回の介入を考えるうえでは、この点こそが重要なポイントになります。

メッセージの伝わらない介入
上述のような、協調介入という稀な出来事に、多くの市場関係者は驚きを隠せませんでした。
IMM通貨先物の非商業(投機)部門の円ポジションは、7月28日時点の16万3412枚の円売りから、介入後には4万5473枚まで減少し、7割以上の円売りポジションが解消されました。
ゴールデンウイーク中の介入と比較しても、今回は米国との協調介入だったこともあり、投機筋の円ポジション整理は大きく進んだわけです。
しかし、その後はパタッと介入が止まってしまいました。
この動きを見ると、ゴールデンウイーク中と同様に、160円台まで円安が進み、さらに「約40年ぶり」といったタイトルの報道が目立つようになった局面では介入を行うものの、為替水準そのものを押し下げるつもりはないのではないか、との見方も出てきます。
要するに、為替相場の急激な変動を抑える「スムージングオペ」に過ぎないのではないか、という判断です。
このようなスムージングオペとの認識が広がると、市場では円安を押し下げる介入への恐怖感がなくなります。
仮に再び介入が行われたとしても、「155円近辺まで下がったら買えばいい」という判断になり、円安地合いそのものが止まらなくなります。
むしろ、輸入物価指数が上昇しようとも、高市政権はそれを意に介さず、155円までの円安を容認しているのではないかと、市場に受け取られてしまう可能性さえあります。
空振りに終わるのか?
今回は、米国が協調しただけでなく、米国からの圧力を背景に、9月の日銀利上げも促す形となりました。
通貨当局としては、異例ともいえる米国との協調介入と日銀の利上げを組み合わせることで、円安の流れを食い止められるとの判断があったのかもしれません。
ただ、介入が止まれば再び円安に戻るのは自然な動きです。
そもそも今回の円安の根本には、高市政権が財政健全化への責任を後退させた政策運営があります。
具体的には、「骨太の方針」から財政健全化目標を除外したことや、トランプ米大統領との合意に基づく対米投資など、円安を促す政策が続いています。
そして、それに加えて為替を押し下げる姿勢が見えないのであれば、市場は介入を恐れなくなります。
輸入業者によるドル買い決済についても、政府からのメッセージが伝わらなければ、「下がったら円を売る」という対応を取らざるを得なくなります。
第205回「対話ができない政治・・・市場にメッセージが伝わないことを覚悟しなくてはやってはいけない」記載しましたが、市場にメッセージが伝わらないことは、結果として国益を損ないます。
本邦の実需勢にとっても同じです。
輸入業者が先行してドルを買う輸入予約を行おうとしても、政府が為替について曖昧な態度を取り続ければ、どの水準でドルを確保すべきなのか判断することが難しくなります。
協調介入と日銀の利上げという異例の組み合わせまで行ったにもかかわらず、その後の政策姿勢が曖昧なままであれば、今回の介入も市場に十分なメッセージを伝えられないまま、空振りに終わってしまう可能性があります。
政府VS市場
今回の介入の効果の乏しさ、そして市場へのメッセージの弱さを見ると、1992年のポンド危機を思い出します。
当時、英系金融機関で働いていましたが、イングランド銀行(BOE=英中銀)は、私が働いていた東京支店にも電話をかけてきて、為替介入を行いました。
しかし、いわゆるソロス氏による強烈なポンド売りに対抗することができず、ポンドは「ERM(欧州為替相場メカニズム)」から離脱することになりました。
ちなみに、ソロス氏の下でベッセント現米財務長官も働いていました。
今回とは状況が異なりますが、現在の日本では、政権が円安を促す政策を続けています。
放漫財政、米国への積極的な投資、リフレ派の日銀審議委員の採用など、円安を促す政策が続くなかで、円安を止めるための手段は限られてきています。
さらに、今回の一連の介入がスムージングオペにとどまるとの認識が市場に広がれば、次回は介入後に円安へ戻るスピードがさらに速くなるでしょう。
そして最悪の場合、ポンド危機のように、市場の圧力に政府が勝てない局面が訪れる可能性も念頭に置いて、取引をしなければならないのかもしれません。



